富田賞受賞報告とステントの放射支持力Report on Tomita Award and the radial force of stents
静岡県立こども病院循環器科Department of Cardiology, Shizuoka Children’s Hospital
Key words: JCIC-Registry; Radial Force; stent overexpansion
© 2025 一般社団法人日本先天性心疾患インターベンション学会© 2025 Japanese Society of Congenital Interventional Cardiology
2020年に研究課題“国産血管内ベアメタルステントの開発”で富田賞を受賞させていただいた.国内で,先天性心疾患用のステントは存在せず,冠動脈や末梢血管,胆道のステントが流用される中,薬剤溶出性ステントの拡大で,冠動脈ステントではこの時期にベアメタルステントが生産縮小,さらに2021年には供給停止となった.この背景から,新生児から成人の幅広い体格の先天性心疾患で使用可能な血管内ベアメタルステントを安定供給できれば,この患者群の狭窄性病変の治療効果向上につながると考え,上記の研究課題を立案した.研究課題の達成のため,複数の企業に共同研究を依頼したが実現には,採算性のハードルが高く進展性のある段階には至っていない.実際に,冠動脈ステントの出荷本数を複数社に調査すると年間約1.5~3万本程度であった.JCIC-Registryからの報告で先天性心疾患に対するステント留置術は,2019年の年間セッション数が157であった1).1セッションで複数本留置のセッションも考慮して,先天性心疾患領域での年間ステント使用数を約200本と試算した.仮にこのステントが全部同じ種類とすると,1.5万本の出荷本数と同等の売上高を担保するには,薬剤溶出性ステントの償還価格148,000円を参考にして,単純計算で75倍の約1,100万円の償還価格設定が必要となる.希少疾患における市場規模の問題は大変大きな障壁となることを再認識した.先天性心疾患で使用されるステントは,冠動脈用ステントを含めたsmall, medium, large, extra largeといった4つの幅のカテゴリーにわけられるため,更に状況は厳しいことが予想される.
体格の成長がある小児期のステント治療では,成長に伴うステントの再拡張性は重要な因子である.日常診療でもしばしばステントの再拡張術を施行することがある.その中で,推奨拡張径をこえた場合のステントの血管拡張性,支持力は十分なのか,今回実験を実施した.
ステントの放射支持力(Radial Force)に関して,腎動脈用ステントであるExpress™ vascular SD 6 mm径(Boston Scientific Corporation, Marlborough, MA, USA)を用いて検証した.拡張したステントをBlockwise社のRadial Force Tester Model TTR2 with J-Crimp™ Station2)に挿入し,Radial Forceを測定した.弾性領域(荷重を取り除くと変形がなくなる範囲)と塑性域(荷重を取り除いても変形が残存する範囲)に注目し,この境目である弾性限に着目し,この時点の荷重を,血管を保持する最大荷重としてRadial Forceとした.
実験結果およびステントの形状について以下に示す(Table 1, Fig. 1-1, 2).
Express SD (Diameter-total length; mm) | Expanded diameter (mm) | Total length after expansion (mm) | Radial Forced (N/mm) |
---|---|---|---|
① 6-14 | 6.5 | 13 | 3.9 |
② 6-14 | 7.5 | 13 | 4.5 |
③ 6-14 | 8.5 | 12.5 | 5.8 |
④ 6-18 | 9.0 | 7.0 | 5.1 |
From top to bottom: expansion diameters of 6.5 mm, 7.5 mm, 8.5 mm, and 9.0 mm. Left column: stent shape after expansion. Right column: stent shape after Radial Force measurement.
我々が日常的に使用する腎動脈用ステントで過拡張時のステント形状およびRadial Forceの測定を実施した.
ステントに表示されている推奨最大拡張径(6.5 mm)までの拡張では,ステント形状に問題なく,Radial Force測定時の圧縮後のステント形状もステント拡張前に類似した.一方で,過拡張時はステントのセルが大きく広がり,圧縮時の変形も大きかった.
Radial Forceに関しては,弾性限での荷重は過拡張時に推奨最大拡張径時より大きく,血管を保持する強度は高まっていた.過拡張時には,ステントのセルが拡張方向に直線状になることで拡張される(Fig. 1-3)ため,今回の測定のように拡張方向からの荷重では,過拡張に伴い金属ストラットに対して平行に近い方向からの力となるためRadial Forceが増したと考えられた.9.0 mm径に関してはステントのストラットが均等にはならず,密な部分と疎な部分を生じ,8.5 mm径より低下する結果となった.こちらに関しては均等な拡張時のデータを再取得する必要がある.また湾曲する血管などステントと血管の軸がずれている場合の斜め方向からの力に関しては,この実験では考慮できないため,実臨床との差異を生じうる.
ステント過拡張時は,推奨最大拡張径時より高いRadial Forceが計測された.
当研究に協力いただきました株式会社カネカメディックス,ボストン・サイエンティフィックジャパン株式会社に深謝申し上げます.
1) 金 成海,犬塚 亮,松井彦郎,ほか:2019年における先天性心疾患及び小児期頻拍性不整脈に対するカテーテルインターベンション・アブレーション全国集計~日本先天性心疾患インターベンション学会レジストリー(JCIC-Registry)からの年次報告~.Journal of JCIC 2022; 6: 17–28
2) Model TTR2 with J-Crimp™ Station – Blockwise Engineering
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