1歳5か月,女児.身長82.5 cm(+0.6 SD),体重9.1 kg(−0.6 SD).在胎39週6日,出生体重3244 g.周産期歴・健診に特記なし.8か月でつかまり立ち,1歳2か月で独歩.入院17日前から発熱があり,入院12日前に歩行困難が出現し,抗菌薬を処方された.入院9日前に解熱したが,歩行困難は持続した.入院当朝から活気低下,経口摂取不良,眼瞼浮腫が出現したため前医を受診した.胸部X線で心拡大,心臓超音波検査で左室駆出率の低下を認め,精査加療目的に当科へ転院搬送され,PICUへ入室した.
転院時,呼吸数60回/分,心拍数140回/分,上肢血圧150/90 mmHg,酸素鼻カヌラ3 L/分吸入下で経皮的酸素飽和度は90%前半であった.胸部レントゲン写真で心胸郭比70%の心拡大を認めた.心臓超音波検査でLVEF 24%と心収縮は低下しており,左室拡張末期径(LVDd)46.4 mm(正常比171%)の左室拡大と中等度の僧帽弁閉鎖不全を認めた.心筋の菲薄化は目立たず,冠動脈起始異常を含めて先天性心奇形は認めなかったが,横隔膜レベルでの下行大動脈の狭窄を認めた.下肢血圧は50/40 mmHgと血圧上下肢差を認めた.また,血液検査でBNP 11,267 pg/mLと高値だったが,肝胆道系酵素,腎機能,電解質に明らかな異常所見はなかった.炎症反応の上昇はなく,抗核抗体,リウマトイド因子,P-ANCA/C-ANCAは陰性で,活動性の血管炎は否定的であった.造影CT検査では横隔膜上の胸部大動脈に著明な狭小化を認め,異型大動脈縮窄症と診断した(Fig. 1A, B).狭窄部前後の下行大動脈血管径は約8 mmで,最狭部は1.0 mm,狭窄部の全長は約24 mmあった.また,狭窄部では下行大動脈血管壁組織の肥厚を認め,狭窄部の下端付近からAdamkiewicz動脈が起始していた.
〈治療方針の検討〉
外科的修復では,側開胸に加えて開腹も必要になること,循環停止時間が長時間になること,狭窄部周囲の側副血行により出血量が多くなることから侵襲が非常に大きいと予想された.一方で,ステント留置では大動脈解離や穿刺血管の損傷のほか,ステントのサイズによっては将来的な介入必要となるが,最終的にはより低侵襲であるステント留置術を行う方針とした.ステントのサイズは,本児の体格からは6 Frシース対応のミディアムサイズが至適と考えられたが,超音波検査で右大腿動脈内径が3.1×3.9 mm,左大腿動脈内径が3.4×4.1 mmであったため,7 Frシースの留置は許容されると判断し,5 Frシース対応のバルーンにラージサイズステントをマウントすることで,シースのサイズダウンする工夫を考えた.事前に体外で確認し7 Frシースのバルブ部分をステントが通過しない場合はシースのバルブ部分を切断して8 Frまたは9 Frシースのバルブ部分と7 Frシースのシースカニューレ部分を接続し,バルブ部分のみサイズアップする方針とした.本改変ロングシースは,実際に使用する前に体外でのベンチテストによりステント・バルーンシステムの通過性と安定性を確認したのちに,手技を行った.また,適応外の改変であり,施設内でのカンファレンスでの治療検討,および倫理審査を受けて,施行した.安全性を重視し,本論文でのデバイス改変は症例を選択して慎重に実施すべきである.ステント留置術については,患者家族に十分な説明を行い,同意を得た.
〈ステント留置術〉
入院9日目にステント留置術を施行した.造影CTでは狭窄が非常に強く,末梢側がより高度であったため右腋窩動脈穿刺で狭窄部には頭側からアプローチする予定とした.全身麻酔下で左右大腿動脈に4 Frショートシース,右腋窩動脈に4 Frショートシースを留置したのち,ヘパリン100単位/kgを静注した.上行大動脈圧は110/50 mmHg,狭窄部末梢側の下行大動脈圧は50/46 mmHgであった.上行大動脈からの造影で,大動脈縮窄部の頭側血管径2.3 mm,末梢側血管径1.1 mm,狭窄部の長さは20.5 mmであった(Fig. 2A).参照血管径は狭窄部の頭側で8.1 mm,末梢側で7.1 mmであった.側副血行路の発達があり,狭窄部より末梢側から起始しているAdamkiewicz動脈は側副血行路を介して逆行性に造影された.
0.035 inchラジフォーカス®ガイドワイヤー(テルモ株式会社,東京)は腋窩動脈側から狭窄部を抵抗なく通過した.右大腿動脈から挿入したGoose Neck™スネア10 mm(Medtronic, Minneapolis, MN)で頭側から通したラジフォーカス®ガイドワイヤーを把持して,右大腿動脈シースの外に引き出し,ワイヤーループを形成した.これをガイドに右大腿動脈から4 Frマルチパーパスカテーテル(CXカテーテルJA1,ガデリウスメディカル株式会社,東京)を挿入し,末梢側から狭窄部を通過させた,当初は3 mmバルーンでの前拡張を予定していたが,ガイドワイヤーおよび4 Frマルチパーパスの通過が容易であり,ロングシースが抵抗なく進められると判断した.狭窄が高度であったため,前拡張による血管損傷をきたした場合,ロングシースの通過に支障が出る可能性を懸念し,前拡張を行わずに手技を施行した.
Palmaz P308®(Cordis, Miami Lakes, FL)を5 Frシース対応のPowerflex® 8 mm/4 cm(Cordis, Miami Lakes, FL)にマウントし,造影剤で糊付けしたのちYコネクターを用いて十分圧着させた.まず,体外にて本システムが7 Fr Brite Tip® 45 cmを通過するか確認したが,バルブ部分を通過する際にステントがスリップしてしまい,通過しなかった.バルブ部分のサイズアップが必要と判断,7 Fr Brite Tip®(Cordis, Miami Lakes, FL)のバルブの部分とシースカニューレ部分を切断し,次に,バルブ部分から1 cm程度シースカニューレ部分を残して切断した8 Fr Brite Tip®を準備し,7 Fr Brite Tip®のシースカニューレ部分とオーバーラップさせて結合させた(Fig. 3).これにより,体外でステントシステムがロングシースを抵抗なく通過することを確認した.右大腿動脈から挿入した4 FrマルチパーパスカテーテルにAmplatz Super Stiff™ガイドワイヤー(Boston Scientific, Marlborough, MA)を通し,その先端を左鎖骨下動脈に留置した.8 Fr Brite Tip®のバルブ部分と結合させた7 Fr Brite Tip®をワイヤーガイドでゆっくり進めたところ,狭窄部を抵抗なく通過することができた.ロングシースの先端が狭窄部を超えていることを確認し,ダイレーターを抜去した.
Palmaz P308®をマウントしたPowerflex® 8 mm ×40 mmのシステムをロングシースに挿入した.初回のトライではステントがずれてしまったため,Yコネクターと0絹糸を用いてあらためて十分に圧着させた上で,再度システムの通過を試みた.バルブ部分を超えたところでわずかに抵抗があったが,通過後は問題なくシステムを進めることができた.ステントをロングシースの先端に進め,右腋窩動脈から4 Frピッグテイルカテーテルを留置し,Hand push造影にて位置確認を行った.ステントを半分程度アンカバーして,複数回の位置確認造影を行い,最狭窄部がステント中央になり,かつ狭窄部全体がカバーされるようにステントの位置決めを行った.
続けて,頭側からの造影で確認しながら,ステント全体をシースからアンカバーし,ステント位置がずれないようにゆっくりinflationを開始,バルーンがdog bone形状になったところで最終的な留置部位が問題ないことを確認して,8 atm(Nominal Pressure)まで拡大した.ステントの上下端はフレア形状となり,狭窄部頭側,末梢側とも血管壁に良好に圧着していた.最狭部も正面像で5.2 mm,側面像で4.5 mmまで拡大し,圧較差は10 mmHgまで改善した(Fig. 2B).留置後の造影で大動脈解離の所見は認めず,Adamkiewicz動脈などの正常血管の明らかな閉塞を疑う所見も認められなかったため,手技を終了した.シースを抜去後,7 Fr Brite Tip®を挿入した右大腿動脈の止血には40分ほど要したが,下肢脈は触知できた.挿管のままPICUへ帰室した.
〈治療後経過〉
術後はヘパリンの持続投与10単位/kg/時間で3日間行い,術後翌日からアスピリンの内服を開始した.術後の経過は良好で,ステント留置術後翌日に抜管し,術後5日でPICUを退室した.帰室後,心臓超音波検査ではLVEFは25%から34%に改善していた.カテコラミンは術後3日目に漸減終了した.術後7日目に右腋窩部の腫脹を認め,超音波検査で腋窩動脈穿刺部における仮性瘤の形成を確認した.腋窩動脈から瘤内に吹き込む血流が確認できたため,鎮静下で約1時間の用手圧迫を行い,瘤は消退した.入院中にACE阻害薬の内服を開始.ステント留置後24日目の心エコーで,心収縮能はさらに改善し,LVEF 55%, LVDd 29.2 mm(正常比106%)とほぼ正常化した.ACE阻害薬,アスピリンの内服で術後29日目に退院となった.
ステント留置後半年で心臓カテーテル検査を施行し,造影で最狭部は2.7 mmと再狭窄を認めた.Mustang® 8.0/40 mm(Boston Scientific, Marlborough, MA)にて後拡張のバルーン拡大術を行い,最狭部は7.9 mmに拡大した.圧較差は38 mmHgから4 mmHgに改善した.なお,右大腿動脈は穿刺部での閉塞を認めたが,臨床的な症状は見られなかった.現在,術後2年が経過し,ACE阻害薬の内服のみで良好な経過を維持している.
異型大動脈縮窄症(atypical coarctation of the aorta)は,遠位胸部から腹部大動脈の区域的狭窄により生ずる症候群と定義されており,小児期から若年成人までに上半身の高血圧や頭痛,腹部臓器の虚血症状,間欠性跛行などの臨床症状が出現する疾患である2).病因としては多くは特発性とされるが,大動脈の発生異常,胎生期の梅毒等による感染症などの先天的成因と,神経線維腫症やWilliams症候群,大動脈炎症候群などを原因とする後天的成因が考えられている2, 3).本症例は,当院受診2週間前から間欠熱を繰り返しており,何らかの先行感染の存在も疑われるが,大動脈縮窄の原因として同定できるものはなかった.また,その後の精査でも全身性血管炎の所見は認めず,腹部大動脈以外の血管に狭窄病変がないことから,特発性と考えられた.
先天性および小児期発症心疾患に対するカテーテル治療の適応ガイドライン(2024年改訂)では,大動脈縮窄症の術後再縮窄に対しては縮窄部収縮期圧較差が20 mmHg以上でステント留置がクラスIで推奨であり,また,未治療縮窄症例でも,一次治療として,成人の大動脈径まで拡大できるステント留置の考慮がクラスIIaでの推奨となっている4).乳幼児期の異型大動脈縮窄症では,外科的手術,ステント留置術,バルーン拡大術が治療選択肢となる.一般に外科手術が第一選択とされているが,侵襲度を考慮してカテーテル治療も初回治療として選択される症例もある1, 5).外科手術の手法としては,人工血管置換術,大動脈形成術,バイパス術があげられる.上行大動脈~腹部大動脈バイパス術が,小児の体外循環を最も確立しやすい術式であるが,術後は,肺合併症のリスクや大動脈遮断に伴う対麻痺の危険性がある6).カテーテル治療ではバルーン拡大術に比べ血管内膜の損傷がより少なく,治療効果が高いため,ステント留置が原則推奨される5, 7, 8).手術侵襲や血管炎による狭窄の場合などで術後の長期予後に懸念がある場合は姑息的なステント留置も考慮される1).小児のステント治療の中期的な予後は比較的良好で,再狭窄,及びステント内の内膜増殖の発症率はそれぞれが10~20%, 25%とされる9).また,体の成長に対応するために,複数回の拡張術が必要な場合が多い10, 11).
本症例は体重9 kgと体格が小さく,大腿動脈へのシース留置は6 Frシースまでが望ましいと想定され,ミディアムサイズステントが第一選択と考えられた.しかし,ミディアムサイズステントでは後拡張をおこなったとしても11–12 mm程度までしか拡大できず,成人体格相当の大動脈径までの後拡張は期待できない.最終的には成人期に下行大動脈への外科的介入が必要となり,将来的な侵襲が大きくなることが問題点となる.したがって,ステント治療を行うのであれば,成人の体格まで拡大可能なラージサイズステントの留置を行う方針とした.
乳幼児の大動脈縮窄症に対するステント留置術では穿刺血管径とシースとの関係が問題となる.前述の3か月男児の異型大動脈縮窄症例に対してミディアムサイズステントを留置した報告では,体重7.5 kgの症例に対してOmnilink elite® 10 mm(Abbott, Chicago, IL)をMustang® 5 mmバルーンにリマウントすることでロングシースを7 Frから6 Frへサイズダウンして留置に成功している1).本症例では右大腿動脈の直径は3.1×3.9 mm,左大腿動脈の直径は3.4×4.1 mmで,6 Frのシースは使用可能と想定され,ミディアムサイズステントの留置は通常の手技で可能であると考えられた.さらに,既報のテクニックを応用し,シースをサイズダウンできればより低侵襲で施行可能と推測された.
成人期まで拡張を行えるラージサイズステントとしてはPalmaz P308®が候補となり,8 mm径のバルーンにマウントして留置する必要がある.8 mm径のバルーンは6 Frシースに対応するものがほとんどであり,ステントをデリバリーするロングシースは2 Frアップの8 Frシースを要する.一方で,ステントがリマウントしやすく,国内で使用できる8 mm径のバルーンのうち,Powerflex®のみが5 Frシースに対応しており,Powerflex®にPalmaz P308®をマウントすることが可能であれば,7 Frのシースでのステント留置が可能となると考えた.懸念点としては,5 Frシースに対応するバルーンのプロファイルが小さくステントを十分に圧着ができない可能性があること,マウントできたとしても7 Frシースのバルブ部分をステントシステムが通過できない可能性があることが挙げられた.前者については,造影剤を用いて糊付けしたのちにYコネクターと絹糸で十分に圧着させることで問題なくマウントすることが可能であった.後者については,体外でステントシステムを7 Fr Brite Tip®に通すことを試みたが止血弁部分の通過が難しく,7 Fr Brite Tip®ブライトチップのシース部分を切断し,オーバーラップさせて8 Fr Brite Tip®のバルブ部分と結合させることにより,ステントが通過することができた.この際,体外でシステムのスムーズな通過を確認してから,実際の手技を行うことは重要である.このように,マウントするバルーンの選択やロングシースを工夫することで,小さな体格の児にも,より低侵襲にステントを留置することが可能になる.成人体格まで後拡張が可能なラージサイズステントの留置ができたことが将来的な再介入の必要性を下げることができ,メリットは大きいと考えられる.
一方で,結果的に術後評価のカテーテル検査時に判明した右大腿動脈閉塞を防ぐことができなかった.一般的に血管閉塞のリスクファクターとして,血管径に対してシースサイズが大きいこと,長いシースを用いることが挙げられており,特に大腿動脈径が3 mm未満,シースの外径/血管径の比が0.4を超える場合は注意が必要である12).また,体重15 kg未満の症例におけるロングシースの使用が血管閉塞のリスクであったという報告もなされている13).本症例では,大腿動脈径は3 mmを超えていたが,7 Frロングシースの外径2.74 mmに対して右大腿動脈血管径が3.1×3.9 mmであり,シースの外径/血管径の比0.70 – 0.88と血管閉塞のリスクが高い症例であった.さらに,ロングシースはキンク防止構造が加わっているため摩擦抵抗が上昇することから血管損傷リスクが上がる.今後は上記のリスクも考慮し,手技後により丁寧に血管閉塞の有無の評価を行うことや,カットダウンで血管確保して手技後に血管形成術を行うことなどの対応も検討すべきである.