Journal of JCIC

Online edition: ISSN 2432–2342
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Journal of JPIC 1(1): 20-23 (2016)
doi:10.20599/jjpic.1.20

症例報告Case Report

第5大動脈弓遺残を合併した大動脈縮窄に対してステント留置を行った一例Stenting for Coarctation of the Aorta Complicated by Persistent Fifth Aortic Arch

1昭和大学横浜市北部病院循環器センターCardiovascular Center, Showa University Northern Yokohama Hospital

2昭和大学横浜市北部病院こどもセンターChildren’s Medical Center, Showa University Northern Yokohama Hospital

受付日:2016年5月24日Received: May 24, 2016
受理日:2016年5月28日Accepted: May 28, 2016
発行日:2016年8月31日Published: August 31, 2016
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第5大動脈弓遺残に合併した大動脈縮窄に対して,カテーテル治療は選択肢となり得るがその報告は少ない.本症例は14歳の男児で第4, 第5大動脈弓が近位部と遠位部で接続する“Double-Lumen Aortic Arch”を呈する第5大動脈弓遺残で,第4大動脈弓の大動脈縮窄を合併していた.大動脈弓は軽度の低形成で,縮窄部と合わせて上行–下行大動脈間に25 mmHgの圧較差を認めた.第4大動脈弓の縮窄部にPalmaz extra-largeステントの留置を行い,狭窄部は良好に拡大され第5大動脈弓の血流は消失した.第5大動脈弓遺残を合併した第4大動脈弓縮窄の未手術例に対してステントの留置が有効であった症例を報告する.

Coarctation of the aorta complicated by persistent fifth aortic arch can be a candidate for catheter intervention. However, there is a paucity of reports on catheter intervention for this anomaly. We report stenting for 14 year-old boy with coarctation of the aorta in fourth arch complicated by persistent fifth aortic arch. This case shows the “double-lumen aortic arch” which had the narrowing at the distal of fourth arch as a main lumen and small fifth arch with narrowing at the distal communication. Transverse arch was slightly hypoplastic, while there was a pressure gradient of 25 mmHg between ascending and descending aorta. We implanted Palmaz extra-large stent in coarctation of the fourth aortic arch. The narrowing was successfully treated and the additional blood flow of fifth arch was disappeared.

キーワード:第5大動脈弓遺残;大動脈縮窄;ステント;カテーテル治療;Palmaz extra-large stent

Key words: Persistent fifth aortic arch; Coarctation of the aorta; Stent; Catheter intervention; Palmaz extra-large stent

はじめに

第5大動脈弓遺残は非常にまれな疾患で,第4,第5大動脈弓が近位部と遠位部で接続する“Double-Lumen Aortic Arch”を呈する型や第4大動脈弓の離断を呈する型が存在し,大動脈縮窄の合併が多い.大動脈縮窄に対してはカテーテル治療も選択肢となり得るが,その報告は少ない.第5大動脈弓遺残を合併した第4大動脈弓縮窄の未手術例に対してPalmaz extra-largeステントの留置を行ったので報告する.

症例

症例は14歳の男児で身長145.9 cm,体重39.8 kg(体表面積1.27 m2).両親の身長は父親175 cm,母親154 cmで,Target heightは170 cm.8歳で感冒罹患時に小児科受診した際に心雑音を指摘され当院に紹介となった.胸骨左縁第2肋間でLevine 3度の収縮期駆出性雑音が聴取され,脈拍の上下肢差を認めた.血圧はそれぞれ,右上肢116/73 mmHg,左上肢114/53 mmHg,下肢79/41 mmHgであった.

造影CT(Fig. 1)にて“Double-Lumen Aortic Arch”を呈する第5大動脈弓遺残,第4大動脈弓大動脈縮窄症と診断した.大動脈弓はやや低形成で,第4大動脈弓の遠位端に縮窄を認めた.心臓カテーテル検査では,上行大動脈90/45(60)mmHg,下行大動脈65/45(53)mmHgで,大動脈弓と縮窄部でそれぞれ10 mmHgと15 mmHgの圧較差を認め,合計で25 mmHgの圧較差であった.第5弓は下行大動脈に狭窄の遠位で下行大動脈に付着していた.計測値はFig. 2のとおりであり,狭窄部の近位の参照血管径は12.4 mm,下部狭窄の最狭窄部径7.4 mm,横隔膜位での下行大動脈径16.7 mmであった.

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Fig. 1 Three dimensional reconstruction of the computed tomography

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Fig. 2 Aortic angiography before the procedure

a) Lateral view, b) Left anterior oblique 30°, LAO: Left anterior oblique.

圧較差が存在している2か所の狭窄部の双方をカバー可能であれば,残存圧較差が10 mmHg未満となることが想定されるためステント留置を行う方針とした.上記の計測値から,ステントは14 mmまで拡大することとし,体格も加味してPalmaz extra-largeステント(P4010)の留置が望ましいと判断した.Palmaz extra-largeステントを14 mmまで拡大した際の拡張時ステント長は37.8 mm(短縮率5.1%)であり,Fig. 3aの位置に留置することを想定した.ステント留置時のリスク軽減,第5大動脈弓の残存血流による溶血の回避,4弓に相当するArch部分の発育促進などを考慮して,ステント留置に先だって第5大動脈弓をコイルで塞栓することを考えたが,コイルが上行大動脈側に流出し固定が不良のため断念した.右大腿動脈から10F Blue sheath(90 cm)を下行大動脈まで挿入し,Amplatz Whiskerガイドワイヤー(0.035 inch/140 cm)を右鎖骨下動脈に留置した.Palmaz extra-largeステントをXXL 14 mm/4 cmlにマウントした.ステントの近位端が小弯側屈曲部にくるように位置決めをし,下部の狭窄をカバーする形でステントを留置した.6気圧まで加圧してウエストは完全に消失,大動脈弓で残存圧較差10 mmHgを認めたが,狭窄部は良好に拡大された(Fig. 3b, 3c).ステント留置後2か月で上下肢の血圧差は10 mmHg未満であり,経過良好である.

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Fig. 3 Aortic angiography

a) White line shows the prospected position the Palmaz extra-large stent which dilated to 20 mm, b) Angiogram at positioning of the stent, c) Angiogram after stenting.

考察

第5大動脈弓遺残は非常にまれな疾患で,本邦においても症例報告が散見される程度である.第4,第5大動脈弓が近位部と遠位部で接続するいわゆる“Double-Lumen Aortic Arch”を呈する型や第4大動脈弓の離断を呈する型が存在し,複雑な大動脈弓形態を示すことがある1).大動脈縮窄の合併が多く,Lambertら2)の報告によるとその頻度は38%である.一般に,未手術の大動脈縮窄症では,成人の大動脈径まで拡大できるステントを留置できる状況であればClass IIaの推奨である3).第5大動脈弓遺残に合併した大動脈縮窄においてもカテーテル治療は選択肢となり得るが,その報告はバルーン血管形成術を含めても非常に少ない4–7).特にステント留置は現在まで本症例を含めて3例の報告があるのみである(Table 1).第5大動脈弓遺残では通常の大動脈縮窄と異なったアーチ形態を呈するため,ステントの適応となりにくいことが原因の一つと考えられるが,Khajaliら6)の症例は本症例と同じく“Double-Lumen Aortic Arch”を呈した第5大動脈弓遺残で,第4,第5大動脈弓の接続部の遠位に狭窄があり,第5大動脈弓にステント留置を施行した.また,Valderramaら7)の症例は第4大動脈弓の離断を伴う第5大動脈弓遺残で,狭窄がある第5大動脈弓にステント留置を施行した.両報告とも,第4大動脈弓部分は頚部血管の近位側の共通部分を担う脈管で,狭窄した第5大動脈弓が主たる大動脈弓としての血流を担う脈管であったため,ステントは第5大動脈弓に留置されている.本症例は狭窄した第4大動脈弓が主たる大動脈弓として働いており,第4大動脈弓にステント留置を行った.第5大動脈弓遺残を伴う症例で第4大動脈弓にステントを留置した症例は知り得た限りでは初の報告である.ステントはKhajaliらの症例6),Valderramaらの症例7)では,それぞれCPステントとカバードCPステントが使用された.CPステントはステント長の規格が16, 22, 28, 34, 39, 45 mmと多様であり,複雑な形態に対応しやすいものと思われる.Khajaliらの症例6)では34 mmが,Valderramaらの症例7)では39 mmが使用され,両報告とも良好な効果が得られている.一方,現在本邦で大動脈縮窄に使用可能なステントは現実的にはPalmazステントのみである.本症例に使用したPalmaz extra-largeステントのステント長は40 mmに限られるため,留置する大動脈の形態に大きく制限が加わるものと思われる.本症例は40 mmのステント長が許容できるぎりぎりの形態であった.また,本症例ではステント留置によって第5大動脈弓の血流は遮断されたが,留置したステントのside-cellを介して第5大動脈弓の血流が残存していた場合,溶血や第4大動脈弓の発育の妨げとなることなどが懸念された.将来的にはValderramaら7)の報告になるようなカバードCPステントの使用はこのような問題を解決する際の選択肢となり得る.

ステントのサイズ選択に関して,山村ら8)は大動脈縮窄症例の参照血管径を計測し,体表面積1.3 m2以上の症例では,近位部で60%,遠位部で70%が血管径18 mm以上であり,Palmaz extra-largeステントの選択が好ましいと報告している.短縮率に関しても,20 mmまで拡大した場合のPalmaz largeの短縮率が50%以上であるのに対して,Palmaz extra-largeステントの短縮率は12.8%であり,この点でも優位性がある.本症例ではこれらの点を勘案してPalmaz extra-largeステントを選択した.本症例のような複雑な形態の大動脈縮窄に対しても,Palmaz extra-largeステントの留置が有用であった.

Table 1 Reported cases of stenting for coarctation of aorta associated with persistent fifth aortic arch.
No.AgeGenderAnatomySite of stentingStent/BaloonReference
120-year-oldMaleDiscrete narrowing at the distal communication of 4th and 5th arch5th archBare CP stent (34 mm long) on 18 mm×4 cm BIB6
215-year-oldFemaleInterruption of 4th arch Discrete narrowing at the distal of 5th arch5th archCovered CP stent (39 mm long) on 14 mm×4 cm Maxi LD7
314-year-oldMaleNarrowing at the proximal and distal of 4th arch Small 5th arch with narrowing at the distal communication4th archPalmaz extra-large (P4010) on 14 mm/4 cm XXLOur case

結語

第5大動脈弓遺残を合併した第4大動脈弓縮窄の未手術例に対してステント留置を行った.本症例は第4大動脈弓にステントを留置を行った初の報告であり,Palmaz extra-large stentが有用であった.

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