Journal of JCIC

Online edition: ISSN 2432–2342
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Journal of JPIC 2(1): 21-25 (2017)
doi:10.20599/jjpic.2.21

原著Original Article

小児の大腿静脈アプローチにおけるGlidesheath Slender®の安全性Safety of the Glidesheath Slender for femoral venous access in children

あかね会土谷総合病院小児科Department of Pediatrics, Tsuchiya General Hospital ◇ Hiroshima, Japan

受付日:2017年3月9日Received: March 9, 2017
受理日:2017年4月27日Accepted: April 27, 2017
発行日:2017年8月31日Published: August 31, 2017
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背景:肉厚の薄いGlidesheath Slender®(GS)の使用により,小児のカテーテル治療でも低侵襲化が期待される.小児におけるGS使用による大腿静脈(FV)アプローチの安全性を検討した.

方法:1)2015~2016年に当院でカテーテル検査を行った1歳以上の小児32例を対象に,それぞれ16例ずつ従来のシースを使用したC群とGSを使用したS群に分け,有害事象について比較検討した.2)ex vivoで2種類の治療用バルーン(Tyshak II 12 mm, MUSTANG 6×20 mm)が5Fr GSへ挿入可能か検討した.

結果:1)シースのkinkはS群で1例認めた.止血時間は平均4.6分(C群),5.6分(S群)だった.抜去後の皮下血腫は1例(C群),1例(S群),再出血は1例(C群),2例(S群),FV閉塞は0/15例(C群),0/13例(S群)だった.いずれも有意差はなかった.2)2種類のバルーンはいずれも安全に挿入可能だった.

結論:GSは小児の大腿静脈アプローチにおいても安全に使用できた.新生児や乳児のカテーテル治療への使用は検討課題である.

Background: The Glidesheath slender (GS) has a thinner wall structure compared to the conventional sheath introducer (CS). Femoral venous (FV) access with the GS in children undergoing catheter intervention is less invasive. The aim of this study was to evaluate the safety of the GS for FV access in children.

Methods: 1) This prospective study included 32 children who underwent cardiac catheterization at our institute between 2015 and 2016. Patients were divided into two groups of sixteen each using the CS (Group C) and GS (Group S), respectively. Group C and S were compared for adverse events, including kinking of the sheath during the procedure, and access site complications. 2) We also investigated the insertability of two balloons (Tyshak II 12 mm, MUSTANG 6×20 mm) into the 5Fr GS ex vivo.

Results: 1) Adverse events did not differ significantly between the groups (kinking of the sheath occurred in one patient in Group S; hematoma after procedure, 1[6.2%] vs. 1[6.2%], respectively; rebleeding, 1[6.2%] vs. 2[12.5%], respectively; FV occlusion, 0/15[0.0%] vs. 0/13[0.0%], respectively). The mean time to hemostasis was 4.6 and 5.6 minutes, respectively; 2) Both balloons could be safely inserted into the 5Fr GS ex vivo.

Conclusions: The GS is safe for FV access in children. Further investigations are required to confirm the feasibility of use of the GS for catheter interventions in neonates and young infants.

Key words: Glidesheath slender; femoral venous access; less invasive; Balloon atrial septostomy; infant

はじめに

近年,橈骨動脈(radial artery: RA)アプローチのために従来のシース(Conventional sheath: CS)と比較し肉厚の薄いGlidesheath Slender®(GS,テルモ社)が開発され1),小児のカテーテル治療においてもGS使用による低侵襲化が期待される.

目的および方法

本研究はGSが小児の大腿静脈(femoral vein: FV)アプローチによるカテーテル治療において安全に使用できるかを検討することを目的とし以下について検討した.

1. GS挿入の安全性の検討

2015年7月~2016年4月に当院でカテーテル検査(または治療)を行った1歳以上の小児32例,平均5.7歳(1.2~14歳)を対象に,前方視的に比較検討した.本研究について当院の倫理委員会の承認を得たのち,患者家族の同意を得て行った.今回の検討ではGSはカテーテル治療を行う症例には使用しないこととした.研究期間前半にカテーテル検査を行った連続した15例と,後半に行った症例でGS使用の了承を得られなかった1例の計16例にCS(Radifocus Introducer II H,テルモ社)を使用しC群とした.後半に行った症例でGS使用の了承を得られた16例にGSを使用しS群とした.カテーテル検査中は全例でパルスオキシーメーター,心電図,非観血的血圧測定にてモニタリングしながら,非挿管下にチオペンタール5 mg/kg静注にて導入し,その後は適宜チオペンタール1–2 mg/kg静注あるいはミダゾラム0.1–0.2 mg/kg静注を追加し鎮静を行った.挿入するシースサイズは患者の身長,体重を考慮し主治医の判断で選択した.シース挿入後に50単位/kgのヘパリンを投与し,基本的にはヘパリンの追加投与を行わず検査を行い,シース抜去前にActivating Clotting Time(ACT)を測定した.手技時間はFV穿刺開始時間からシース抜去後に止血を確認するまでの時間とした.シース抜去後は枕子で5時間圧迫し,ベッド上安静とした.有害事象は検査中のシースのkinkの有無,シース抜去後の止血までの時間,シース抜去5時間後の血腫の有無,止血確認後の再出血の有無,カテーテル検査から半年~1年後のFV閉塞の有無について検討した.FV閉塞の有無はカテーテル検査再検時に下肢の造影を行うか,超音波検査にてカラードップラーで確認した.患者背景および有害事象については,正規性の検定を行ったのち,連続変数は平均値(標準偏差)で表記し,2群間の比較をt検定で行った.割合の比較はカイ2乗検定で行った.有意水準は両側p値0.05未満を有意差ありとした.統計解析にはSPSS statistics Ver. 21を使用した.

2. 治療用バルーンのGSへの挿入性の検討

今回の研究期間中に入手可能だった5Frシース適合の使用済み治療用バルーン2種類(TayshakII 12 mm, MUSTANG 6×20 mm)を5Fr GSへex vivoでそれぞれ10回ずつ挿入,抜去し通過可能か検討した.バルーンを完全に虚脱させた状態でガイドワイヤーを使用し,機材を全て湿潤させた上,用手的に挿入した.挿入後にバルーンを拡張させ,再び虚脱させたのちに抜去した.挿入,抜去が行えた場合を挿入可能と判断した.今回の検討では挿入時の抵抗について力学的な検討は行わなかった.

結果

1. GS挿入の安全性の検討

1)患者背景

患者背景をTable 1に示した.C群では3例が先天性心疾患(congenital heart disease; CHD)以外の疾患だった(2例;肺動脈性肺高血圧症,1例;先天性左肺無形成).CHD患者のうち1例はフォンタン術後だった.S群は全てCHDだった.患者の平均年齢は5.98歳(C群),5.45歳(S群)で有意差はなかった.今回の検討ではGSはカテーテル治療で使用しなかったため,C群でカテーテル治療を行った症例が有意に多かった.その他の項目では有意差は認めなかった.

Table 1 Patients’ characteristic.
2)結果

結果をTable 2に示した.使用したシースサイズ,大腿動脈(femoral artery: FA)へのシース挿入の有無は両群に有意差はなかった.検査中の平均動脈圧,中心静脈圧,検査時間,シース抜去前のACTも有意差はなかった.有害事象については,S群で1例kinkを認めた.検査中の鎮静が不十分で体動が出現したことが原因で,鎮静剤を追加しkinkは解除可能で検査は継続できた.止血時間は平均5.5分(C群),5.6分(S群)と有意差なく,血腫は両群とも1例ずつに認め,いずれの症例もFAシース挿入例で,シース抜去時に体動を認めたことが原因と考えられた.疼痛の訴えなどなく軽度だった.再出血は1例(C群),2例(S群)で有意差なく,いずれの症例もFAシース挿入例で,枕子圧迫中にベッド上安静が保てなかったことが原因と考えられた.いずれの症例も追加の圧迫止血で対応可能だった.FV閉塞については確認できた症例は15例(C群),13例(S群)で閉塞した症例はなかった.

Table 2 Result.

2. 治療用バルーンのGSへの挿入性の検討

Tyshak II 12 mmはやや抵抗を認めたが挿入は安全に行えた.MUSTANG 6×20 mmは抵抗なく容易に挿入可能だった.いずれのバルーン挿入後も,バルーンおよびシースの破損はなかった(Fig. 1).

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Fig. 1 Two balloons that are recommended for use with the 5Fr sheath introducer were insertable into the 5Fr Glidesheath Slender

考察

GSは成人のpercutaneous coronary interventionにおけるRAアプローチのために開発されたシースで,通常のシースと比較し肉厚が薄く内径はそのままで,外径が従来のシースと比較し1サイズ相当細いのが特徴である1)Fig. 2).GSはシースのハブの色が従来のシースより1サイズ小さいものと同じ色(5Fr GSは赤,4Fr CSと同じ色)になっている(Fig. 3).GSは成人のRAアプローチにおいてRAの閉塞率が低くなると報告されている2, 3).ただし,肉厚が薄いためkinkしやすく丁寧な扱いが必要で3),FAやFVからのアプローチへの使用は推奨されていない.Taniguchiは成人13例に対しFAに6Fr GSを挿入し6FrのIntra-aortic balloon pumpingを使用し挿入部のトラブルはなかったと報告した4).今回の研究では症例が少なくCSと比較し優位性は得られなかったが1歳以上の小児においてGSはFVアプローチにおいて安全に使用できることが示された.小児のカテーテル治療では,治療内容によっては太いシースや,複数本のシースの挿入が必要となることがある.特にRashkind法によるバルーン心房中隔裂開術(balloon atrial septostomy: BAS)やstatic BASは新生児や乳幼児に行うことが多く,体格に比して太いシースが必要となり,術後のFV閉塞が問題となる5).BASに使用するカテーテルは本邦ではMiller catheter, Rashkind catheter, Fogarty catheterが使用可能である.先端にラテックス製のバルーンが付いているために太いシースの使用が推奨されており6),Fogarty catheter以外は6Fr以上のシースが必要となる7).Static BASは2009~2011年の日本Pediatric Interventional Cardiology学会のアンケート調査によればほとんどの症例が1歳未満で,ブレードカテーテルが手に入りにくい本邦ではRashkind法が無効であった症例などに対し行われることが多い.Static BAS後にRashkind法を追加することも少なくなく,バルーン径は10, 12 mmの順に多く,10 mm以上のバルーンは9割程度を占めていた8).BASカテーテルおよびStatic BASで主に使用されていたバルーンの種類と適合シースをTable 3に示した.新生児や乳児のBASではFV閉塞を懸念し推奨より1サイズ細いシースを選択することも可能とされているが6),安全で有効なBASの効果を得るためには少なくとも5Fr以上のシース挿入が新生児や乳児には必要で,場合によっては7Frシースが必要となると考えられる.今回の研究で,5Fr適合の治療用バルーンは5Fr GSを安全に挿入できることが確認できた.BASなどの太いシースが必要なカテーテル治療において,GSの使用によってFV閉塞のリスクを軽減することが期待できると考えられた.

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Fig. 2 The Glidesheath slender has a thinner wall structure than the conventional sheath, leading to an about 1Fr reduction in outer diameter

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Fig. 3 The 5Fr Glidesheath Slender (GS) was inserted via the right femoral venous approach. The color of the 5Fr GS introducer hub is red, which is similar to that of the conventional 4Fr sheath

Table 3 Balloon atrial septostomy (BAS) catheters and balloons commonly used for static BAS in Japan.7, 8)

GSの問題点の一つ目として肉厚が薄いためkinkしやすいことが挙げられる.実際にGSはハブとシースの間で容易に折れ曲り,今回の研究でも体動によりkinkを起こした症例が1例あった.添付文書には,GSの耐kink性(kink発生角度)は30度を超えていることと記載されており9),刺入角度に注意し,検査中は十分に鎮静を行い,kink発生時は速やかに解除することで対応可能であると考えられた.二つ目として,肉厚が薄いため使用済みバルーンを抜去する際にシース先端が破損し抜去困難となってしまう懸念があることが挙げられる.今回の研究で,ex vivoではシース,バルーンとも破損せず抜去困難とはならなかったが,実際に使用する場合はバルーンを十分に虚脱させ愛護的に抜去する必要があると考えられた.三つ目として,本邦で入手可能なGSのシース長が16 cmと長いことが挙げられる.今回の研究では1歳未満の症例は対象としなかったため,GSが心房内に達することはなかった.しかし,体格の小さい新生児や乳幼児に使用する場合はシースを根元まで挿入すると先端が心房内に達する可能性が考えられる.シースを浅く挿入した場合,操作性の低下やkinkの発生,事故抜去が懸念される.また,シース内径はCSと同じであるにも関わらず,Tyshak II 12 mmの挿入に抵抗を認めた原因として,使用済みのバルーンだと使用前のものに比べ虚脱が不十分なこと以外に,シース長がCSより長いためバルーンがシースを通過する際に抵抗を受ける距離が長くなったことが考えられた.海外ではシース長が10 cmのGSが入手可能で10),本邦への導入が期待される.

研究の限界

今回の検討では1歳未満は対象から除外したためGSの乳幼児,新生児における安全性,有効性の検討は行えなかった.また,症例数が少なかったため安全性の検討が十分でない可能性があり,今後の症例の蓄積が必要となる.バルーンの挿入性については使用済みのバルーンを使用しex vivoで行ったため,実際の治療で使用するバルーンと状態が異なっていた可能性が考えられた.

結論

GSは小児のFVアプローチにおいても安全に使用できた.BASなどの太いシース挿入が必要なカテーテル治療における新生児や乳児に対する使用によりFV閉塞のリスクを軽減できる可能性があり,今後の検討課題である.シース長の短いGSの導入が期待される.

利益相反

第28回日本Pediatric Interventional Cardiology学会学術集会の定める利益相反に関する開示事項はありません.

本論文の要旨は第28回日本Pediatric Interventional Cardiology学会学術集会(2017年1月,東京)にて発表し,座長から投稿推薦を受けた.

引用文献References

1) 医療機器情報,Glidesheath Slender.テルモ:https://www.terumo.co.jp/medical/equipment/me335.html(参照2016-03-02)

2) Aminian A, Dolatabadi D, Lefebvre P, et al: Initial experience with the Glidesheath Slender for transradial coronary angiography and intervention: a feasibility study with prospective radial ultrasound follow-up. Catheter Cardiovasc Interv 2014; 84: 436–442

3) Yoshimachi F, Kiemeneji F, Masutani M, et al: Safety and feasibility of the new 5Fr Glidesheath Slender. Cardiovasc Interv Ther 2016; 31: 38–41

4) Takahashi A, Taniguchi N, Mizuguchi Y, et al: Virtual 5-French intra-aortic pumping using a Glidesheath Slender and 6-French intra-aortic balloon catheter. Cardiovasc Revasc Med 2015; 5: 276–279

5) 宗内 淳:経皮的心房中隔裂開術の実際.Journal of JPIC 2016; 1: 33–42

6) 日本小児循環器学会・日本Pediatric Interventional Cardiology学会「先天性および小児期発症心疾患に対するカテーテル治療の適応ガイドライン作成委員会」:先天性心疾患に対するカテーテル治療の適応ガイドライン.小児循環器学会雑誌2012; 28: Supplement 2

7) 北野正尚:新生児期に必要なカテーテル治療.日本小児循環器学会雑誌2015; 31: 9–19

8) 富田 英,小林俊樹,大月審一,他:わが国におけるStatic Balloon Atrial Septostomyの現状調査.日本小児循環器学会雑誌2013; 29: 178–181

9) グライドシーススレンダー添付文書【2014年1月】,テルモ:https://www.terumo.co.jp/medical/equipment/md/upload_files/SJ_22500BZX00524_500_01.pdf(参照2016-03-02)

10) Glidesheath Slender®-Transradial introducer sheath, Terumo Europe. http://www.terumo-europe.com/en-emea/interventional-cardiology/access-diagnostic-products/introducer-sheath/glidesheath-slender ®-transradial-introducer-sheath (accessed 2016-03-02)

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