Journal of JCIC

Online edition: ISSN 2432–2342
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Journal of JCIC 9(1): 1-4 (2024)
doi:10.20599/jjcic.9.1

症例報告症例報告

肺分画症の異常血管に対するIMPEDE塞栓プラグを用いた術前塞栓の経験Successful preoperative embolization of an aberrant systemic artery for pulmonary sequestration using an IMPEDE plug

1独立行政法人地域医療機能推進機構九州病院小児科Department Pediatrics, Japan Community Healthcare Organization Kyushu Hospital

2独立行政法人地域医療機能推進機構九州病院小児外科Department Pediatric Surgery, Japan Community Healthcare Organization Kyushu Hospital

受付日:2024年4月24日Received: April 24, 2024
受理日:2024年7月31日Accepted: July 31, 2024
発行日:2024年12月20日Published: December 20, 2024
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IMPEDE塞栓プラグはポリウレタン製形状記憶ポリマーにアンカーコイルが装着された製品で,環境温37°C以上で留置後に自己拡張しおよそ10分で最大径まで拡張し血管を塞栓する.生後6か月女児の肺葉内肺分画症外科手術前に腹腔動脈共通管から横隔膜を貫通した異常動脈に対する血管処理の一助として,IMPEDE塞栓プラグによる塞栓術を行ったため報告する.

The IMPEDE embolization plug is a medical resource made of polyurethane shape-memory polymer with an anchor coil, and it self-expands after being placed in an environment of 37 degrees, expanding to its maximum diameter in about 10 minutes and embolizing blood vessels. We present the case of a 6-month-old girl with intralobar pulmonary sequestration. An IMPEDE embolization plug was used to close the abnormal artery that is supplied from the common trunk with celiac artery through the diaphragm as an aid to interventional therapy prior to the lobectomy.

Key words: intralobar pulmonary sequestration; hybrid therapy; IMPEDE plug; Amplatzer™ Vascular Plug

はじめに

肺分画症は正常気管との交通がない無機能の肺組織が,体循環系からの異常血管を有する先天性肺疾患である1).肺分画症は肺葉外型と肺葉内型に区分され,肺葉外型は無症状で経過することもあるが,肺葉内型では胸痛,咳,喀血,繰り返す下気道感染症などをきたすため外科的切除が一般的である2, 3).手術時の合併症として異常血管処理に伴う術中出血があり,術前に異常血管を特定し術中に結紮することが重要である.また結紮した異常血管の盲端が瘤化することなどの懸念も知られている4).さらにPryce分類I型肺分画症である肺底動脈体動脈起始症においては,喀血のために緊急的に経カテーテル血管内塞栓術が選択されることもある5).肺分画症や肺底動脈体動脈起始症を血管塞栓のみで治療を完遂できるかどうかは未だ議論の余地があるが6, 7),多くの症例でファイバー付きコイルやAmplatzer™ Vascular Plug(AVP)II(St. Jude Medical Inc., Minnesota)等を用いて閉塞が試みられている8, 9).近年,安全に外科治療を行うために,異常動脈の経カテーテル的血管塞栓術後に鏡視下に肺分画症手術をした報告が散見される10, 11).IMPEDE塞栓プラグ(コスモテック株式会社,東京)は,ポリウレタン製のフォームと呼ばれる本体が体温環境下において自己拡張し標的血管を塞栓する,アンカーコイル付きの塞栓プラグである12).本邦では2020年に,頭蓋内血管及び心臓血管を除く動静脈奇形や瘤,動静脈瘻等の異常血管や外傷性血管損傷による出血及び腫瘍等に対して使用が承認された.今回,外科治療が予定されている肺葉内肺分画症の女児に対して,術前に異常血管をIMPEDE塞栓プラグ1つで経カテーテル塞栓することで,ほぼ術中出血なく分画肺葉を切除できた症例を経験したので報告する.

症例報告

生後6か月,女児.

現病歴

妊娠24週時に胎児の肺分画症が疑われ当院産婦人科へ紹介され,妊娠38週3日に頭位経腟分娩で児を娩出した.児の出生後の胸部CTで左肺下葉S9/10を中心とした嚢胞性病変を認め,腹腔動脈共通管からの同部へ流入する異常血管と左下肺静脈への還流静脈の所見を認め,S9/10は気管支と交通を認めず左肺下葉内肺分画症と診断した.出生後から易感染性を示唆する所見はなく,明らかな心負荷もなかった.生後4か月時の胸部CTで嚢胞性病変が増大しており,外科治療前に異常動脈の塞栓術を依頼され当科へ入院した.

入院時現症

身長61 cm,体重7030 g,心拍数140/分,呼吸数36/分,血圧102/54 mmHg,指先酸素飽和度99%,II音肺動脈成分の亢進なく,背側でのみ血管雑音を聴取した.呼吸は平穏で陥没呼吸等の呼吸障害を認めず,肺副雑音は徴取しなかった.腹部に肝脾腫を認めなかった.脈診で反跳脈はなかった.

胸部X線

心胸郭比0.52,肺門部肺血管陰影増強なし,うっ血像なし,左下肺野に透過性低下部位あり.

心エコー図

左室拡張末期径30.1 mm(Z値3.21),大動脈/左房径比1.3と左心系拡大があったが,左室駆出率は70.0%であった.心内形態異常や有意な弁逆流はなかった.

造影CT

腹腔動脈共通管から起始する動脈(血管径3.9 mm)が上方へと走行し左肺下葉S9/10内へ血流を供給し肺静脈血は左下肺静脈へ還流する.また,S9/10は気管支と交通を認めない肺葉内肺分画症の所見であった(Fig. 1).

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Fig. 1 The contrast computed tomography of the abnormal artery. The white arrow showed the abnormal artery entering pulmonary sequestration from the common trunk with celiac artery

治療経過

右大腿動脈に4Frショートシース(ラジフォーカスイントロデューサーIIH;テルモ株式会社,東京)を留置し,4Frピッグテールカテーテル(トレールHF;フクダ電子株式会社,東京)で腹部大動脈造影を行った.造影で腰椎L1レベルの腹腔動脈共通管から起始した異常動脈を認め,血管径3.9 mm,血管長33 mmであった(Fig. 2A, B).カテーテルを4Frジャドキンス・右冠動脈型カテーテル(JR)(Seiha;メディキット株式会社,東京)に入れ替え,異常動脈の末梢側へ進めた.異常動脈の塞栓は,胸椎Th12レベルの異常動脈から中枢側へIMPEDE塞栓プラグ5 mmを留置することとした.まず塞栓プラグがマイグレーションしないようにアンカーコイルをカテーテルから出して安定させた後,緩徐にカテーテルを引きながらフォーム部分をアンカバーして留置した.5分後に造影を行い,完全に塞栓されていることを確認した(Fig. 2C, D).血管塞栓術後10時間後から組織虚血・壊死による反応と思われる発熱があったが,術後48時間で解熱した.塞栓術から12日後に肺分画症に対する外科手術が施行された.左肺下葉S9/10は肉眼的に変色しており分画肺の同定は容易であった(Fig. 3).異常動脈切離および左肺下葉切除術を行い,ほぼ出血を認めず,術後経過は順調で術後6日目に退院した.

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Fig. 2 The angiography of the abnormal artery. (A, B) The white arrows showed the abnormal artery. This blood vessel diameter and length were 3.9 mm and 33 mm, respectively. (C, D) The black arrows showed IMPEDE. The anchor coil was set in the abnormal artery. Once it was confirmed that the coil was tornadoes and placed, the foam was placed. The obstruction of the abnormal artery was confirmed by angiography after 5 minutes from setting IMPEDE

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Fig. 3 Pathologic finding. The sequestrated lung was indicated black arrow and was easily distinguished from normal lung by the change in color associated with ischemia

考察

IMPEDE塞栓プラグは2020年1月に本邦で承認され,プラチナ・イリジウム合金とニチノールで形成されたアンカーコイルに形状記憶ポリウレタンで形成されたフォームが接着されたものである12).フォームの塞栓物質量はコイル数個分に相当することが知られており,実際にIMPEDE塞栓プラグのフォームのみであるIMPEDE-FX 6 mmが拡張した際の塞栓物質量は0.035インチ×20 cmコイル5個分に相当する.従来の異常血管に対する経カテーテル塞栓術では,コイルや自己拡張型閉鎖デバイス(AVPシリーズ)が使用されてきた.コイルは様々な種類のものが使用され,0.010インチから0.052インチ径のものまで多岐にわたる.各種コイルによってそのデリバリーシステムは異なるが,マイクロカテーテルなどにより塞栓できるものでは,細く弯曲した血管へも追随させることができる一方で,塞栓力が弱いため治療には複数個のコイルを必要とすることが多い.また高血流量の病変ではアンカー力が弱いため血流に流されて移動しやすい.自己拡張型閉鎖デバイスであるAVPは,I, II, IV型があり,先天性心疾患領域ではAVP-IIあるいはAVP-IVが多用される.AVP-IIは太いデリバリーシステムが必要となるが,中央ドラムと左右ディスクを配した6面により塞栓し,他のAVPシリーズよりも塞栓力が高い一方で,長いランディングゾーンが必要である3, 13).AVP-IVは4Fr造影カテーテルで留置可能であるが,6 mm以上の血管の閉塞は困難であり,3 mm前後の血管においてもAVP-IV単独での塞栓効果は乏しかった.また適切な塞栓位置への留置は,ある程度の操作経験が必要であると指摘されている14, 15).一方,IMPEDE塞栓プラグは,その高い追随性能によって弯曲した血管にもデリバリーすることが可能であるとともに,アンカーコイルの働きにより比較的高流量の血管にも塞栓可能である.しかし比較的長めのランディングゾーンが必要であることがコイルやAVP-IVとは異なる点である.本例のような体格の小さな患者で,異常血管径3.9 mmで弓なり形態である場合,従来のコイルであれば多数のコイルが必要となる可能性があることや,AVP-IIでは塞栓可能と思われるが太いデリバリーシステムが必要であること,AVP-IV単独では不十分な塞栓となることを懸念しIMPEDE塞栓プラグを選択した.異常血管起始部からの全長は33 mmと比較的長くランディングゾーンを十分確保できたこともIMPEDE塞栓プラグを至適デバイスとした一因である.さらにIMPEDE塞栓プラグのフォームは低ラジアルフォースであるため塞栓血管の退縮に適合する素材で慢性炎症を伴いにくいことも特徴であり,実際にIMPEDE塞栓プラグとAVPとNester Embolization coil(Cook Medical, Indiana)の長期埋植における影響を比較した試験ではIMPEDE塞栓プラグの持続的な血管内閉塞を認め,IMPEDE塞栓プラグでは慢性炎症の所見なく組織修復の促進所見を認めた12).本症例でもIMPEDE塞栓プラグ5 mmで安定した塞栓効果を得ることができ,塞栓後10~48時間まで発熱と炎症反応の上昇を伴ったが軽快し,塞栓術12日後に安全に手術を行うことができた.術中所見では目立った癒着や炎症性変化を認めず,IMPEDE塞栓プラグによる塞栓術が手術に与えるデメリットは非常に少ないと考えられた.IMPEDE塞栓プラグ,AVP, AVP-II, AVP-IVの保険償還価格はそれぞれ131,000円,126,000円,126,000円,129,000円とほぼ同等であることから,AVP含めた複数のデバイスを用いて塞栓を実施する場合は,長期的な塞栓効果や慢性炎症抑制効果に加えて費用の面からもIMPEDE塞栓プラグでの塞栓術を検討すべきと思われた.

肺分画症の手術は胸腔鏡を用いて行われるようになってきたが,その際にも術前に異常血管の解剖学的位置や本数を確認して臨むことが極めて重要となる.また分画肺が異常動脈からかなりの高血流とそれに伴う肺静脈拡張,繰り返す感染による胸膜癒着のため,術中の出血コントロールは非常に重要となる.これまでの報告によると,成人における肺分画症手術時の平均出血量は,胸腔鏡手術中で193 mL,開胸手術中で241 mLとされる16).本症例では術中出血量はわずかであり,術前塞栓術は出血量を低減できる方法であると考えられた.一方,胸腔鏡下手術中における異常動脈の誤認率は16.7%と高いとされるが17),近年では造影CTにより高解像度の画像を容易に得ることができる.また,異常動脈からのインドシアニングリーン注入により分画肺を同定する方法の報告もある18).本症例では,塞栓術後12日経過した分画肺は既報同様に梗塞・壊死により変色していた19).したがって,術前塞栓術は分画肺の同定にも有用であると考えられ,正常肺を可及的に残存させる病変区域切除を行うための手助けになりうると考えられた.塞栓後の適切な手術時期に関する報告はないが,塞栓術後の胸痛や炎症反応の上昇は異常動脈の大きさに関連していると報告されており,症例ごとで手術時期を決める必要がある20)

結語

直径3.9 mm,長さ33 mmの直線状の異常動脈を伴った肺葉内肺分画症の6か月女児に対して,IMPEDE塞栓プラグによる異常動脈の塞栓術後に肺分画症の手術を安全に施行できた.IMPEDE塞栓プラグの長期的な塞栓効果は非常に高く,塞栓術がその後の外科治療に及ぼす影響が少ないことから安全な肺分画症の治療を行うための有用なデバイスである.

利益相反

日本Pediatric Congenital Interventional Cardiology学会の定める利益相反に関する開示事項はありません.

著者役割

清水大輔は論文の構想,デザイン,作成に関与した.宗内淳は論文作成において指導的役割を担い,論文の構想,デザイン,論文の統括に関与した.田中惇史,池田正樹,松本匡永,峰松優季,峰松伸弥,古賀大貴は論文の構成や批判的校閲において貢献した.杉谷雄一郎,渡邉まみ江,上村哲郎は論文において指導的役割を担い,論文の思想,校閲に関与した.全ての著者が原稿出版の最終承認を行った.

引用文献References

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