Journal of JCIC

Online edition: ISSN 2432–2342
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Journal of JPIC 2(2): 62-66 (2017)
doi:10.20599/jjpic.2.62

症例報告Case Report

ステント留置中のバルーン破裂:陽子線治療後の多発性肺動脈狭窄に対するカテーテル治療の成人例Pinhole rupture during stenting: Catheter intervention for multiple pulmonary stenoses associated with proton therapy

1昭和大学横浜市北部病院循環器センターCardiovascular Center, Showa University Northern Yokohama Hospital

2昭和大学横浜市北部病院こどもセンターChidlren’s Medical Center, Showa University Northern Yokohama Hospital

受付日:2017年10月26日Received: October 26, 2017
受理日:2017年11月21日Accepted: November 21, 2017
発行日:2017年12月31日Published: December 31, 2017
HTMLPDFEPUB3

多発性肺動脈狭窄は右心不全の原因となり,再灌流性肺障害予防のため段階的に狭窄部位を拡大することが推奨されている.症例は69歳男性,59歳時に左肺門部の悪性線維性組織球症と診断され陽子線治療を受けたが,61歳時に再発し左肺全摘術を受けた.69歳時に労作時呼吸困難が出現,前医で精査の結果,陽子線治療後の右多発性肺動脈狭窄に伴う右心不全と診断され,カテーテル治療目的に紹介となった.1回目の治療で,中葉枝,下葉枝の狭窄に対しバルーン拡大を行い,2回目の治療で主幹部狭窄にPalmaz P3008の留置を行った.ステント留置時にバルーンのPinhole ruptureを認めたが,造影剤の高圧注入にて圧着拡大を行い,最終的に右室圧は体血圧の9割から6割まで低下した.多発性肺動脈狭窄に起因する右心不全に対し,段階的に拡大術を行うことで,重篤な呼吸障害は認めず右室圧を低下させることができた.

Multiple pulmonary arterial stenoses cause the right heart failure. The staged dilation for these multiple stenoses is recommended to prevent the reperfusion pulmonary injury. We report successful staged dilation for multiple stenoses of the right pulmonary artery in 69-year-old man. He was diagnosed as malignant fibrous histiocytoma at the left hilar region and received the proton therapy at 59-year-old, but it recurred and total left pneumonectomy was performed at 61-year-old. After that, he complained of exertional dyspnea and was diagnosed with the right heart failure associated with multiple right pulmonary arterial stenoses, which was caused by the proton therapy. He was referred to our center for the catheter intervention to alleviate the multiple stenoses. In the first session, we performed the balloon dilation for the middle and lower branch arteries. In the second session, we deployed P3008 stent for the right main trunk stenosis. In this session, although the balloon had a pin-hole rupture, we expanded the stent successfully using power injection of contrast medium. His right ventricular pressure finally decreased from 90% to 60% of his systemic blood pressure. The staged dilation for the multiple pulmonary arterial stenoses can decrease the right ventricular pressure and improve the right heart failure without reperfusion pulmonary injury.

Key words: multiple pulmonary arterial stenoses; reperfusion pulmonary injury; pin-hole rupture; power injection

はじめに

悪性線維性組織球(malignant fibrous histiocytoma: MFH)は1964年にO’Brienらにより報告された疾患であり,軟部悪性腫瘍中約25%と最も多い1).中高齢者の四肢中枢側に好発するが,稀に肺に原発することがあり,転移や再発の頻度が高く予後不良とされている2).治療は外科的完全切除を原則とするが,近年,陽子線や炭素イオン線といった粒子線治療がこういった一部の悪性軟部腫瘍症例に用いられるようになってきた3).陽子線治療の合併症として,肺炎,食道炎が知られているが,稀に多発性肺動脈狭窄を起こすことがある4)

多発性肺動脈狭窄は,慢性血栓塞栓性肺高血圧症に代表されるように右室圧上昇から右心不全を起こし,不慮の転機を辿るとされている5).狭窄を解除することで,右心不全が改善することが期待されるが,時に再灌流性肺障害(RPI: reperfusion pulmonary injury)を起こすことが知られている6)

今回我々は,左肺門部原発MFHに対する陽子線治療後の多発性肺動脈狭窄症例に対し,段階的にカテーテル治療を行い重篤なRPIを起こさず治療し得たので報告する.

症例

69歳男性.59歳時に持続する咳嗽のため近医を受診し,左肺門部原発MFHと診断された.本人の希望により陽子線治療を選択したが,61歳時に再発を認め,左肺全摘手術を受けた.69歳時に息切れ,労作時呼吸困難が出現し,前医での精査の結果,右肺動脈多発性狭窄に伴う右心不全と診断され,カテーテル治療目的に当科に紹介となった.右肺動脈多発性狭窄のため近位部は体血圧とほぼ等圧と考えられ,RPI予防のため段階的に狭窄部位の拡大を行う方針とした.

1回目のカテーテル検査・治療では,静脈圧・右房圧・右室拡張末期圧は12 mmHgと高値であり(Table 1),右室圧と左室圧はほぼ等圧であった.右室造影では駆出率44%,Sellers 3度の三尖弁逆流を認めた.また,右肺動脈造影(Fig. 1)により,上葉枝は完全閉鎖していることが判明し,中葉枝に3.9 mmの狭窄を,下葉枝遠位部に6.5 mmの狭窄を認めた.中葉枝の圧較差は40 mmHg,下葉枝の圧較差は45 mmHgであり,右室圧は体血圧の9割であった(Table 1).狭窄を解除する際は,RPIの予防に,参照血管径に対しバルーン対血管比が0.75~1を超えないサイズのバルーンを選択することが推奨されており7),今回我々は血管径に対し100%となるようバルーンを選択した.中葉枝にSterling® OTW(Boston Scientific, Marlborough, MA)8 mm/4 cmにてバルーン拡大を,下葉枝にはSterling® OTW(Boston Scientific, Marlborough, MA)10 mm/4 cmとSterling® OTW(Boston Scientific, Marlborough, MA)6 mm/4 cmにてダブルバルーン拡大を行った.拡大後に中葉枝の血圧は37/20/27 mmHgから48/17/32 mmHgに,下葉枝遠位部の血圧は19/12/15 mmHgから40/17/28 mmHgに上昇,圧較差は中葉枝で40 mmHgから20 mmHgに,下葉枝遠位部で45 mmHgから30 mmHgまで改善し,右室圧が体血圧の7割まで低下した(Table 1).術後肺出血や再灌流障害は認めず,3週間後に2回目の治療を行った.

Table 1 Pressure study in the first session
LocationPressure (mmHg)
Before balloon dilationAfter balloon dilation
Superior vena cava12
Inferior vena cava12
Right atrium12
Right ventricle90/e12
Middle branch of right pulmonary artery37/20/2748/17/32
Lower distal branch of right pulmonary artery19/12/1540/17/28
Right main pulmonary artery90/12/3575/12/38
Left ventricle95/e12110/e12
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Fig. 1 Right pulmonary angiography in the first session

a) The middle and lower distal branch had the stenosis of 3.9 mm and 6.5 mm, respectively. b) After balloon dilation, the middle branch dilated to 5.4 mm and the lower distal branch dilated to 8.0 mm.

2回目の治療では,下葉枝近位部の7.2 mmの狭窄と,右肺動脈主幹部の8.4 mmの狭窄に対し,ステント留置による拡大を行った(Fig. 2).治療前の下葉枝近位部の圧較差は30 mmHg,主幹部の圧較差は20 mmHgであった.下葉枝近位部の狭窄に対しては,右大腿静脈から7Frラジフォーカス®イントロデューサー 45 cm(TERUMO, Tokyo)を右室入口まで進め,Amplatz Super Stiff®(Boston Scientific, Marlborough, MA)(0.035 inch/260 cm)を下葉枝に留置し,Omnilink®(Abbott; Chicago, IL)10/19 mmを分岐部直後に留置した.主幹部の狭窄に対しては,右大腿静脈から11Fr Performer® sheath 75 cm(Cook; Bloomington, IN)を進め,Amplatz Super Stiff(0.035 inch/260 cm)を留置し,Palmaz® P3008(Johnson & Johnson, New Brunswick, NJ)をMaxi-LD®(Johnson & Johnson, New Brunswick, NJ)15 mm/4 cmにマウントしてback loading法で留置することとした.P3008を,マニュアルインフレーションによる圧着拡大を試みたところ,バルーン拡大中にPin-hole ruptureを認めた.すぐにインフレーションを中止し,バルーンカテーテルをパワーインジェクターに繋ぎ造影剤15 mLを1秒で高圧注入して無事圧着拡大した(Fig. 3).破損したバルーンはPerformer sheathに無事回収でき,Z-MED II®(NuMED; Hopkinton, NY)15 mm/3 cmによる後拡大を行い終了した.圧較差はそれぞれ下葉枝近位部で30 mmHgから20 mmHgに,主幹部で20 mmHgから10 mmHgに減少した.治療前後の各部位の血圧をTable 2に示すが,治療後は造影剤の影響と考えられる左室圧の上昇を認める一方,右肺動脈主幹部近位部の上昇はほとんど認めず体血圧の6割まで低下した(Table 2).治療後に呼吸状態の悪化を一時的に認めたが,非侵襲的陽圧換気により速やかに改善した.

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Fig. 2 Right pulmonary arterial angiography in the second session

The right main trunk and lower proximal branch had the stenosis of 8.4 mm and 7.2 mm, respectively.

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Fig. 3 Power inflation after pin-hole rupture of P3008 in right main trunk

a) White arrow indicated trivial leak of contrast medium from pin-hole rupture at the distal end of the stent during manual inflation. b) Balloon inflation by power injection. c) Successful deployment of P3008 stent.

Table 2 Pressure study in the second session
LocationPressure (mmHg)
Before stentingAfter stenting
Superior vena cava8
Inferior vena cava8
Right atrium8
Right ventricle86/e12
Lower proximal branch of right pulmonary artery32/10/1863/12/25
Distal right main pulmonary artery62/10/2580/10/28
Proximal right main pulmonary artery86/10/3488/12/36
Left ventricle90/e8148/e12

考察

今回我々は,左肺門部原発MFHに対する陽子線治療後の右多発性肺動脈狭窄に起因する右心不全症例に対し,段階的にカテーテルによるバルーン拡大,ステント留置を行うことで,重篤な合併症起こすことなく無事右室圧を軽減できた.

多発性肺動脈狭窄は,右室圧上昇から右心不全を起こし,予後不良とされている5).本症例は,右肺動脈に陽子線治療の影響と考えられる多数の狭窄を認めた.また左肺摘出後のため左肺動脈は離断されており,さらに右肺動脈上葉枝が閉塞していたため肺血管床が非常に少ないと考えられた.以上より肺高血圧症を来し,右心不全症状を呈していると考えられた.狭窄を解除することで右心不全が改善することが期待され,治療法には外科手術またはカテーテル治療が行われるが,外科的に到達不能の末梢血管に病変を多く認める場合や,全身状態不良例ではカテーテル治療が第1選択となる.本症例では,狭窄部位を多数認め,また全身状態も考慮してカテーテル治療を選択した.

右心不全の改善には狭窄をできるだけ解除し,右室圧を軽減することが望ましいが,治療前の平均肺動脈圧が35 mmHgを超える場合,一度に広範囲を治療した場合や狭窄病変を過拡大した場合は,RPIが起こることが知られており6),人工呼吸管理を要する重篤例も3~6%あると報告されている8).本症例では,狭窄部近位の平均肺動脈圧は35 mmHgと肺高血圧を認め,また上葉枝は途絶していたが右肺動脈主幹部,中葉枝,下葉枝遠位部・近位部と多発性狭窄を認めたため,治療回数を2回に分け段階的に行う方針とした.

1回目の治療では,下葉枝遠位,中葉枝にバルーン拡大を行った.RPI予防のために,バルーン対血管比が0.75~1を超えないことが推奨されており7),今回我々は参照血管径の100%サイズのバルーンを選択した.治療を複数回に分けて行う場合,RPIは術後2日以内に起こるとされ,患者の呼吸状態に十分注意するとともに,1回目の治療後の平均肺動脈圧がまだ30 mmHgを超えるような高い場合には,6~12週間空けてから2回目の治療を行うことが望ましいと言われている6).本症例は1回目の治療後も平均肺動脈圧は38 mmHgと依然高値であったが,呼吸状態の悪化を認めず,また患者の早期退院の希望が非常に強かったため,3週間後に2回目の治療を行った.

2回目の治療では,狭窄病変が長かったため,ステント留置を行う方針とした.ステントのサイズは参照血管径の100%を選択した.下葉枝へのステント留置は問題なく終了したが,主幹部にPalmaz3008を留置する際にバルーンのPin-hole ruptureを認めた.この際マニュアルインフレーションからすぐにパワーインジェクションに変更することで無事拡大圧着できた.今回,参照血管径からP3008を選択し,マウントするバルーンは「医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律」上血管形成用として承認され,かつステントの移動を避けるためDog bone effectを期待してsemi-complaintバルーンであるMaxi-LD 15 mmを選択した.バルーン長は2 cmと4 cmしかなく,ステント長が3 cmであるため4 cmを選択した.ステント留置時のバルーン破損の危険因子として,Palmazステントは辺縁が鋭利であること,治療血管径が大きいと別のバルーンへステントのマウントが必要でありバルーンへの密着が甘くなること,Semi-compliantバルーンは他のバルーンに比べ破損しやすいこと,ステントに対しバルーンが長すぎること,などが指摘されている9).マニュアルインフレーション中にバルーン破損を認めた時は,そのままインフレーションを続けると破損孔が大きくなり拡大できなくなるためすぐに中止し,バルーン容量の1.5~2倍量の原液造影剤を,インジェクターを用いて1秒で注入することにより圧着拡大する対処方法が知られている10).この方法によりバルーンは完全に裂けるが,長軸に沿って裂けるためロングシース内に無事回収できるとされている.今回使用したMaxi-LD 15 mm/4 cmのバルーン容量は11 mLであるため,インジェクターを用いて原液造影剤15 mLを1秒で高圧注入し,ステントを無事拡大圧着できた.裂けたバルーンは無事ロングシース内に回収でき,体外で観察したところ長軸に沿って裂けていた.

本症例ではRPI予防のため,過大な拡張を避け周囲血管径のちょうど100%サイズに相当するバルーン,ステントを選択し,また一度に広範囲の狭窄を拡大せず治療を2回に分けたが,2回目の治療後に重度ではないが一時的に呼吸状態の悪化を認めた.RPIは,通常末梢肺動脈圧が高くないtightな狭窄を一気に拡大した際に,血流が増加して末梢肺動脈圧が上昇するため起こることが指摘されており,拡張後の平均肺動脈圧が20 mmHg以上上昇することが危険因子とされている11).また,両側肺動脈に狭窄を認める場合,片方だけの拡大を行いもう一方の狭窄が残存した状態では,拡大した側の肺浮腫を起こすことが報告されている12).本症例は下葉枝近位部,右肺動脈主幹部遠位部の平均肺動脈圧上昇はそれぞれ7 mmHg, 3 mmHgと軽度であったが(Table 2),そのさらに末梢に重症度の異なる狭窄が残存しており,ステント留置により近位部の狭窄が軽減されたことで,末梢の狭窄が軽い部位への血流増加が一時的に起こり,RPIによる呼吸状態の悪化を来したものと考えられた.右肺動脈近位へのステント留置の際に,初回拡大を70~80%程度に抑え段階的拡大を行えば予防できた可能性がある.

結語

陽子線治療の影響と考えられる末梢性多発性肺動脈狭窄に起因する右心不全に対し,再灌流性肺障害を予防するため段階的にバルーン,ステントによる肺動脈拡張術を行い,重篤な合併症を起こさず右室圧を低下させることができた.また,ステント留置時のバルーン破損に対しインジェクターによるPower Inflationが有用であった.

引用文献References

1) O’Brien JE, Stout AP: Malignant fibrous xanthomas. Cancer 1964; 17: 1445–1455

2) Weiss SW, Enzinger FM: Malignant fibrous histiocytoma: An analysis of 200 cases. Cancer 1978; 978: 2250–2266

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11) Arnold LW, Keane JF, Kan JS, et al: Transient unilateral pulmonary edema after successful balloon dilation of peripheral pulmonary artery stenosis. Am J Cardiol 1988; 4: 327–330

12) Tomita H, Kimura K, Ono Y, et al: Life-threatening pulmonary edema following unilateral stent implantation for bilateral branch pulmonary stenosis: Recovery after contralateral stent implantation. Jpn Circ J 2001; 65: 688–690

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