Journal of JCIC

Online edition: ISSN 2432–2342
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Journal of JCIC 9(2): 25-28 (2025)
doi:10.20599/jjcic.9.25

症例報告Case Report

複数閉鎖栓で経皮的塞栓術を行うことで僧帽弁と閉鎖栓の干渉を解消した多孔性心房中隔欠損症の1例A case report; percutaneous atrial septal defect closure using multiple devices to avoid encroachment of device on atrioventricular valve

千葉県こども病院循環器内科Department of Cardiology, Chiba Children’s Hospital

受付日:2024年9月13日Received: September 13, 2024
受理日:2025年1月6日Accepted: January 6, 2025
発行日:2025年8月31日Published: August 31, 2025
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【はじめに】多孔性心房中隔欠損症の経皮的塞栓術では,欠損孔の大きさや位置関係から治療の可否,閉鎖栓個数などを判断する必要がある.【症例】9歳女児.主孔15 mmの下方に2つの副孔を認め,大動脈周囲縁(2 mm)と僧帽弁周囲縁(4 mm)が短かった.Figulla® Flex II (FF II) (Occlutech GmbH, Jena, Germany) 19.5 mmの単独閉鎖栓留置を試みたが,僧帽弁に接触し回収した.下方の副孔にAMPLATZER® Cribriform Multifenestrated Septal Occluder (Abbott, St Paul, MN, USA) 18 mmを留置後,主孔にFF II 18 mmを留置したところ,僧帽弁干渉が解消された.下方の組織の脆弱性から閉鎖栓が下方にシフトし僧帽弁と干渉していたが,副孔閉鎖栓が主孔閉鎖栓の下方支持となり干渉が解消されたと考えられた.【結語】複数個閉鎖栓の使用は周囲組織との干渉回避の手段としても検討され得る.

We report the case of an asymptomatic 9-year-old girl who was successfully treated with percutaneous atrial septal defect (ASD) closure for multiple secundum defects. Pre-interventional transesophageal echocardiography showed three ostium secundum defects: a 15-mm main defect, a second 5-mm accessory defect with a strand separated from the main defect, and a third posteroinferior 7-mm defect with a 5-mm inter-defect distance. The atrioventricular and aortic rims measured <5 mm. The balloon-stretched diameter of the main defect was 16.5 mm, and that of the accessory defect was 7 mm. First, we attempted to deploy one device, Figulla® Flex II (FF II) (Occlutech GmbH, Jena, Germany) 19.5 mm, to occlude all three defects because of the short inter-defect distances and successful balloon interrogation. However, the device was not released because it encroached on the mitral valve. Deploying the smaller single device, FF II 18 mm, resulted not only in mitral valve insufficiency but also posterior residual shunt. Finally, we successfully deployed double overlapped devices, AMPLATZER® Cribriform Multifenestrated Septal Occluder (Abbott, St Paul, MN, USA) 18 mm for the posterior small defect and FF II 18 mm for the main defect, with no interference with the adjacent structures and residual shunt. By deploying the posterior device first, the anterior device for the main defect was moved away from the atrioventricular valve. Using a 2-device strategy for the closure of multiple ASDs can be an option to avoid encroachment of the device on the adjacent tissue.

Key words: multiple atrial septal defects; percutaneous closure; multiple devices; atrioventricular valve; complete closure

背景

ASDの約14%に認める多孔性ASD(multiple ASD)1)に対して経皮的塞栓術を行った報告が散見されるが,閉鎖栓個数,閉鎖栓サイズ選択,留置方法は様々で,推奨されるプロトコルはない.今回大動脈周囲縁(rim)・僧帽弁rimの短いmultiple ASDの経皮的塞栓術で,単独閉鎖栓留置では僧帽弁との干渉が強く留置困難であったが,複数閉鎖栓を用いることで留置が可能であった1例を報告する.

症例

9歳女児,身長127 cm,体重26 kg.経食道超音波(TEE)で主孔15 mmと2つの副孔を認め,四腔断面像で計測した心房中隔長は35 mmだった.主孔は大動脈rimが2 mmと僅かで,一次中隔と二次中隔に6 mmの整列異常を認めた.僧帽弁rimが4 mmと短めで,留置後の閉鎖栓と僧帽弁との干渉が懸念された.副孔は2個あり,副孔①はstrandにより主孔と分離していて(Fig. 1)冠静脈洞近傍に観察されることから,下方に位置すると推測されたが,組織の薄い小児では細いstrandを3D TEEで可視化することが困難であった.他方の副孔②は主孔の後下方に位置しており,主孔との孔間距離が5 mmであった(Fig. 2).主孔,副孔②に対して各々のサイジングバルーン閉塞径(stop-flow method)を計測した.主孔のサイジングバルーン閉塞径は16.5 mmで,バルーンサイジング中に副孔①からのシャントは完全に消失した.副孔②も欠損孔自体は消失し,カラードップラーで僅かにシャントを認めるのみであった.副孔②のサイジングバルーン閉塞径は7 mmだった.比較的短い孔間距離と,主孔のバルーンサイジング中にほぼ欠損孔を閉塞できた所見から,単独閉鎖栓での治療を行う方針とした.大動脈rimの整列異常,2つの副孔の存在を考慮に入れて,やや大きめの閉鎖栓を選択し,主孔にFigulla® Flex II(FF II)(Occlutech GmbH, Jena, Germany)19.5 mmを留置した.副孔②からは僅かな遺残を認めたが,欠損孔自体は視認できない程度に押しつぶされていた.しかしながら,短い僧帽弁rimから懸念されたように,留置した閉鎖栓が僧帽弁前尖に接触し,留置前にはなかった僧帽弁逆流が出現したため,留置を断念した(Fig. 3).FF II 18 mmにサイズダウンしたが,僧帽弁への干渉の程度はあまり変わらず,副孔②の欠損孔が視認できるようになり,やはり留置を断念した.閉鎖栓サイズダウンでも僧帽弁と閉鎖栓の干渉が改善しないことから,下方の副孔①を作っているstrandや下方の中隔組織が脆弱でデバイスを支持できず,主孔の閉鎖栓が下方にシフトしてしまう可能性が考えられた.このため,後下方の副孔②にデバイスを留置して上方の主孔閉鎖栓の支えとすることで,主孔閉鎖栓と僧帽弁との位置関係が変化すると推測し,複数個閉鎖栓留置に方針を変更した.

Journal of JCIC 9(2): 25-28 (2025)

Fig. 1 Main defect and one of accessory defects divided with a strand (arrow)

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Fig. 2 Schematic representation of multiple atrial septal defects assessed by baseline transesophageal echocardiographic

SVC indicates superior vena cava; PV, pulmonary vein; Ao, Aorta; AVV, atrioventicular valve; CS, coronary sinus; IVC, inferior vena cava.

Journal of JCIC 9(2): 25-28 (2025)

Fig. 3 Figulla® Flex II 19.5 mm deployed to occlude all three defects and encroachment of the device onto the mitral valve (arrow)

LA indicates left atrium; RA, right atrium; LV, left ventricle; RV, right ventricle.

当院では,複数閉鎖栓を留置する場合,中隔がfloppyであることの多い下方にAMPLATZER®閉鎖栓を,大動脈との干渉が懸念される上方にFF II閉鎖栓をそれぞれ選択することが多い.今回は単独閉鎖栓留置時に欠損孔閉鎖は達成できていた所見から,下方の追加閉鎖栓としては主孔に留置する閉鎖栓への影響の少ない,ウエストのないAMPLATZER® Cribriform Multifenestrated Septal Occluder(Cribriform)(Abbott, St Paul, MN, USA)を選択した.まず後下方の副孔②に,主孔閉鎖栓の下方支持を目的に,最小サイズのCribriform 18 mmを留置した.その後主孔の残存短絡に対して,単独留置の際に僅かな短絡を生じたFF II 18 mmを留置したところ,主孔閉鎖栓と僧帽弁との干渉が改善し(Fig. 4, Fig. 5)治療を終了とした.治療後特記すべき治療合併症はなく経過している.

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Fig. 4 Schematic representation of multiple atrial septal defects and deployed device assessed by postintervention transesophageal echocardiographic

SVC indicates superior vena cava; PV, pulmonary vein; Ao, Aorta; AVV, atrioventicular valve; CS, coronary sinus; IVC, inferior vena cava; FF II, Figulla® Flex II; Cribriform, AMPLATZER® Cribriform Multifenestrated Septal Occluder.

Journal of JCIC 9(2): 25-28 (2025)

Fig. 5 Resolved encroachment of the device onto the mitral valve (arrow) after deploying 2 devices, Figulla® Flex II 18 mm and AMPLATZER® Cribriform Multifenestrated Septal Occluder 18 mm

LA indicates left atrium; RA, right atrium; LV, left ventricle; RV, right ventricle.

考察

小児のmultiple ASD経皮的塞栓術のデバイス選択,留置方法に関する情報は少ない.単独閉鎖栓・複数個閉鎖栓使用のどちらが望ましいかを検討する指標として,孔間距離を用いることが報告されている.孔間距離<7 mmのmultiple ASDでは単独閉鎖栓で治療を行う傾向にあり,>7 mmの場合は複数個閉鎖栓を選択するとされている2).Balloon interrogationを指標として用いることもあり,一つのバルーンで複数孔のstop flowを達成できる場合には単独閉鎖栓を用い,達成できない場合は複数個閉鎖栓を用いるとされている3).当院でも孔間距離<7 mmの症例や主孔に対するバルーンサイジングで副孔の閉鎖が得られた場合には,単独閉鎖栓を留置する方針である.本症例でも当初単独閉鎖栓の方針を選択した.大動脈rimの整列異常や,strandにより分離された副孔などを鑑みて,やや大きめの閉鎖栓を選択したが僧帽弁逆流が出現したため,オーバーサイズが原因と考え閉鎖栓をサイズダウンした.しかしながら弁への干渉は改善せず,後下方の副孔からは残存短絡が出現した.以上の所見から,オーバーサイズではなく,副孔を分離するstrandや下方の中隔組織の脆弱性から,至適サイズの閉鎖栓でも閉鎖栓が容易に下方にシフトし僧帽弁に干渉していると考えた.このため,後下方の副孔②に閉鎖栓を留置することで,主孔閉鎖栓の下方支持になると判断し,複数閉鎖栓留置の方針に変更した.

当院で複数閉鎖栓を留置する際には,閉鎖栓留置前に各々の孔に対してバルーンサイジングを行い,サイジングバルーンが他の欠損孔にどのように影響するかを観察して閉鎖栓サイズを決めている.留置の手順としては,まず下方から留置し,大動脈への干渉を見ながら上方のデバイスの留置を行っている.デバイス選択では,下方には中隔が脆弱であることが多いためAMPLATZER®閉鎖栓を選択し,上方には大動脈への干渉を懸念しFF IIを用いることが多い.本症例では,下方のデバイスを選択する際にはバルーンサイジングの所見ではなく,主孔にFF II 18 mmを単独留置した際に観察された僅かな副孔の短絡の所見を根拠に,主孔に置くデバイスへの影響が少ないと思われるウエストのないCribriform 18 mmを選択した.下方の閉鎖栓から留置し,大動脈との干渉を見ながら上方の主孔に単独留置の際に僅かに副孔に短絡が生じたFF II 18 mmを留置したところ,僧帽弁との干渉も生じず留置に成功した.このように,周囲組織との干渉回避の手段としても,複数個閉鎖栓を用いる閉鎖戦略が検討され得ると考えられた.

multiple ASDの立体構造は複雑であり,3D TEEが構造の把握に有効であるという報告がある4).しかしながら小児では中隔組織が薄く,副孔を明瞭に描出できないことも経験する.本症例においても細いstrandは3D TEEで描出は困難であった.2D TEEでのstrandの所見,単独閉鎖栓を留置した際に閉鎖栓が下方の中隔組織に指示されず僧帽弁と接触する様子,閉鎖栓をサイズダウンしたにも関わらず僧帽弁と閉鎖栓の干渉がほとんど変わらなかった所見を総合的に評価し,主孔の下方組織の脆弱性を予測した.治療前の所見だけでなく,治療中の閉鎖栓留置後の閉鎖栓と周囲の構造物との位置関係の変化を2D TEEで慎重に観察することで,3D TEEが良好に描出できない小児でも,複雑なmultiple ASDの構造を把握することが可能と思われた.

結語

Multiple ASDの経皮的塞栓術で,先に下方の閉鎖栓を留置することで上方の閉鎖栓の下方支持となり,上方閉鎖栓と僧帽弁との干渉が解消された1例を経験した.複数個閉鎖栓は,周囲組織との干渉回避の手段としても検討されうると思われた.

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