Journal of JCIC

Online edition: ISSN 2432–2342
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Journal of JPIC 2(1): 26-31 (2017)
doi:10.20599/jjpic.2.26

原著Original Article

極小右室および類洞交通を有する純型肺動脈閉鎖症の治療戦略~心内血栓形成を回避するための新規方針の検討~A new strategy for pulmonary atresia with intact ventricular septum associated with extremely small right ventricles and sinusoidal communications to prevent thrombus formation in the blind-end right ventricles

JCHO中京病院中京こどもハートセンター小児循環器科Department of Pediatric Cardiology, Chukyo Children Heart Center, Japan Community Healthcare Organization Chukyo Hospital ◇ Aichi, Japan

受付日:2017年3月29日Received: March 29, 2017
受理日:2017年5月13日Accepted: May 13, 2017
発行日:2017年8月31日Published: August 31, 2017
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背景:従来,当院では極小右室および類洞交通を有する純型肺動脈閉鎖症に対して経皮的肺動脈弁形成術(Percutaneous Transluminal Pulmonary Valvuloplasty: PTPV)を施行せずに単心室修復(Uni-ventricular Repair: UVR)方針としていたが,フォンタン循環到達後遠隔期に盲端右室内に巨大血栓を形成し労作時胸痛を発症した症例の経験を機に,右室依存性冠循環を除く全ての肺動脈弁膜様閉鎖の症例に対して右室を盲端として残さない目的でPTPVを施行する方針に変更した.

目的:将来的にUVRの可能性が高い症例に対してPTPVを施行することの可否を検討すること.

方法:方針変更後に経験した2症例を後方視的に検討し,新規方針の利点,安全性,課題等を考察した.

結果:PTPVは合併症頻度の高いカテーテル治療であるが,Radiofrequency wireの使用,ワイヤーループ・ローテーション法の導入,段階的PTPVなどの工夫により安全に施行できた.2症例とも肺動脈弁閉鎖不全(Pulmonary Regurgitation: PR)が生じている.

結論:PTPVは右室の小ささに影響されることなく安全に施行可能だが,最終的にUVRとなった際にはPRも考慮したうえでの右室および肺動脈の処理方法の検討が今後の課題となり得る.

Background: Previously, we introduced a uni-ventricular repair (UVR) strategy without performing percutaneous transluminal pulmonary valvuloplasty (PTPV), for pulmonary atresia with intact ventricular septum (PAIVS) associated with extremely small right ventricles and sinusoidal communications (SC). After experiencing a case complicated by thrombus formation in the blind-end right ventricle during the postoperative Fontan procedure, we changed our strategy to perform PTPV for all cases, exept in cases with right ventricular dependent coronary circulations.

Purpose: To investigate the advisability of our new strategy for cases with high possibility of UVR in the future.

Methods: We retrospectively assessed two cases performed PTPV for PAIVS with extremely small right ventricles and SC to determine the benefits, safety, and issues associated with the new strategy.

Results: Although PTPV involves catheter intervention, which is associated with an increased risk of complications, it could be performed safely with the use of radiofrequency wire, the introduction of wire loop rotation technique, and gradual PTPV. Pulmonary regurgitation (PR) occurred in both cases.

Conclusion: PTPV can be performed safely without being influenced by the size of the right ventricle. However, in the cases that finally UVR is unavoidable, it would be necessary to treat the right ventricle considering the effect of PR.

Key words: Pulmonary Atresia with Intact Ventricular Septum; Percutaneous Transluminal Pulmonary Valvuloplasty; Sinusoidal Communication; Blind-end right ventricle; Radiofrequency wire

背景

純型肺動脈閉鎖症(Pulmonary Atresia with Intact Ventricular Septum: PAIVS)の治療方針を決定するに際して,右室拡張末期容積(Right Ventricular End Diastolic Volume: RVEDV)や類洞交通(Sinusoidal Communication: SC)の有無,さらに三尖弁(Tricuspid Valve: TV)輪径,肺動脈弁(Pulmonary Valve: PV)形態など種々の条件を症例毎に検討する必要があり,中には単心室修復(Uni-ventricular Repair: UVR)を余儀なくされる症例も存在する.従来,当院では極小右室やSCを有する症例に対して経皮的肺動脈弁形成術(Percutaneous Transluminal Pulmonary Valvuloplasty: PTPV)を施行せずにUVR方針としていたが,その際に盲端右室内の血栓形成が問題となり得る.過去の文献においても,PTPV未施行症例において盲端右室内に血栓を形成した報告は散見されており,その時期は新生児期からフォンタン型手術後まで多岐に渡っている3, 4).当院ではそれを予防する目的で抗凝固薬を導入しているが,服薬アドヒアランスや副作用などが問題となり得る.2016年に経験した問題症例(後述)を契機に,心内血栓形成を確実に回避するためには右室を盲端として残さないことが重要であると考え,治療戦略を変更した.すなわち右室依存性冠循環(Right Ventricle Dependent Coronary Circulation: RVDCC)を除く全例に対してPTPVを施行する方針とした.このたび我々は極小右室およびSCを有する症例に対して安全にPTPVを施行するための方法などについて検討した.我々の知る限り,本方法にて血栓形成回避を試みた文献は過去にないが,一方で本論文の症例も現時点では経過観察段階である.なお本論文における「極小右室」の定義は,「初回心臓カテーテル検査(以下,心カテ)におけるRVEDVが50% of normal未満の右室」とする.

問題症例

18歳男性.在胎39週,2880 gで出生.出生後にチアノーゼを契機にPAIVSと診断された.生後1か月時の初回心カテにてRVEDV 28% of normal,SCありのためPTPVを施行せずにUVR方針とした.3歳時にTotal cavopulmonary connection(TCPC)手術に到達し,その際にTVは外科的に閉鎖した.盲端右室内における血栓形成の予防目的にワーファリンを導入していたが,経年的に服薬アドヒアランスが低下した.18歳時に労作時胸部絞扼感を自覚するも受診せずに経過観察していた.定期受診時に経胸壁心臓超音波検査(以下,心エコー)で右室内に11 mm大の巨大血栓を認めた(Fig. 1).心電図等による心筋虚血所見は得られていないが,血行動態からは胸部絞扼感の原因の可能性が高いと判断した.

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Fig. 1 Long axis echocardiography of the problem case. The diameter of thrombus in right ventricle is 11 mm (arrow)

目的

将来的にUVRの可能性が高い極小右室およびSCを有するPAIVS症例において,盲端右室を残さないための当院の新規治療戦略について文献的考察を加えて報告する.

対象と方法

後述の如く治療方針を変更した後に経験した極小右室およびSCを有する2症例を後方視的に検討することで,当院の新規方針の利点に加えて,安全性,課題等を考察した.

従来方針

極小右室およびSCを有する症例では前述の如くPTPVを施行せずにUVR方針とし,その際には盲端右室内の血栓形成を懸念して抗凝固薬を導入していた.

新規方針

肺動脈弁が膜様閉鎖の症例では,RVDCCを除く全症例でPTPVを施行する.SCを有する症例では1stPTPV時の使用バルーン径は弁輪径の約70%にとどめ,その後も心筋虚血が生じないことを確認したうえで,後日弁輪径の約120%のバルーン径で2ndPTPVを施行する.

結果

症例①

胎児診断症例.在胎39週,2716 gで出生した女児.出生時心エコーでTV 6.7 mm(58% of nornal),PV 4.6 mm(56% of normal).日齢7に施行した初回心カテで右室圧/大腿動脈圧比は1.3,RVEDV 43% of normal.右室造影で右冠動脈のSCを認めた(Fig. 2A)が,上行大動脈造影で順行性冠血流を確認し(Fig. 2B)RVDCCではないと判断したため,PTPVを施行する方針とした.日齢20に5.6 mmのPVに対してSterling 4 mm(71%)で1stPTPVを施行した.極小右室内での操作ではあるが,ワイヤーループ・ローテーション法(後述)およびRadiofrequency(以下,RF)wireの使用により合併症なく安全かつ簡便に施行できた.PTPV後は右室圧/大腿動脈圧比が0.91に低下し,以降も心筋虚血所見は認めなかった.日齢62の心カテでは右室造影における右冠動脈逆行性造影効果の減弱が確認でき(Figs. 2C, D),5.5 mmのPVに対してSterling 7 mm(127%)で2ndPTPVを施行した.生後5か月時の心カテでRVEDV 65% of normal,中等度肺動脈閉鎖不全(Pulmonary Regurgitation: PR)を認めた.

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Fig. 2 Angiography of patient 1. Arrow is SC to right coronary artery

A: Right ventriculography before PTPV. B: Aortography by transarterial septal defect left heart catheterization before PTPV, C: Right ventriculography after PTPV, D: Aortography after PTPV.

症例②

胎児診断症例.在胎37週,2171 gで出生した男児.出生時心エコーでTV 6.8 mm(63% of nornal),PV 5.2 mm(64% of normal).日齢17に施行した初回心カテで右室圧/大腿動脈圧比は1.5, RVEDV 46% of normal.左冠動脈のSCを認めた(Fig. 3A)が,上行大動脈造影で順行性冠血流を確認し(Fig. 3B)RVDCCではないと判断し,PTPVを施行する方針とした.日齢24の心カテでは,右室内でワイヤーループ・ローテーション法を用いて4French Judkins右冠動脈カテーテルを右室流出路に向けたところ,ガイドワイヤーがPVを通過した(最終診断はCritical pulmonary stenosis).5.2 mmのPVに対してSterling 4 mm(77%)で1stPTPVを施行した.PTPV後は右室圧/大腿動脈圧比が0.85に低下し,以降も心筋虚血所見は認めなかった.日齢31の心カテでは右室造影でSCの消失が確認できた(Figs. 3C, D).5.2 mmのPVに対してSterling 7 mm(135%)で2ndPTPVを施行した.生後9か月時の心カテでRVEDV 76% of normal,軽度PRを認めた.

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Fig. 3 Angiography of patient 2. Arrow is SC to left coronary artery

A: Right ventriculography before PTPV, B: Aortography by transarterial septal defect left heart catheterization before PTPV, C: Right ventriculography after PTPV. SC is disappeared, D: Aortography after PTPV.

考察

PAIVSの治療方針決定,すなわちUVRか二心室修復(Bi-ventricular Repair: BVR)かを決定するためのRVEDV値に関する文献は複数の施設から報告されており,おおよそ50% of normal前後がカットオフ値とされている3)が,統一見解は得られていないのが現状である.SCを有する症例に関しては,RVDCCであればUVR方針とする4)ことはもはや異論はないだろう.しかしRVDCCか否かの判断は時に容易ではなく,当院でも従来はSC例全体をRVDCCとして扱っていたが,後述の如く上行大動脈造影の手法を工夫することにより冠動脈評価の精度が向上し,その割合は減少するだろう.

UVR方針とした症例に対して当院では盲端右室内の血栓形成を回避する目的で抗凝固薬の終生内服を行っているが,出血等の問題も生じうるため施設間で方針は様々かもしれない.しかし事実,過去にも盲端右室内に血栓形成をした症例は報告されており1),その結果脳梗塞を発症した症例の報告もある2).右室内血栓形成の時期は,我々の症例ではTCPC手術後であったが,前述の文献では両方向性グレン手術後,新生児期など様々であり,PTPVを行う時期は新生児期が望ましいと考える.

当院の新規方針の利点として,“盲端右室を残さない”以外にも,“極小右室の症例においてもBVRやOne and a half repairの可能性を残す”という点が挙がる.事実,当院においても初回心カテのRVEDVが40%台であったがBVRに到達した症例を経験している.PTPVの時期に関しては,より早期の右室減圧により右室の発育が得られる可能性も指摘されており6),この点からも右室サイズによらず新生児期に施行することが望ましいと考える.その一方で極小右室内におけるPTPVは手技の安全性が問題となる.ガイドラインにおいてもPTPVは右室流出路の損傷や心タンポナーデなどの合併症リスクが高いと明記されている手技である6)が,近年のデバイスの発達,中でもRF wireの認可によりその安全性は向上した.当院では2014年のRF wire導入以降,連続5症例(RVEDV 20~76% of normal)で合併症なくPTPVを施行できている.さらに安全性向上のために当院独自の手法であるワイヤーループ・ローテーション法を導入している.具体的にはガイディングカテーテルとなる4French Judkins右冠動脈カテーテルがTVを越した後に右室流出路へ向ける際に,カテーテル先端から軟性ワイヤーを10 mmほどループ様に垂らすことで,カテ先端が流出路を向く際に途中の肉柱へ迷入する事を防ぎ右室穿孔が回避できる,という方法である(Fig. 4).また一般的にPTPVに推奨されているバルーン径は弁輪径の120~125%とされている6)が,SCを有する症例においてRVDCCの完全否定は時に容易ではないため,当院ではそれらの症例に限って1stPTPVは弁輪径の約70%のバルーン径で施行し,その後も心筋虚血所見が生じないことを確認のうえで後日2ndPTPVを約120%のバルーン径で施行するという段階的治療を行っている.安全性という観点からはさらに,新生児期の大腿動脈へのシース留置の回避および,冠動脈順行性血流の評価精度を向上させる目的で,上行大動脈造影時にはバルーンアンギオカテーテルを経心房中隔欠損孔的に左室に進め,さらにDeflecting guide wireを用いて上行大動脈にアプローチし,造影時にはバルーンをオンすることで上行大動脈に造影剤を充満させるという手法をとっている(Fig. 2Bなど).これらの工夫により右室の小ささに影響されることなく安全かつ正確にPTPVおよび冠動脈評価を施行できている.

Journal of JPIC 2(1): 26-31 (2017)

Fig. 4 Wire-loop rotation technique

Top raw pictures are frontal view, and bottom raw pictures are lateral view. At the timing of C, only catheter tip safely reaches the pulmonary valve.

我々の新規方針における今後の課題として,“最終的にUVRとなった際に右室を如何に処理するか”という点が挙がる.盲端右室を残さずに単純なフォンタン循環に到達するためには主肺動脈を離断して肺動脈幹を上行大動脈に吻合する必要があるが,PTPV後はPRが経時的に増悪するとも報告されている7).これはすなわち機能的には大動脈弁閉鎖不全に相当しうるが,駆動体心室とは異なる低形成右室への逆流が全身循環および冠循環へ及ぼす影響は少ないであろうという予測のもと,我々は本治療戦略を推奨しているが実際には症例の蓄積が必要である.

結語

フォンタン循環に到達したPAIVS症例における心内血栓形成の経験を機に,当院ではRVDCCを除く全ての膜様閉鎖の症例に対してPTPVを施行する方針に変更した.本治療戦略は盲端右室を残さないのみでなく,極小右室およびSCを有する症例においてもBVRの可能性を残すことができるという利点がある.安全性の面では,近年のデバイスの発達,当院独自の手法であるワイヤーループ・ローテーション法の導入,段階的PTPVなどにより右室の小ささに影響されることなく安全に施行可能であると考えている.その一方で,最終的にUVRとなった症例における右室および肺動脈の処理は今後の検討課題となり得る.

利益相反

本論文について開示すべき利益相反(COI)はない.

本論文の要旨は第28回日本Pediatric Interventional Cardiology学会で発表し,座長推薦演題に選出された.

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