カテーテル検査:基本とpitfallCardiac Catheterization and Angiography: Basic Principles and Pitfalls
岡山大学病院IVRセンター小児循環器科Department of Pediatric Cardiology, Interventional Radiology Center, Okayama University Hospital ◇ Okayama, Japan
岡山大学病院IVRセンター小児循環器科Department of Pediatric Cardiology, Interventional Radiology Center, Okayama University Hospital ◇ Okayama, Japan
心エコー検査,CT, MRIなどの非侵襲的検査が格段に進歩した現在では,心臓カテーテル検査の役割は以前とは異なってきている.しかし,心拍出量やシャント率,血管抵抗の算出などの血行動態評価に関して心臓カテーテル検査は依然としてGold standardである.心臓カテーテル検査を行う前には患者の病歴,臨床所見,非侵襲的検査所見によって得られた情報から,麻酔法,血管アクセス,カテーテル操作,血管造影などをどのように行うか計画を建てる必要があり,カテーテル検査の目的をはっきりさせておくことは重要である.本稿では若手医師を対象に心臓カテーテル検査の基本的な考え方を概説する.
As the sophistication of noninvasive imaging such as echocardiography, computed tomography and cardiac magnetic resonance imaging improves, the role of cardiac catheterization has evolved. However, cardiac catheterization remains the gold standard for evaluating hemodynamic data, including assessment of cardiac output, intra-cardiac shunting, and measurement of vascular resistances. The information from the patient’s history, clinical data, and the non-invasive studies prior to the catheterization should be obtained and the pre-catheterization planning, including anesthetic management, vascular access, catheter procedure, angiography, and so on should be done. It is important to define the specific questions to be answered from the cardiac catheterization. This review is intended to provide basic principles and pitfalls of cardiac catheterization for trainee cardiologists.
Key words: cardiac catheterization; angiography; hemodynamic study; fick principle; pre-catheterization planning
© 2017 日本Pediatric Interventional Cardiology学会© 2017 Japanese Society of Pediatric Interventional Cardiology
「カテーテル検査:基本とpitfall」という題を頂き,まず「基本」という言葉を辞書でみると「判断・行動・方法などのよりどころとなる大もと.基礎.」(大辞泉)とあり,「pitfall」は「思わぬ危険,落とし穴」(研究社 新英和中辞典)と書かれていた.カテーテル検査の基本とpitfallの本幹となる部分はカテ室の中で先輩から指導を受けたり,自ら成書1–4)を読んで試行錯誤したりする中で培われるものであるが,本稿ではやや違った視点から再考するきっかけになりそうな事柄を中心に述べることとする.なお,本稿は第28回日本Pediatric Interventional Cardiology学会学術集会(広島)での教育講演内容に準拠している.
心臓カテーテル検査の適応は他の検査法や手術方法およびカテーテル治療などとも密接に関係しているため時代の変遷によって変わるのは当然だが,現時点で適応と考えられるものを示す5, 6).まず他の非侵襲的な検査では得られない血行動態評価や解剖学的診断が必要な時,例えば単心室修復の手術適応評価や閉塞性肺動脈病変の評価,あるいは主要体肺動脈側副血行路と肺動脈との交通の有無などが挙げられる.次にカテーテル治療や心筋生検または電気生理学的検査やカテーテルアブレーションを計画し同時に行う場合,また患者の症状や臨床経過が診断から予想される経過とは異なる場合もカテーテル検査の適応と考えられる.
患者の治療計画全般を考慮して,カテーテル検査の計画をたてる際にはまず検査目的を明確にする.そして,過去の症状,検査所見,手術記録も含めた完全な病歴の把握,特に他院で施行された過去のカテーテル検査,手術記録は可能な限り入手し,疑問があれば前医に確認することも必要となる.カテーテル前後または同時に行う他の検査計画もたてる.他の検査としては,肺野や気道等呼吸器疾患も考慮する場合は単純CT,気管などの周辺臓器と血管との位置関係を把握する場合は造影CT,弁逆流率の測定や容積や心機能評価にはMRI,肺血管血流分布評価や右左シャント評価には肺血流シンチ,またカテーテル時に僧帽弁や大動脈弁の評価目的では経食道心エコー検査を考慮することが多い.カテーテル検査の計画をたてる時点で治療方針決定のための必要な他の検査も計画し,カテーテル検査を行う時点ではその結果の予想が完全にではなくても,いくつかのケースが想定できるようにしておく必要がある.
小児の心臓カテーテル検査を計画する際に鎮静および麻酔法の選択は非常に重要である.意識下または鎮静下,自発呼吸下または人工呼吸管理下,自科麻酔または麻酔科管理の選択をしなければならない.これは患児の重症度,年齢,性格,手技内容にも大きく左右されるのは当然であるが,日本の医療体制の現状では病院毎の事情が異なりすぎていて,カテーテル検査を行う医師がコントロールできない部分も多く,各病院のマンパワー,物理的な制約,経験などを総合的に判断し施設として最適と考えるものを選択するしかない.
血管穿刺部位の選択も重要である.通常は大腿動静脈または内頸静脈を選択することが一般的だが,鎖骨下動脈から鋭角に起始している血管へのアプローチなどを考慮した場合は上腕動脈や腋窩動脈を選択したり,新生児症例では臍帯静脈を使用したり,場合によっては鎖骨下静脈や肝静脈なども選択肢として候補に挙がる.複数回の心臓カテーテルや手術施行症例では閉塞していることも少なくないため,事前に開存をエコーなどで確認することは当然である.
カテーテル検査前の一般検査として,貧血が著しければ患児の状態を考慮した上で一旦延期して鉄剤を投与,または場合によっては輸血も考慮する.また低酸素血症の影響で多血症の児に対しては事前の輸液などで多血症の改善を目指す.腎機能が低下している患児に対しては心機能との兼ね合いにはなるが,事前からの輸液を行うことや造影剤量を極力少なくするなどの配慮が必要である.ファロー四徴症の児にはチアノーゼ発作予防のため事前からの輸液を十分行っておくなど,病態に応じた輸液量の調節も考慮する.
心臓カテーテル検査は大きく分けると1)圧測定,2)血液サンプリングの2つだが,これに同時に行われることの多い3)心血管造影検査を加えて述べる.
心房波は基本的にa, vの陽性波とx, yの陰性波で構成されている.a, vの間に房室弁閉鎖により生じるc波も認める場合もあるが臨床的意義は小さい.それぞれa波は心房収縮,v波は心房への血液充満,x谷は心房弛緩,y谷は房室弁解放を反映している.一般的に右心房圧はa波がv波より高く,左心房圧はv波がa波より高い(Fig. 1).
The “a” wave represents atrial systole. The “v” wave represents filling of right atrial against a closed tricuspid valve. The “x” descent represents atrial relaxation. The “y” descent represents the opening of the tricuspid valve in early diastole.
肺動脈楔入圧は肺静脈圧を良く反映する.肺静脈狭窄や僧帽弁狭窄,三心房心などがなければ肺動脈楔入圧は左室拡張末期圧を良く反映するが,先天性心疾患領域では肺静脈狭窄の程度が治療方針決定に大きく関与する場合もあり,必要があれば逆行性に肺静脈圧や左心房圧測定も考慮する.
筆者らは逆行性に肺静脈にカテーテルを進める場合,以前は4 French Berman catheterを形成して使用することが多かったが,近年は2.7 Frenchハイフロータイプのマイクロカテーテルをガイドワイヤー併用して使用することも多くなっている(Fig. 2).ハイフロータイプのマイクロカテーテルはメーカー推奨がないため参考値程度ではあるが圧測定も可能で,サンプリングも可能なため非常に有用である.我々は主要体肺動脈側副血行の圧測定等にも使用している.
左室収縮期圧は体高血圧,大動脈縮窄症,大動脈狭窄症(弁上,弁性,弁下)で上昇する.左室拡張末期圧は左室収縮期圧が立ち上がる変曲点で計測するが,はっきりしない場合は同時記録された心電図QRSの頂点か最下点での圧をとる5).僧帽弁狭窄症がなければ左心房圧との同時記録で左心室圧波形と左心房圧波形の交差する圧とする方法もある1).左室拡張末期圧は左心不全,収縮性心膜炎,大動脈弁疾患などで増加する.
大動脈圧は体血圧を反映する.脈圧は収縮期血圧の50%未満が正常である.脈圧は大動脈弁閉鎖不全,動脈管開存,体肺動脈側副血行,大動脈肺動脈窓,Blalock-Taussigシャント術後などで増大し,心タンポナーデ,心不全などで減少する.
右室収縮期圧は30 mmHg未満が正常であり,肺高血圧症,肺動脈狭窄症などで増加する.
肺動脈収縮期圧も30 mmHg未満が正常であり,平均肺動脈圧は20 mmHg未満が正常で,平均肺動脈圧が25 mmHg以上を肺高血圧症とする.
肺動脈圧が上昇する病態としては,肺動脈性肺高血圧,肺静脈狭窄,左房圧上昇をきたす僧帽弁狭窄や左室拡張障害,肺胞低換気,肺疾患,動脈管開存や心室中隔欠損などが挙げられる.
高肺血流型短絡疾患では肺動脈脈圧が収縮期肺動脈圧の60%より大きければ,肺血管抵抗は低く,肺動脈脈圧が収縮期肺動脈圧の40%未満なら肺血管抵抗が高いことが示唆される4).
肺血管抵抗は平均肺動脈圧と平均肺静脈圧の差を肺血流量で除したもので求められ,肺血流量はFick法を用いて計算する.
Fick法とは「一定時間に使用または供給した物質を前後の濃度差で除する」ことによってその流量を算出できるものである.それによって肺血流量(Qp)はQp=酸素消費量/(肺静脈酸素含有量)−(肺動脈酸素含有量)で算出される.酸素含有量(vol%=100 mL中に含まれる量)はヘモグロビンとの結合酸素と血中溶解酸素との和である.ヘモグロビンとの結合酸素は1.36×Hb(g/dL)×(酸素飽和度:SaO2(%))/100,また血中溶解酸素は0.0031×PaO2(mmHg)であるため,酸素含有量=1.36×Hb(g/dL)×SaO2(%)/100+0.0031×PaO2(mmHg)と表される.FiO2 0.21の通常の環境下では,血中溶解酸素は無視できる.しかし,酸素負荷試験施行時には血中溶解酸素も無視せず計算しなくてはならない.例を挙げるとHb 12 g/dL, SaO2100%, PaO2100 mmHg場合,酸素含有量=16.32+0.31(vol%)と血中溶解酸素は1.8%にしか過ぎないが,酸素負荷試験時のHb 12 g/dL, SaO2100%, PaO2500 mmHg場合,酸素含有量=16.32+1.55(vol%)と血中溶解酸素は8.7%にもなるため無視できなくなる.プログラミングでの自動計算でなければ,酸素含有量=1.36×Hb×SaO2/100+0.0031×PaO2=1.36×Hb×(SaO2+0.22PaO2/Hb)/100となるため,SO2(%)+0.22PaO2/Hbを計算して,酸素非投与下での計算式のSO2部分に代入して肺血流量や肺血管抵抗などを求めるのが簡便である.
心血管造影を行う際にも診断のためか,カテーテルインターベンションのためか,外科手術のためのものか常に目的を考慮する.それにより管球にangleをかけるか,正面側面で造影するかも異なってくる場合がある.外科手術のための造影検査の場合,外科医の視点ということも考慮する必要がある.
造影検査の際の一般的な造影カテーテルの選択,位置,造影剤使用量やangle等はLockらの成書1)に非常によくまとまっているため是非参照していただきたいが,そこに記載されているように小児の場合造影剤量は正常サイズの心室であれば体重あたり1 mLを1–1.5秒程度で可能なかぎり早く注入することが原則である.しかし,新生児は学童よりも体重あたりの循環血液量が多いため,体重あたりの造影剤使用量は多くすることや,造影する部位の拡大や低形成の程度も考慮して造影剤の量や注入速度を決定しなければならない.
病変部位を描出するために管球にangleをかけるが,CTやMRIでの画像が頻用される今日では,時代的には逆にはなるがCTやMRIの画像から造影検査のangleをイメージする方がわかりやすい.疾患毎の代表的な管球のangleのかけ方も,同じ疾患での造影CT等と比べると先人達の偉大さがとてもよく分かる.同一症例で事前に造影CT等を撮影しMPR(Multi Planar Reconstruction)法で病変部を描出している場合にはもちろんその角度に近くなるように管球を設定する.MPR法がなければ体軸断面から左前斜位(Left Anterior Oblique: LAO)または右前斜位(Right Anterior Oblique: RAO)の角度,矢状断面から頭側斜位(Cranial)または尾側斜位(Caudal)の角度をみるイメージで管球を設定すればよい(Fig. 3).
A: Cardiac computed tomography, sagittal image: The white arrow indicates left pulmonary artery stenosis and corresponds to the direction of the X-ray beam from the frontal plane detector angled at 40 degrees cranial. B: Cardiac computed tomography, axial image: The white arrow indicates left pulmonary artery stenosis and corresponds to the direction of the X-ray beam from the frontal plane detector angled at 26 degrees left anterior oblique. C: Main pulmonary artery angiography with 40 degrees cranial plus 26 degrees left anterior oblique, based on the finding of cardiac computed tomography.
低酸素血症の原因の一つに肺動静脈瘻がある.選択的肺動脈造影でも診断できることが多いが,肺動脈からのコントラストエコーは診断に有用なことが多い.特に単心室循環では体静脈–肺静脈シャントも存在することが多く,末梢静脈からのコントラストエコーや肺血流シンチでは右左シャントの存在は分かっても,体静脈–肺静脈シャントと肺動静脈瘻との区別はできない.方法7)としては選択的に肺動脈に進めたカテーテルから攪拌生理食塩水を注入し,経胸壁または経食道心エコーで肺静脈および肺静脈に接合している心房心室を観察する.攪拌生理食塩水は正常の肺毛細血管を通過することはできないため,補足されるはずであるが,肺動静脈瘻があるとマイクロバブルが補足されないため肺静脈および肺静脈に接合している心房心室にコントラストが出現する(Fig. 4).肺動静脈瘻の発生にはhepatic factorの関与が指摘8)されており.肝静脈血が誘導されにくい肺動脈には肺動静脈瘻が発生しやすくなり,場合によっては早期の外科的介入が必要となるためその診断は重要である.
A: Selective right upper lobe pulmonary artery angiography shows pulmonary arteriovenous malformation. B: Echocardiography with injection of agitated saline mixed with blood through the catheter positioned at right upper lobe pulmonary artery demonstrates opacification of single ventricle, suggesting intrapulmonary shunting.
経カテーテル的心房中隔欠損閉鎖術の際に利用するのは一般的だが,大動脈弁や僧帽弁の形態異常の診断やカテーテル的fenestration作製時のガイドとしても経食道心エコーは非常に有用であるため,カテーテル検査を計画するときに必要であれば全身麻酔下として経食道心エコーも計画する.
心臓カテーテル検査を進めていく際に,得られたデータと予想との相違がないか,また相違がある場合はその理由がなにかを常に確認し続けなければならない.また,カテ室内での追加の検査,例えば酸素負荷試験や他の部位の造影などが必要かどうか,カテーテルインターベンションの適応となる部位がないか,そして手術適応,投薬,追加治療を含めた今後の治療方針をどのようにしたらよいかを考え,全ての答えを明確にして心臓カテーテル検査の終了を考慮する.バイタルサインを確認し,必要があればACT(Activated clotting time)や血液ガス分析を行い,造影検査を行っている場合は腎尿路奇形の有無を確認し検査終了とする.
心臓カテーテル検査は侵襲的検査であり,その検査から得られる情報の有用性が侵襲度を上回らなければ意味がない.そのためには事前の準備と確認が重要である.心臓カテーテル検査に携わる人にとって本稿がその準備と確認の際に成書を紐解くきっかけとなれば幸いである.
日本Pediatric Interventional Cardiology学会の定める利益相反に関する開示事項はありません.
1) Lock JE, Keane JF, Perry SB: Diagnosis and Interventional Catheterization in Congenital Heart Disease. 2nd edition. Massachusetts, Kluwer Academic Publishers, 2000
2) Mullins CE: Cardiac Catheterization in Congenital Heart Disease: Pediatric and Adult. New Jersey, Wiley-Blackwell, 2006
3) Freedom RM, Mawson JB, Yoo SJ, et al: Congenital heart disease: Textbook of angiography. New Jersey, Wiley-Blackwell, 1997
4) 今野草二,小柳 仁,門間和夫 他:新・心臓カテーテル法.東京,南行堂,1984
5) Allen HD, Driscoll DJ, Shaddy RE, et al: Moss & Adams’ Heart Disease in Infants, Children, and Adolescents. Eighth edition. Philadelphia, Lippincott Williams & Wilkins, 2013, pp 258–287
6) 森 善樹:心臓カテーテル検査によって得られた結果をどう解釈するか.日小児循環器会誌 2015, 31: 148–156
7) Chang RK, Alejos JC, Atkinson D, et al: Bubble contrast echocardiography in detecting pulmonary arteriovenous shunting in children with univentricular heart after cavopulmonary anastomosis. J Am Coll Cardiol 1999; 37: 2052–2058
8) Srivastava D, Preminger T, Lock JE, et al: Hepatic venous blood and the development of pulmonary arteriovenous malformations in congenital heart disease. Circulation 1995; 92: 1217–1222
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