末梢性肺動脈狭窄に対するバルーン拡大術Balloon Angioplasty for the peripheral pulmonary stenosis
広島市立広島市民病院循環器小児科Department of Pediatric Cardiology, Hiroshima City Hospital
末梢肺動脈に対するバルーン血管形成術は二心室循環では肺室圧が体血圧の75%以上,それ以下でも臨床症状を有するもの,広範な還流障害がある場合に適応となる.病変が多岐にわたる場合,低年齢の小児,等圧~肺心室圧が体心室圧を凌駕する症例はハイリスクと考え,全身麻酔や二本の静脈シースを確保するなどの準備を考慮する.末梢肺動脈へ到達する経路で心室内を通過する場合,心内構造物を損傷しないよう注意を要する.先天性の病変部では近接正常部径の1.1–1.15倍まで,術後病変では1.5–1.75倍までのNon-compliantバルーンを選択する.拡張中にウエストがバルーン径の50%以上で出現した場合はburst圧まで拡張させ,50%未満でウエストが出現した場合は小径のバルーンに変更する.拡張により生じた瘤が急激に拡大する,既に血管外への露出が見られる場合は血液凝固能を速やかに正常化させ,バルーンを病変部位で再拡張させ止血を図る.瘤の拡大や血管外露出が続く場合はcoilやplugなどでの閉塞を考慮する.
Balloon angioplasty of branch pulmonary artery stenosis is indicated in the patients when pulmonary ventricular pressure is more than 75% of systemic ventricular pressure and/or they have significant symptoms. General anesthesia and two venous sheaths must be prepared for the patients such as young, with multiple lesions and with over-systemic pulmonary ventricular pressure. The size of the initial balloon must not be larger than 1.1 to 1.15 times the distal reference portions of the vessel in native stenosis, and 1.5 to 1.75 times in post-surgical stenosis. When the resistant waist is less than 50% of the balloon diameter, full inflation should be avoided and the smaller sized balloon must be used. When the aneurysm is seen in the angiography just after the balloon dilation, this aneurysm should be evaluated after 5 to 30 minutes again. If an aneurysm is enlarging rapidly or there is disruption and breeding, the balloon should be immediately inflated at or slightly proximal to the region to control breeding. If the enlargement of aneurysm or bleeding continues, occlusion of the vessel with coil or plug must be considered.
Key words: branch pulmonary artery stenosis; balloon angioplasty; catheter intervention; non-compliant balloon
© 2018 日本Pediatric Interventional Cardiology学会© 2018 Japanese Society of Pediatric Interventional Cardiology
左右分枝部~末梢肺動脈狭窄は先天性,術後の二次性狭窄のいずれでも生じうる.先天性狭窄病変は他の先天性心疾患(congenital heart disease: CHD)に合併するもの,William’s症候群,Alagille症候群,先天性風疹症候群などの全身性疾患の一症状として現れるもの1, 2),心内/心外病変を伴わず独立して見られるものがある.CHDにはその2–3%に合併し,特にファロー四徴(極型含む),総動脈幹遺残をはじめとする動脈幹発生異常に伴うものが代表的であるが,他のどのCHDにも合併しうる3).先天性の狭窄病変は,血管壁が構造的にも病理学的にも正常肺動脈とは大きく異なり,かつ術後病変とも異なり血管周囲にいわゆる“protective scar tissue”なるものは存在しないため,バルーン拡張術における合併症のリスクが有意に高いが,特に全身性疾患に伴うものではより高い1, 2).狭窄は,局所的なものから比較的長い領域にわたって低形成になっているものもある.
一方,術後の狭窄は特にシャント吻合部,パッチ形成端,統合術の吻合部など,手術瘢痕,内膜肥厚によるものが最も一般的であるが,Norwood術や大血管スイッチ(Jatene)術後などでは肺動脈の捩れ,張力もしくは圧迫によって狭窄が生じることもある3).
肺動脈は,左右の肺及び全肺野へ並列に血流を供給する.従って一部のみの狭窄では,関連領域の血流低下をきたすが,他の非病変領域へ血流が再分配されるため右室圧の上昇は顕著でない.しかしながら狭窄が多発性になると右室圧の上昇が生じてくる3).
臨床症状は,区域性の肺血流量低下に伴う二次的なもの,もしくは右室圧上昇によるもの,またその両方である.
区域性の肺血流量低下に伴う症状は運動量が少ない状態では表面化しにくいため,低年齢で見られることは稀である.高度の狭窄を伴う場合には,成長に伴い運動量が増えてくると換気血流不均衡による運動時の呼吸困難や,長期に渡る血流減少により患側の肺の成長障害をきたすことがある3).
二心室循環が確立している状態における両側分枝部狭窄,もしくは多発性末梢性狭窄では,心機能が良好であれば安静時には心拍出量は保たれるが,その場合右室及び右室流出路圧は顕著に上昇する.右室圧が顕著に上昇すると,特発性肺動脈性肺高血圧症の患者と同様に運動時の心拍出量の増大が制限されたり,右心不全を生じたり,不整脈,突然死のリスクが明らかに高くなったりする3).
年齢や基礎疾患によりさまざまである.先天性の狭窄は年齢とともに改善することもあり,高度かつ多発性の狭窄でも他のCHDに伴わない場合は低年齢で症状が顕著になることは稀であるため,通常,5歳以下の無症状の小児では介入しない3).
一方,CHDに伴う場合,心機能不全のある児では中等度の病変でも耐容できず臨床症状が出現することがある.またFontan candidateの児では,Glenn手術前の段階でも肺動脈狭窄により病変部末梢の肺動脈の成長が妨げられると将来のFontan循環の確立に支障をきたす,かつGlennもしくはFontan循環確立後には肺動脈血流が非拍動性となることから病変部末梢の還流低下が顕著となり,肺血管床の消失や臨床症状出現に繋がる.従ってこれらの場合は積極的に早期の介入を考慮する3).
右室圧の上昇がない場合は,広範な還流障害があればInterventionの適応と考える.この場合,治療の目標は病変部位の肺血管床の成長であり,適応の評価及び術後の改善評価には肺血流シンチグラフィーが特に有用である4).
右室圧の上昇が見られる場合,介入の目安は右室圧が体血圧の75%以上,もしくはそれ以下でも臨床症状を有するものである1, 3).
全身麻酔は必ずしも必要ではないが,以下のような場合には安全性確保のため全身麻酔下での施行及び動脈モニタリングを考慮する.①手技に長時間を要すると予測される症例:病変が多岐にわたる場合,低年齢の小児など.複数の病変に同時介入する場合,必然的に施行時間は長くなる.また体格の小さい小児では,カーブが急峻であるため病変部への到達が困難で時間を要することがある.②等圧~肺心室圧が体心室圧を凌駕する症例もしくは体格の小さい症例:三尖弁,肺動脈弁にカテーテル類を通過させたことによる閉鎖不全で心拍出量の低下が起こりやすい.また等圧~肺心室圧が体心室圧を凌駕する症例では肺動脈の破裂で大出血に繋がる可能性がある.
またリスクの高い症例,病変部へのアプローチが容易でない場合などは静脈シースを2本確保し,一方を用いてInterventionを施行し,もう一方には血管造影用カテーテルを挿入して病変部近くに留置し,その都度造影を行うことで入れ替えによる長時間化を省く1, 3).また二本目のシースは緊急時の対応にも使用できる.Interventionに用いる側のシースは,使用する血管形成用バルーンカテーテルの適合サイズ~1Fr大きいものを使用し,もう一方は検査用カテーテルの適合サイズを選択する.
末梢肺動脈へ到達する経路で心室内を通過する必要がある場合には,特に心内構造物を損傷しないよう最大の注意を払う必要がある.心室内には房室弁の弁尖に繋がる腱索が多数あり,それによりたくさんの狭い間隙が形成されている(Fig. 1-a).血管形成用バルーンカテーテル(Fig. 1-b)は,inflate前にはシャフトにきれいに巻き付けられて形成されているため狭い間隙でもある程度通過できる.しかし,一旦inflateした後deflateさせると矢羽根のような形態になり,これが腱索に絡みつき抜去が困難になる可能性がある.腱索間の狭い間隙を通過することを防ぐためには,最初に肺動脈にアプローチする際に先孔血管造影用バルーンカテーテルを心房内で膨らませ,これを心室,肺動脈へ到達させる(Fig. 2).但し,このカテーテルはトルクが伝わりにくく,目標とする末梢肺動脈に到達させるのには困難を伴うことが多い.従って主肺動脈に到達した時点でガイドワイヤーを通してこの先孔血管造影用バルーンカテーテルを抜去した後,トルクの伝わりやすい先曲hydrophilic先孔カテーテルに入れ替えて,目的病変部を目指す3).
An angioplasty balloon is shaped like the feathers of an arrow after deflation (b-2). There are many small lacunae between the chordae tendinea of the tricuspid valve (a). The balloon catheter may become stuck in these lacuna. This condition makes it difficult to remove the catheter from the right ventricle. A: anterior leaflet, P: posterior leaflet, RV: right ventricle, S: septal leaflet.
The balloon angiographic catheter (b) will not pass through the small lacuna between the chordae tendinea, but instead through the main orifice of the tricuspid valve. The dashed line (a) shows the annulus of the tricuspid valve. This procedure provides a good pathway for an angioplasty balloon catheter and helps to prevent any issues.
血管造影で病変部を的確に同定し,病変部周辺を含めた血管径,長さを正確に把握することが重要である.通常の血管造影では画像は2D上に投影されるため,狭窄病変の部位,径,長さを正確に評価するには病変部の長軸に対して空間的に平行で,かつ互いに直交する2平面を設定するのが理想的である.目標病変が1か所であれば,事前にCTを撮影し,その画像からこの2平面を割り出すことができる.ただし,多発性病変ではすべての病変に一つ一つこれを設定し撮像するのは現実的でなく,この場合3D angiographyが有用である5).造影の画面が病変部に対して正しく空間的平行になっていない場合,陰影が重なる“double shadow”が見られる(Fig. 3-a, b).従って陰影の濃淡に注意を払い,double shadowがあれば重なりを排除するよう方向を変えて撮像し,狭窄を見落とさないようにする.また,この“double shadow”は造影濃度が高いとかえって認識されにくくなるため,造影剤量は多い方が良いとは限らない(Fig. 3-c).また中枢側の肺動脈内に造影剤を注入すると,病変部以外も造影され目標の枝に重なって認識しにくくなることがあるため,特に末梢の枝の狭窄を見る場合には目標病変部まで血管造影用カテーテルを挿入し,局所的に造影する3)(Fig. 4).また一見細く見えない血管内に造影剤の“jet”が見られる場合,そのjetの幅に相当する有意な狭窄がそこに存在することを示唆している.これを見落とさないためには単位時間当たり撮像枚数を少なくし過ぎず,かつ各ショットを丁寧に見る必要がある(Fig. 5).末梢になればなるほど,どの枝かの認識が非常に重要になってくる.Single planeのみの観察では枝が画面に対して前後に重なっていたりすると認識を誤る原因となる.必ずbiplaneを用いて2方向から位置を見定め,場所を正確に把握する必要がある(Fig. 6).
a-1, 2. The narrowest point is seen precisely (solid arrow) because the long axis of the narrowest point is projected on a two-dimensional plane. b-1, 2. The narrowest point is not seen precisely because the narrowest point is covered by the vessel. Attention must be paid to the “double shadow” area (dotted arrow), which indicates that there is an overlap in the vessel. When the double shadow is seen, the projection direction must be changed. c. The double shadow is not seen clearly when there is too much contrast in the vessel.
a. This image might be misunderstood as the ★ being the narrowest point. The real narrowest point (solid arrow) is covered by a shadow of the MPA, and a double shadow can be seen in the MPA. b. The narrowest point is recognized correctly when the angiography is made in the LPA. LPA: left pulmonary artery, MPA: main pulmonary artery
The double shadow of the jet (solid arrow) is seen on the RPA. This finding gives the sign that the orifice is quite narrow at this point. LSVC: left superior vena cava, RPA: right pulmonary artery.
Although b-1 and c-1 are images of the intervention in each different branch of the pulmonary artery, it is difficult to recognize a difference when only the A–P view is used. On the contrary, it is easy to recognize in the lateral view (b-2 and c-2).
Spring wire, Stiff wireはposition保持には適しているが,操作性には劣るため目標病変部への到達は難しいことが多い.このため最初は追従性がよく目標病変部へ到達しやすいFlexible hydrophilic wireを用い,到達した後にSpring wire, Stiff wireに入れ替える.目標部分にワイヤーのfloppy部分が留置されていると血管形成用バルーンカテーテルの位置を保持するのが難しくなるため,必ずstiff部分がかかるように留置しておく.このため,floppy部分が短いワイヤーの方が留置しやすいが,穿孔のリスクは高くなるため細心の注意を要する1).また,0.014′, 0.018′などの細いワイヤーの荒い操作は,心室内の腱索を断裂させる恐れがある.従ってワイヤーのみを挿入,抜去する操作は避け,抜去する際にも必ずカテーテルを被せた状態で行うよう心掛ける.加えて細いワイヤーでは血管造影用カテーテルの内腔との間の隙間が大きいため,心室圧が高い症例に入れ替えを行う際には特に血液が逆流して出血量が多くなるリスクがある.このような場合は必ず血管造影用カテーテルに止血弁を付け,出血を防ぐ.
肺動脈は末梢へ行くほど多数に分枝するが,目標部位を越えた後は細い側枝を避け,太いメインの枝にガイドワイヤーを挿入する.細い側枝に入れた場合,治療用バルーンの拡張の際に側枝を損傷したり,血管形成用バルーンが細い枝の中で拡張しきれず手前にスリップして出てくるいわゆる“milking”を起こしたりする原因となる(Fig. 7-a)3).血管形成用バルーンには長さを示す放射線不透過のマーカーがついているが,その両サイドにはバルーンの“shoulder”がありこの長さは血管形成用バルーンの種類によって大きく異なる(Fig. 7-b).“shoulder”部の長さを把握しておき,この長さも計算に入れ留置の位置を決める必要がある.
The angioplasty balloon catheter should not be inserted in a small side branch (dotted arrow) but a main branch (solid arrow) (a). The length of the angioplasty balloon is expressed as the distance between two radiation opaque markers and the shoulders on both sides of the balloon, which are also inflated (b).
ガイドワイヤーを適正な位置に留置できた後に最も重要なことはそのガイドワイヤーの位置を決して失わないことである.血管形成用カテーテルを準備している間,入れ替えの際など一瞬でも手許を緩めるとワイヤーの反張力により抜けてくることはしばしば経験される.いったん抜けてしまうと再度最初から同じ手技を繰り返さなければならず,術者の時間,労力的な負担は元より,患者にかかる放射線量,麻酔時間の負担も大きくなってしまう.また,万が一血管損傷などの合併症が生じたときにそのガイドワイヤーが保持されていれば速やかにリカバリーに入ることができるため,血管形成用バルーンの拡張が終わっても最終的に一連の手技の完了が確認できるまでその位置を失わないことが非常に重要であり,アシスタントの最大の役割と心掛ける.
近接する正常部の破裂,瘤化を避けるために,先天性の病変部では原則近接正常部径の1.1–1.15倍までの径の血管形成用バルーンを選択する1).術後病変では原則,近接正常部径の1.5–1.75倍までの径を選択するが,手術から6か月(理想的には1年)以上経過していれば修復過程で周囲に線維性組織が発達し,これが狭窄の原因となる一方で“protective scar tissue”として働くためバルーン血管形成術による血管の破裂を生じにくい.従ってよりaggressiveな治療が必要となり,かつ施行できることが多い.一方,術後間もなく,特に6–8週以内では修復過程が十分でなくかえって破裂のリスクは高いため,決して過拡大しないよう正常血管径と同等以下の径の血管形成用バルーンを用いる1).ただし3 mm未満の非常に高度な狭窄では狭窄部径の2–3.5倍の径の血管形成用バルーンが必要なこともある6).
また,compliant balloonでは圧をかけるとnominal径を超えて拡大するため,近接する正常血管の過拡張からこの血管壁の損傷を招く恐れがある.従って,非常に硬く高度の狭窄部に対しては原則Non-compliantバルーンを用いる1).細い血管形成用バルーンでは,Over the wire(OTW)タイプとモノレールタイプがある.OTWタイプではカテーテルの遠位端まで全てwireが通る構造で,入れ替えの際にカテーテルの長さ分のワイヤーがシース外(体外)に出ておく必要がある.一方,モノレールタイプはカテーテル先端から20–30 cmにあるガイドワイヤーポートからワイヤーが出る仕組みになっているため,シースから出ているワイヤーが短くても入れ替えが可能である.即ち入れ替えが早いというメリットがあり,rapid exchange catheterとも呼ばれている.ただしモノレールタイプではワイヤーから出ている部分がワイヤーに沿わないため,曲率半径の小さいカーブや比較的広い腔内では追従性が問題になることがある.また,心室内に細いワイヤーが露出した状態になるため,ワイヤーで心室内構造物を損傷するリスクも生じる.従ってモノレールタイプは,屈曲が少なく,心腔内を通過しない場合,もしくはガイディングカテーテルを近傍まで到達させている場合に用いる.また,冠動脈用などの細い血管形成用バルーンは少しの力で容易に折れやすい.折れると非常に操作性が低下するため,これを防ぐためには体外での準備操作もワイヤーを通した状態で行うなどの注意を要する.
末梢の病変部のバルーン拡張では,右室流出路~主肺動脈のバルーン拡張と異なり循環を閉塞することがないため,時間をかけた拡張が可能である.かつ効果,及び合併症の有無を視認しながら行う目的で,ゆっくり拡張する方がよい.循環に影響がなければ30–60秒間膨らませたままで拡張を行う.拡張中に明らかなウエストがバルーン径の50%以上で出現した場合はバルーンのburst圧まで拡張させる.一方,50%未満でウエストが出現した場合,さらに拡張すると血管損傷のリスクが増大するため,小径の血管形成用バルーンに変更することを考える3).ウエストが消失,もしくは血管形成用バルーンの最大圧に達した時に加圧を止める.この時,最大でもburst圧の10%を超えないよう注意する1).目標部位でウエストが消失するまで2, 3回拡張するが,各拡張でわずかにバルーン位置をずらし位置が良いかどうかを見定めながら行う.多くの場合,病変がrecoilするため一旦ウエストが消失しても次の拡張でまたウエストが見られる1).
拡張中にバルーンがずれた場合,速やかにdeflateし位置を戻す.遠位へ流れる場合,血管形成用バルーンカテーテルを引き戻そうとすると手前側に抜けてしまうことが多いため,血管形成用バルーンカテーテルを引き戻すテンションをかけずwireを押し付ける力の反張で位置を調整する.近位へ流れる場合,ワイヤーを抜きすぎないように,血管形成用バルーンカテーテルを押し付けて調整する1).
非常に硬い部分での無理な拡張はバルーン破裂に繋がり,かつこの時横破裂になりやすく,縦破裂に比較して抜去しにくいため注意を要する3).また,高圧になったバルーン内の液体が裂け目から噴出すると鋭利な刃物と同等の作用を有し,直接血管壁を傷付けることになるため,バルーンの損傷と同時に血管損傷を生じうる1).
左右分枝部狭窄に加え末梢の多発性狭窄がある場合,近々にバルーン血管形成術を施行した部位に再度ワイヤー,カテーテルなどを通過させると修復しきっていない血管壁を損傷する可能性があるため,この観点からは先に末梢側に介入する方がよいと考えられる.しかし左右分枝部に顕著な狭窄がある場合,右室圧が有意に上昇した状態にあり,中枢側に顕著な狭窄が残っている状態で末梢側の狭窄が解消されても右室圧は低減されず,かつ末梢への血流供給も増加しない.さらにその後に中枢側の狭窄を解除すると一気に末梢への血流が増加して局所的肺水腫を惹起するリスクが高くなる.従って先に左右分枝部狭窄の解除を行う方が望ましい.左右分枝部狭窄を解消することで有意に右心室圧が低下すれば,末梢に多発性狭窄が残っていてもしばらく待機できることを意味しており,分枝部血管壁の修復を十分待ってから末梢への介入を考慮する1).
末梢肺動脈狭窄におけるバルーン血管形成術の治療目標は還流低下領域の還流量を増加させることである.従って,カテーテル治療の現場で最も容易に評価できる要素は狭窄前後の圧較差であるが,それが効果判定に直結しないこと,径5 mm未満の細い枝ではカテーテル挿入による内腔占拠で圧測定が不正確になる可能性もあることを理解しておく必要がある.つまり,評価判定は病変部前後の圧較差ではなく,造影での径の変化で行う必要があり,一般に元の径の1.5倍以上に拡大されていれば効果ありと判断する3).
通常の血管形成用バルーンカテーテルで効果不十分であった場合,スリッピング防止エレメント付きバルーン,スコアリングバルーン,カッティングバルーンカテーテルなどの使用を考慮する(Fig. 8).カッティングバルーンは高い効果が期待できる7)半面,ブレードがついていることで以下の注意を要する.①通常のballoonより小径,少なくとも近接する正常血管の径の1.1倍を超えないものを用いる.②曲がりの強い血管には挿入しにくい.③挿入中に他の血管を損傷する可能性があるため原則ガイディングカテーテルを病変部近くまで留置し,その中を通す.④deflateして収納する際,ブレードがカテーテル先に引っかかり,脱落することがあるため細心の注意を払う3).ブレードは透視画面で非常に見えにくく,特に末梢に脱落すると認識しがたい.これらのバルーンを用いても十分な効果が得られない場合は,ステントの留置が考えられる.
手技施行中に全身動態が悪化した際には三尖弁,肺動脈弁閉鎖不全による心拍出減少,及び血管破裂による出血,肺水腫などを考える必要がある.心内を通過させてこの手技を施行する際,等圧~肺心室圧が体心室圧を凌駕する症例,体格が小さく曲率半径が小さい小児の場合には,Stiff wireなどの通過により房室弁,肺動脈弁の閉鎖不全による循環動態の悪化を招きやすい1).
血管破裂を生じた場合,部位が心外膜に覆われた部位であれば出血量が多いと心タンポナーデを,肺内肺動脈であれば肺出血を生じる.全身麻酔は全身状態の管理に有用というのみでなく,気管挿管状態にあるため肺出血に速やかに気づくことができるというメリットもある1).まずは血液凝固能を正常化させるためにヘパリンの中和を行う.これで出血が持続する場合にはバルーンを病変部位からそのわずか手前で軽く再拡張させ,病変部への血液供給を止めその間に止血を試みる.当然のことながら出血量と血行動態に応じ速やかに輸血を行い,心タンポナーデの状態であれば心嚢穿刺,ドレナージを行う.従ってこれらの準備はカテーテル治療を開始する前に全て検査室内に整えておくべきである.
またバルーン肺動脈形成術では十分効果が得られるまで拡張が行われた場合,肺動脈の内膜,場合によっては中膜にまでも亀裂が入った状態になっている8).ここから解離を生じるとflap状になった内膜が血管を閉塞してしまうことがあり,血管造影でカーテン上の構造物として視認される.バルーン再挿入して比較的低圧で拡張させ3–5分置き,flapを血管壁に押し付けるようにし内腔の閉塞を回避する.これで回避できない場合はステント留置を考える3).
血管外にいわゆる“protective scar tissue”がなく,中膜にも亀裂が入り外膜一枚になっている場合に瘤形成を起こしやすい.バルーン拡張直後に瘤形成や解離が見られた場合,5–30分後に血管造影し瘤の大きさを確認する(Fig. 9-a).瘤が急激に拡大する場合,もしくは既に血管外への露出が見られる場合,バルーンを病変部位もしくはそのわずかに手前の部分で再拡張させる.病変部が比較的低圧である場合,血液凝固能を速やかに正常値に戻し15–30分後にバルーンをdeflateして再度造影で状況を確認する.瘤の拡大や血管外露出が続いている場合はcoilやplugなどでの閉塞を考慮する3).covered stentの留置も考慮されるが日本では使用できるものに限りがあり,かつ病変部の性質上留置が困難なことが多い.
A tiny dissection was seen just after the angioplasty, but it did not expand (a, solid arrow). Occasionally, the remnant of BT shunt or patent ductus arteriosus may expand and be recognized after angioplasty (b, dotted arrow).
急性期に進行しなかった場合,最初にできた瘤のまま変化せず経過することが多いが,数日から数か月月単位でこの瘤が拡大することがあり破裂のリスクも考えられる.CT/MRIなどでの経時的評価は必要である.バルーン血管形成術によりいったん閉鎖していた動脈管の肺動脈端や,結紮切離したBTシャント端が開き,盲端として認められるようになることもある(Fig. 9-a).このような陰影が認められた場合には,以前の血管造影画像と比較して動脈管,BTシャントの吻合部の位置を同定し,これらの盲端か瘤かを鑑別する必要がある.
また,狭窄部が有効に拡張されその領域の血流量が急激に増加すると,肺水腫を生じることがある.これは直後のみではなく,翌日以降に発症することもあるため3),注意深い経過観察が必要である.局所の肺水腫では症状はほとんどなく,レントゲン上のみで認識されることもあるが,広範囲,特に片肺全てに及ぶと臨床症状が出現しやすい.二酸化炭素が水に溶存しやすいのに対し酸素は溶存しにくいため,二酸化炭素の貯留より酸素飽和度の低下が前面に出てくる.呼吸状態に応じ,酸素投与による保存的治療~呼気終末気道内圧を高く保つための人工呼吸管理を考える.
末梢肺動脈のバルーン形成術は,カテーテルインターベンションを学ぶ中で最初に自らの手で行う手技になることが多く,全てのカテーテルインターベンションの基礎であるガイドワイヤーの扱いを習得し,様々な用具の特性と使い分けを理解する良いトレーニングになり得るであろう.そしてインターベンショナリストにはそれを行う技術もさることながら,まず施行すべきか否かという適応の判断,行うならばどのような方法が最善か,施行後には十分に効果が出ているかさらに追加すべきか,合併症が生じた際には如何にそれを早くとらえ的確に対処し害を最小限に食い止めるか,といったことを自ら速やかに判断,決断していく“brain”の要素が求められる.アシスタントの段階から,自分が判断,決断するつもりで考えながら一つ一つのインターベンションを経験し,正確な判断力を鍛えていくことが重要である.
1) Mullins CE: Cardiac Catheterization in Congenital Heart Disease. Pediatric and Adult. Massachusetts, Blackwell, 2006, pp 441–453
2) Latson L: Percutaneous Interventions for Congenital Heart Disease. London, Informa, 2007, pp 447–454
3) Sabiniewicz R, Romanowicz G, Bandurski T, et al: Lung perfusion scintigraphy in the diagnosis of peripheral pulmonary stenosis in patients after repair of Fallot tetralogy. Nucl Med Rev Cent East Eur 2002; 5: 11–13
4) Berman DP: Role of three-dimansional rotational angiography in imaging the pulmonary arteries. Fetal and Hybrid Procedures in Congenital Heart Disease. Switzerland, Springer, 2016, pp 293–301
5) Gentles TL, Lock IE, Perry SB: High pressure balloon angioplasty for branch pulmonary artery stenosis: Early experience. J Am Coll Cardiol 1993; 22: 867–872
6) Geggel RL, Gauvreau K, Lock JE: Balloon dilation angioplasty of peripheral pulmonary stenosis associated with Williams syndrome. Circulation 2001; 103: 2165–2170
7) Bergersen LJ, Perry SB, Lock JE: Effect of Cutting balloon angioplasty on resistant pulmonary artery stenosis. Am J Cardiol 2003; 91: 185–189
8) Edwards BS, Lucas RV Jr., Lock JE, et al: Morphologic changes in the pulmonary arteries after percutaneous balloon angioplasty for pulmonary arterial stenosis. Circulation 1985; 71: 195–201
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