Journal of JCIC

Online edition: ISSN 2432–2342
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Journal of JCIC 8(2): 21-24 (2024)
doi:10.20599/jjcic.8.21

症例報告症例報告

AMPLATZER™ Cribriform Multi-Fenestrated Septal Occluder留置の際にバルーンで中央の小欠損を拡大しデリバリーシースを通過させた多孔性心房中隔欠損の一例A case of multiple ASDs treated with AMPLATZER™ Cribriform Multi-Fenestrated Septal Occluder using balloon dilation technique for a central small defect

兵庫県立こども病院 循環器内科Kobe Children’s Hospital

受付日:2023年7月27日Received: July 27, 2023
受理日:2023年12月20日Accepted: December 20, 2023
発行日:2024年1月24日Published: January 24, 2024
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AMPLATZER™ Cribriform Multi-Fenestrated Septal Occluder(以下Cribriform)は多孔性心房中隔欠損(multiple atrial septal defects; 以下mASDs)のうち欠損孔が密集し単一デバイスで複数の欠損孔を閉鎖することが可能なものに対して用いられる.mASDsに対するCribriformを用いた経カテーテル的心房中隔欠損閉鎖術に工夫を要した症例を経験したため報告する.

23歳女性.3か月健診で心雑音を指摘され,mASDsと診断.心エコー図で3つの欠損孔と直径約20 mmの中隔瘤を認めた.右室拡大の進行がありカテーテル治療の方針とした.8 Frのデリバリーシースはダイレーターとの段差が障害となり中央の欠損孔を通過できず,MUSTANG 5×20 mmで欠損孔を拡大させた.拡大後はデリバリーシステムを通過させることができ,Cribriform 25 mmを留置した.

CribriformはmASDsに対する閉鎖デバイスであり,中央の細いウェストを留置し2枚のディスクで複数の開窓部を覆い閉鎖する.ウェスト留置は中央の欠損孔に行うことが適切であるが,デリバリーシースを通過させるには一定の径が必要である.バルーンで欠損孔を拡大することで安全なデリバリーシース挿入が可能と考えた.

The AMPLATZER™ Cribriform Multi-Fenestrated Septal Occluder (Cribriform), with the minimal interconnecting waist, is a device designed to cover multiple defects. Herein, we report a case of multiple atrial septal defects (mASDs), in which the central defect was too small for the delivery sheath to get through.

The patient was a 23-year-old woman, who was diagnosed with atrial septal defect during infancy and referred to our hospital for treatment. Transesophageal echocardiogram revealed an atrial septal aneurysm and three atrial septal defects. Upon percutaneous closure of the atrial defects, the central defect was too small to get the 8 Fr delivery sheath through. We used a MUSTANG 5×20 mm balloon catheter to dilate the central defect. After dilatation, the delivery sheath smoothly passed through the defect.

Cribriform should be positioned through the central defect; however, the defect may be too small to get the delivery sheath through. Dilatation of the defect using a 5-mm balloon enabled the delivery sheath to reach left atrium.

When the central defect of mASDs is too small for device delivery, the balloon dilation technique can be a good option.

Key words: multiple atrial septal defects; percutaneous closure of atrial septal defect

背景

AMPLATZER™ Cribriform Multi-Fenestrated Septal Occluder(アボットメディカルジャパン合同会社,東京,以下Cribriform)は多孔性の心房中隔欠損(multiple atrial septal defects; mASDs)のうち欠損孔が密集し単一デバイスで複数の欠損孔を閉鎖可能なものに対して用いられている.より多くの欠損孔を閉鎖するためには,できる限り中央の欠損孔にデリバリーシースを通過させる必要がある.今回,mASDsに対する経カテーテル的心房中隔欠損閉鎖術において,デリバリーシースの左房への挿入に工夫を要した症例を経験したため報告する.

症例

23歳女性.3か月健診で心雑音を指摘され,経胸壁心エコー図でmASDsと診断された.右心系拡大はなかったが,閉鎖傾向なく,12歳時に当院に紹介された.

経胸壁心エコー図で心房中隔瘤と直径3 mm程度の欠損孔を3個認め,その他の形態異常や心室機能低下は認めなかった.心臓カテーテル検査と経食道心エコーを施行した.肺動脈造影で部分肺静脈還流異常を認めず,mASDsについてはQp/Qsが1.07であり治療適応外と判断した.外来フォロー中に右室拡大を認めるようになったため治療適応と判断した.23歳時に治療目的に入院となった.

入院時身体所見

身長162 cm,体重66 kg.心音は整で第3肋間胸骨左縁を最強部とする収縮期雑音をLevine 2/VIで聴取した.胸部レントゲン:心胸郭比44%,肺血管陰影の増強はない.心電図:HR 55回/分,正常洞調律,軸75°,ST–T変化はない,右房負荷所見や右室拡大所見はない.経胸壁心エコー図:左室拡張末期径45.8 mm(正常:49.0 mm),左室駆出率75.7%,右心系の拡大あり,径2–3 mmのASD 3個を認めた.

経食道心エコー図

直径20 mm大の心房中隔瘤あり.ASD 3個(①: 2.0 mm ②: 3.0 mm ③: 3.8 mm)②が中央に位置し,①と②,②と③の距離はそれぞれ約5 mmであった(Figs. 1, 6).

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Fig. 1 Transesophageal echocardiogram demonstrated an atrial septal aneurysm (diameter: 20 mm) and three atrial septal defects (No. 1: 2.0 mm, No. 2: 3.0 mm, No. 3: 3.8 mm)

カテーテル手技

全身麻酔下で右大腿静脈に7 Fr 11 cmシース(メディキット株式会社,東京)を留置した.Qp/Qsは1.20であった.7 Fr Balloon wedge pressureカテーテル,5 Frマルチパーパスカテーテル,4 Fr IMAカテーテルでは欠損孔を通過できなかったが,経食道心エコーガイド下に6 Fr Vista Brite Tip®ガイディングカテーテル(コーディスジャパン合同会社,東京)と4 Fr CXカテーテル(IMA type,ガデリウス・メディカル株式会社,東京),0.035 inch Radifocus®ガイドワイヤー(テルモ株式会社,東京)を組み合わせることで,②の欠損孔を通して左房に挿入できた.カテーテル先端を左上肺静脈に挿入し,0.035 inch Amplatz Extra Stiffガイドワイヤー(クックメディカルジャパン合同会社,東京)を留置した.

8 Frデリバリーシステムを左房に進めようとしたが,ダイレーターとデリバリーシースの段差が欠損孔の縁にかかり,中隔瘤が左上肺静脈方向に進展されるのみで欠損孔を通過しなかった.ダイレーターのみを進めてから再度行ったが進まず,AMPLATZER™ sizing balloon II 18 mm(アボットメディカルジャパン合同会社,東京)で欠損孔の拡張を試みたが無効であった.このため,血管拡張用バルーンで欠損孔を拡大する方針とした.

MUSTANG 5 mm×20 mm(ボストンサイエンティフィックジャパン株式会社,東京)を選択した.バルーンの欠損孔通過は容易であった.欠損孔を24 atm(rated burst pressure)で拡大した(Fig. 2).バルーンはウェストを形成することなく拡張した.その後,欠損孔を越えてダイレーターとデリバリーシースを左房に進めることができた(Fig. 3).バルーン拡張後は欠損孔の計測を行わなかったものの,欠損孔のカラー幅は拡張前よりも大きく見えた.また,隣接する欠損孔との交通はなかった.

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Fig. 2 We used a 5-mm balloon (MUSTANG 5×20 mm) to dilate the central defect

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Fig. 3 The delivery sheath got through the central defect after balloon dilatation

Cribriform 25 mmを留置し,経食道心エコーで遺残短絡がないことを確認し,デタッチして手技を完了した(Fig. 4).留置後はCribriformが心房中隔全体を挟んで固定されており安定した.(Fig. 5

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Fig. 4 The defects were successfully occluded using a 25-mm Cribriform

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Fig. 5 The Cribriform covered whole area of the atrial septal aneurysm and mASDs

翌日以降の経胸壁心エコー図やレントゲンでも遺残短絡やデバイスの位置異常はなかった.

現在術後約3年経過し合併症なく過ごしている.

考察

Cribriformは中央のウェストが細く設計された,mASDsを標的とした閉鎖デバイスである.

中央のウェストが細く,小さな欠損孔に留置可能であること,2枚の同直径のディスクで挟むことで周辺の欠損孔も含めて閉鎖できることが特徴であり,特に欠損孔が密集したmASDsに用いられている.

また,ASDに心房中隔瘤が合併した場合,小さなデバイスでは瘤の組織が柔軟なため可動性が生じてしまうが,Cribriformは瘤基部の心房壁を含めてカバーできるため良い適応となる1)

1つのデバイスで全ての欠損孔をカバーするためには,中央の欠損孔にウェストを留置することが適切である2)が,中央の欠損孔がデリバリーシース通過には過小な場合がある.

ASD間の距離が大きい場合には,中間の心房中隔を穿刺して留置を行った報告がある3)が,本症例は中央に欠損孔があり,穿刺の必要はなかった(Fig. 6).

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Fig. 6 The schema of the patient’s atrial septum, aneurysm, and mASDs. The distance from the No. 1 defect to the No. 2 defect and the No. 2 defect to the No. 3 defect was both about five mm. Aortic rim of the No.1 defect was six mm. SVC; superior vena cava, RSPV; right superior pulmonary vein, IVC; inferior vena cava, CS; coronary sinus, TV; tricuspid valve

8 Frデリバリーシースの外径は3.45 mmであり,今回留置を試みたASD②の径が3.0 mmであったことから,デリバリーシースが欠損孔を通過できなかった.特に本症例のように中隔瘤に欠損孔が存在する場合,デリバリーシステムを押し込んでもダイレーターとシースの段差が欠損孔の縁に当たって中隔壁が左房側に進展してしまい,孔を越えることが難しい.

Cribriformのサイズ展開は18 mm, 25 mm, 30 mm, 35 mmがあり,18 mm, 25 mm, 30 mmのデリバリーシースが8 Frで,35 mmのデリバリーシースが9 Frである.また,全サイズでコネクティングウェスト径は4 mmと細く,大きな欠損孔への留置は不安定で推奨されない.

上記の理由から,8 Frシースが通過し,かつ,隣接する欠損孔と交通し過剰な大きさとなることのない程度の欠損孔拡大を目標とし,直径5 mmの血管拡張用バルーンを選択した.ガイディングシースを安全に通過させ,かつ,ウェストの安定性を担保するという点で,今回のバルーンのサイズ選択は適当であったと考えた.また,隣接する欠損孔との距離が約5 mmであり,どの方向に拡大したとしても欠損孔同士の交通はできないと予測し,実際に交通することはなかった(Fig. 6).

結論

mASDsにCribriformを留置する際,中央の欠損孔が小さくデリバリーシースを通過させることが困難な症例であっても,5 mmの血管拡張用バルーンで欠損孔を拡大することでデリバリーシースが通過可能となり,安全にデバイスを留置できると考えた.

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