Journal of JCIC

Online edition: ISSN 2432–2342
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Journal of JPIC 3(1): 18-23 (2018)
doi:10.20599/jjpic.3.18

原著Original Article

卵円孔を介した全身性塞栓の頻度,発症形態,治療についてSystemic embolic event caused by patent foramen ovale: incidence, embolic destinations, treatment

徳島赤十字病院循環器内科Division of Cardiology, Tokushima Red Cross Hospital

受付日:2018年5月31日Received: May 31, 2018
受理日:2018年6月1日Accepted: June 1, 2018
発行日:2018年7月31日Published: July 31, 2018
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背景:心房細動における全身性塞栓は0.24%と脳梗塞の1.92%に比し,低い発症頻度である.奇異性塞栓の初発症状にも脳梗塞および全身性塞栓があるが全身性塞栓については報告が少ない.

目的:卵円孔(PFO)を介した奇異性塞栓症例の全身性塞栓の頻度および初発症状,その後の治療などについて検討すること.

方法:2006年5月から2017年10月までに当院で施行された,心エコー15万7310例のうち,経食道エコー(TEE)が2200例に施行された.TEEの結果,305例がPFOと診断された.塞栓源精査は157例あり今回の対象とした.内訳は脳梗塞148例,全身性塞栓9例,急性心筋梗塞症1例であった.心房細動と4 mm以上の可動性大動脈プラークを有する例は除外した.記録からバブルテストがgrade1 以上をPFO(grade 0: 左房内バブルが1視野に0, 1–5個:grade 1, grade 2: 6–20個,grade 3: 20個以上)と定義した.

結果:平均年齢は64.6±11.2歳,女性103人(33.8%)であった.全身性塞栓の初発症状として急性動脈閉塞症が9例あり,奇異性塞栓と確定診断された症例は3例であった.急性心筋梗塞を発症した奇異性塞栓例が1例あった.TEEでPFOを認めた305例を母集団とした頻度は1.3%,脳梗塞と全身性塞栓発症例を母集団とした場合の頻度は2.5%であった.経皮的閉鎖術(急性動脈閉塞1例,急性心筋梗塞1例)を2例に施行し再発は認めていない.

結語:PFOを有する症例に発症する全身性塞栓の頻度は少数ではあるが心房細動より多い頻度であった.心房細動が記録されていない全身性塞栓例では奇異性塞栓の検索が必要である.

Background: The incidence of systemic embolic events (SEE) in atrial fibrillation (Af; 0.24%/100 person-years) was lower than that of cerebral embolism (1.92%/100 person-years). Stroke and SEE were also primary symptom of paradoxical embolism. There are few reports described SEE caused by paradoxical embolism of patent foramen ovale (PFO).

Objective: To evaluate the incidence, primary symptom and treatment of SEE caused by paradoxical embolism of PFO.

Methods and Results: From May 2006 to October, 305 patients were diagnosed with PFO by transesophageal echocardiogram (TEE) with bubble test. 157 patients (103 women, mean age 64.6±11.2 yeas) were examined in a search for source of embolism (148 stroke, 9 SEE. 1 acute MI). TEE was conducted with bubble test and Valsalva maneuver under local anesthesia: shunt grading (grade 0=none, grade 1=1 to 5 bubbles, grade 2=6 to 20 bubbles, grade 3=>20 bubbles). Primary symptom of SEE was 9 acute ischemia of lower–extremity. 3 patients of acute ischemia of lower–extremity and one acute myocardial infarction were diagnosed paradoxical embolism caused by PFO. Incidence of paradoxical SEE in the 305 patients with PFO was 1.3%. On the other hand, that in the 157 patients with stroke and SEE was 2.5%. Two patients were treated percutaneous PFO closure without any complication.

Conclusions: Incidence of paradoxical SEE in patients with PFO was few, but more frequent than that caused by Af. Patients with SEE without atrial fibrillation should be examined for source of embolism.

Key words: paradoxical embolism; patent foramen ovale; systemic embolic events

はじめに

心房細動から発生した心内血栓による脳塞栓については良く知られているが,全身性塞栓についてはあまり報告がない.Bekwelemら1)の検討では非弁膜症性心房細動によっておこる全身性塞栓は0.24%と脳梗塞の1.92%に比し,低い発症頻度であったと報告している.奇異性塞栓は原因不明の脳梗塞の原因とされている.奇異性塞栓の初発症状にも脳梗塞および全身性塞栓があるが全身性塞栓については報告が少ない.

この研究の目的は卵円孔(PFO)を介した奇異性塞栓症例の全身性塞栓症例の頻度および初発症状,その後の治療などについて検討すること.

方法

対象

2006年5月から2017年10月までに当院で施行された,心エコー15万7310例のうち,経食道心エコー(TEE)が2200例に施行された.TEEの結果,305例がPFOと診断された.その中から検査目的が塞栓源精査であった症例を今回の検討対象として抽出した.塞栓源精査は157例であった.平均年齢は64.6±11.2歳で,女性103人(33.8%)であった.発作性および持続性(慢性)心房細動と4 mm以上の可動性大動脈プラークを有する例は除外した.入院中3日間は心電図モニタリングを行い発作性心房細動の有無を評価した.

検討項目

患者背景,冠危険因子,深部静脈血栓症,奇異性塞栓症例の全身性塞栓症例の頻度および初発症状およびその後の抗血栓療法や経皮的治療の有無などについて検討した.

経食道心エコー

標準的な経食道心エコープロトコールは左心耳血栓の有無,左心耳血流の計測,4本の肺静脈の左房への還流,上行大動脈のプラークの有無とプラークがあれば最大厚(mm)の計測,大動脈弁複合体,僧帽弁複合体における疣贅や弁輪石灰化など塞栓源の有無,下行および弓部大動脈に4 mm以上のプラークの有無を検索した.心房中隔については心房中隔欠損症の有無,心房中隔の形態,右左シャントの有無を検索したのち,用手撹拌した生理食塩水を安静時およびバルサルバ負荷時に注入するバブルテストで評価した.以前の報告2)から15 mm以上突出したものを心房中隔瘤,10 mm以上の可動性を有するものをhypermobilityと定義した.PFOは2 mm以上のスペースあるもの,持続性または間欠的に右左または左右シャント血流があるもの,記録からバブルテストがgrade 1以上をPFOと定義した.バブルテストの評価は左房内バブルが1視野に0をgrade 0, 1–5個をgrade 1, 6–20個をgrade 2, 20個以上をgrade 3とした3)

結果

患者背景

高血圧と喫煙を約半数に認め,糖尿病を41%認めた.深部静脈血栓症は9人(6.1%)と少数であった(Table 1).

Table 1
Age64.6±11.2
Woman103 (33.8%)
Hypertension80 (50.8%)
Diabetes mellitus65 (41%)
Smoking85 (54.0%)
Deep vein thrombosis9 (6.1%)

PFO形態

PFOの形態では中隔瘤を17人(10.8%)に,hypermobilityを75人(47.8%)に認めた.持続性の右左シャントを50人(31.8%)に認めた(Table 2).

Table 2
PFO height ≧ 2 mm27 (17.2%)
R→L shunt50 (31.8%)
L→R shunt40 (25.5%)
Septal aneurysm17 (10.8%)
Tunnel-like appearance72 (45.9%)
Chiari’s network, Eustachian valve10 (6.3%)
Hypermobility75 (47.8%)
n=157

塞栓症状とその頻度

初発症状の内訳は脳梗塞148例,下肢動脈閉塞9例,急性心筋梗塞症1例であった.

TEEでPFOを認めた305例を母集団とした頻度は1.3%,脳梗塞と全身性塞栓発症した157例を母集団とした場合の頻度は2.5%であった.

治療

抗血栓療法ではワーファリン42%,アスピリン18%,抗血小板療法と抗凝固療法の併用10%,クロピドグレル7%,二剤抗血小板療法6%,新規抗凝固療法4%,抗血栓療法なし13%であった(Fig. 1).

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Fig. 1 Breakdown of antithrombotic treatment

Amplatzer cribriform 25 mmを使用した経皮的閉鎖術(急性動脈閉塞1例,急性心筋梗塞1例)を2例に施行し再発は認めていない.

Fig. 2–7に80歳代の急性心筋梗塞症例を示す.胸痛と心電図でST上昇を認めた.緊急冠動脈造影では近位部に完全閉塞を認めた(Fig. 2).血栓吸引を行った後の血管内超音波では,軽度の内膜肥厚以外の病変を認めなかった(Fig. 3).塞栓源精査の経食道エコーでは持続性の両方向性シャントを認め(Fig. 4),バブルテストではgrade 3と診断した(Fig. 5).血管エコーでは左膝下静脈に深部静脈血栓症を認めた(Fig. 6).その他の塞栓源がないことから経皮的閉鎖術を施行した.術後のバブルテストでは有意な右左シャントを認めなかった(Fig. 7).1年を経過して再発は認めていない.

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Fig. 2 a: Emergent coronary angiography showed total obstruction of proximal left anterior descending artery (LAD). b: Final coronary angiography showed no significant stenosis after thrombectomy

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Fig. 3 Intravascular ultrasound showed no evidence of atherosclerotic plaque in the LAD

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Fig. 4 Transesophageal echocardiography showed bidirectional shunt flow through PFO

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Fig. 5 Bubble test without Valsalva maneuver under local anesthesia showed grade 3=>20 bubbles

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Fig. 6 Deep vein thrombosis was detected in a vein of soleus muscle

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Fig. 7 Bubble test without Valsalva maneuver showed grade 0=0 bubbles after PFO closure

考察

奇異性塞栓は下肢または骨盤内静脈に形成された血栓が,右房圧が一時的に左房圧を超えて,右左シャントとなった際に卵円孔を通過して体循環に流入し各臓器へ飛散すると考えられている.

奇異性塞栓は脳以外では四肢末梢動脈,冠動脈,腎動脈,腸間膜動脈など各臓器で塞栓を発症すると考えられる.卵円孔は健康成人でも25%に存在するとされ,奇異性塞栓として発症する脳梗塞や全身塞栓の塞栓源とも考えやすい.今回,全身性塞栓で検討した157例の内,148例(94%)は脳梗塞であった.卵円孔開存による神経症状としては脳梗塞,偏頭痛,認知症,一過性の虚血発作などがある4–6).今回は当院が急性期病院ということもあり,神経症状としては脳梗塞患者のみが対象であった.冠動脈閉塞や四肢末梢動脈閉塞の場合は塞栓源精査を依頼されることが多いと考えられるが,その他の動脈塞栓では心房細動がなければ精査されていないことも多いと考えられる.今回検討した急性動脈閉塞症例の中に病理で赤色血栓と診断された症例を1例認めた.深部静脈血栓を合併したことや再発リスクが高い卵円孔の形態でもあり経皮的閉鎖術を施行した.摘出した血栓の病理は確定診断に有用と考えられた.今回の検討では148人/157人(94%)が脳梗塞であったが,心拍出量の15%は脳血流とされていることを考えると脳梗塞以外の全身性塞栓の診断が不十分であると予想される.腹部の実質臓器(腎臓,脾臓など)では無症状のことが多く過少評価されていると考えられる.心房細動が記録されていない塞栓症例では積極的に奇異性塞栓を疑う必要があると考えられた.

結語

PFOを有する症例に発症する全身性塞栓の頻度は少数ではあるが心房細動の全身性塞栓より多い頻度であった.今回の検討では塞栓症状として急性動脈閉塞症と急性心筋梗塞症を発症していた.治療は抗凝固療法が選択されるがPFO形態,出血リスクなども考慮し,経皮的治療も検討してもよいと考えられた.心房細動が記録されていない全身性塞栓例では奇異性塞栓の検索が必要である.

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