動脈管に対するAmplatzer® Piccolo Occluder留置の現状Current Status of Amplatzer® Piccolo Occluder Implantation for Patent Ductus Arteriosus
埼玉県立小児医療センター 循環器科Department of Pediatric Cardiology, Saitama Children’s Medical Center
埼玉県立小児医療センター 循環器科Department of Pediatric Cardiology, Saitama Children’s Medical Center
【背景】動脈管開存症(PDA)に対するカテーテル治療は,使用するデバイスが増えたことで様々な形態やサイズにも対応できるようになった.2020年に保険収載されたAmplatzer® Piccolo Occluder(Piccolo)は,製造中止となったFlipper® PDA Closure Detachable Coil(Flipper PDA coil)に変わる役割も期待される.
【対象と方法】2020年10月から2022年9月までの2年間に当院でPiccolo留置を行なった22例を対象とした.年齢,体重,PDAサイズ・形態について,Piccolo導入以前の2017年1月から2019年12月までの3年間にFlipper PDA coilを留置した23例と比較した.
【結果】両デバイス間で,年齢,体重,PDAのサイズ・形態に有意差は認められなかった.また,Piccolo留置で合併症は認められなかった.
【結論】Piccoloは比較的細い(主に2 mm以下)PDAに安全に留置することができ,Flipper PDA Coilに代わり,その役割を十分果たすと考える.
【Background】 Catheter intervention for patent ductus arteriosus (PDA) has become possible to close various shapes and sizes of PDA due to the increased number of available devices. The Amplatzer® Piccolo Occluder (Piccolo) is expected to replace the discontinued Flipper® PDA Closure Detachable Coil (Flipper PDA Coil).
【Subjects and Methods】 Twenty-two patients who underwent Piccolo implantation at our hospital from October 2020 to September 2022 were included. Age, body weight, PDA size, and morphology were compared with twenty-three patients who had a Flipper PDA Coil implanted from January 2017 to December 2019.
【Results】 There were no significant differences in age, body weight, PDA size and morphology between the two devices, suggesting that they were used in similar cases. No complications or residual shunt were observed with Piccolo implantation.
【Conclusion】 Piccolo can be safely implanted in small PDA (less than 2 mm) and may replace the Flipper PDA Coil.
Key words: Amplatzer® Piccolo Occluder; Patent Ductus Arteriosus; MReye® Flipper® PDA Closure Detachable Coil; catheter intervention
© 2023 一般社団法人日本先天性心疾患インターベンション学会© 2023 Japanese Society of Congenital Interventional Cardiology
動脈管は下行大動脈と主肺動脈を結ぶ胎児期には必須の血管で,通常出生後1~2日で閉鎖する.動脈管開存症(Patent Ductus Arteriosus以下PDA)は,動脈管が閉鎖せずに左右短絡をきたす先天性心疾患である.一般に未熟児で認められる動脈管開存は,血管の収縮が遅れるために開存するものであり先天性心疾患のPDAとは異なる.発生頻度は,出生2500~5000人に1人と言われており,先天性心疾患の数%を占めるとされる1, 2).
PDAに対する主な治療方法は外科的手術であったが,1967年にPorstmannらによりカテーテル治療の報告3)がなされて以後,留置デバイスの進歩によって,現在ではカテーテル治療が主な治療方法となっている.留置デバイスとして,以前はFlipper® PDA Closure Detachable Coil(以下Flipper PDA Coil; Cook Medical Incorporated, Bloomington, IN)が使用されていた.
2003年にアメリカでAmplatzer® Duct Occluder〔以下ADO(I); Abbott, Santa, Clara, CA〕による動脈管閉鎖術が承認され4),本邦でも2009年から日本Pediatric Interventional Cardiology学会が認定する施設で使用可能となった.
近年ではADO(I)が普及し,幅広い形態のPDAに対して安全かつ効果的にカテーテル治療を行えるようになった.当院でも2010年1月からADO(I)留置を開始しており,新病院への移転前の2016年までに43件の留置を行ってきた.2017年1月から新病院開設に伴い症例が増加し,2019年からはあらたな留置デバイスとして第二世代のAmplatzer® Duct Occluder II〔以下ADO(II); Abbott, Santa, Clara, CA〕の使用も開始となり,留置デバイスの選択も変化してきている5, 6).さらに2020年4月からは,低体重児を含む新生児の動脈管治療に対して使用可能なAmplatzer® Piccolo Occluder(以下Piccolo; Abbott, Santa, Clara, CA)が保険適応となった7).また,2022年6月でFlipper PDA Coilの製造が中止となり,現在の在庫がなくなると使用できなくなる.Piccoloは比較的細い(主に2 mm以下)PDAに対しても有用であるとされ,Flipper PDA Coilに代わる役割も期待される.当院におけるPDAに対するPiccolo留置の現状を報告する.
当院でPiccoloの使用を開始した2020年10月から2022年9月までの2年間にPDAに対してPiccoloを留置した症例を対象とした.診療録から,年齢,体重,PDA形態ついて,後方視的に検討した.また,Piccolo使用前の2017年1月から2019年12月までの3年間にPDAに対してFlipper PDA Coil塞栓術を行った症例と比較し,Flipper PDA Coilに代わるデバイスとしてPiccoloの有用性を検討した.カテーテル治療は,麻酔科医による全身麻酔下で心臓カテーテル検査を行い,下行大動脈造影にてPDA最狭部径,長径,大動脈側膨大部径を計測し,留置デバイスの選択を行った.留置デバイスの準備が完了し,デバイス挿入時を手技時間の開始,デバイスを留置しデタッチした時点で手技時間終了とし,総線量はカテーテル検査を含む透視線量と定義した.
統計学的解析はStatMate V for Win&Mac HybridにてMann–Whitney検定を用い,P値<0.05を有意差ありとして検討した.
本研究は埼玉県立小児医療センター倫理委員会で承認されている(2023-04).
2020年10月から2022年9月までに施行された全カテーテル治療203例中,経皮的PDA閉鎖術は40例(19.7%)であった.Piccolo留置を試みた症例は経皮的PDA閉鎖術40例中23例(57.5%)で,23例中1例はPiccolo留置を断念しFlipper PDA Coilに変更した.実際にPiccoloを留置された症例は22例であった.当院でPiccolo留置を開始してからは,ADOIIの留置を行なった症例は無かった.
Piccolo留置を行なった22例は,男女比12 : 10,月齢3~160ヶ月(中央値33ヶ月),体重4.9~56.8 kg(中央値13.5 kg),動脈管最狭部径0.6~1.8 mm(中央値1.25 mm),動脈管長径3.5~16.1 mm(中央値8.3 mm),留置術の手技時間4.6~18.8分(中央値8.3分),総線量47.61~398.76 mGy(中央値84.98 mGy)であった(Table 1).PDA形態はKrichenko分類8)で,A:13例,D:3例,E:6例であり(Fig. 1),使用されたデバイスサイズは5-2:9例,5-4:7例,5-6:4例,3-2:1例,3-4:1例であった.ウエスト径が3 mmのデバイスは最狭部の径が1 mmを下回る2症例に使用されており,その他の最狭部径が1~1.8 mmのPDAには全て5 mmのデバイスが選択・留置された(Table 2).デバイス長の選択については,PDA長径だけでは決めることはできず,造影画像からPiccoloを留置した場合の位置を推測し,大動脈側のディスクが膨大部にかかるように留置するのか,あるいは管内にディスクを留置するのかを検討した上でデバイス長を決定した.
Piccolo | Flipper PDA coil | p value | |
---|---|---|---|
N | 22 | 23 | |
N (%) | N (%) | ||
Gender: female | 10 (45.5%) | 10 (43.5%) | |
Mean (range) | Mean (range) | ||
Age (month) | 33 (3–160) | 37 (18–133) | N.S |
Body weight (kg) | 13.5 (4.9–56.8) | 12.9 (7.6–21.2) | N.S |
Minimum diameter (mm) | 1.25 (0.6–1.8) | 1.1 (0.5–2.2) | N.S |
Ductal length (mm) | 8.3 (3.5–16.1) | 7.9 (3.9–11.8) | N.S |
Procedural time (min) | 8.3 (4.6–18.8) | 5.1 (3.3–36.1) | N.S |
Dose (mGy) | 84.98 (47.61–398.76) | 40.56 (22.88–256.75) | p<0.001 |
Device size (mm) | 3/2 | 3/4 | 5/2 | 5/4 | 5/6 |
---|---|---|---|---|---|
N | 1 | 1 | 9 | 7 | 4 |
Mean (range) | Mean (range) | Mean (range) | |||
Minimum diameter (mm) | 0.6 | 0.7 | 1.3 (1.1–1.8) | 1.25 (1.0–1.6) | 1.45 (1.2–1.5) |
Ductal length (mm) | 3.5 | 7.7 | 7.8 (4.6–12.1) | 10.85 (4.5–14.3) | 9.4 (6.7–14.3) |
2017年から2019年までの3年間に施行された全カテーテル治療243例中,経皮的PDA閉鎖術は48例(19.8%)で,Flipper PDA Coilを留置された症例は23例(48.0%)であった.男女比13 : 10,月齢18~133ヶ月(中央値37ヶ月),体重7.6~21.2 kg(中央値12.9 kg),PDA最狭部径0.5~2.2 mm(中央値1.1 mm),PDA長径3.9~11.8 mm(中央値7.9 mm),塞栓術の手技時間3.3~36.1分(中央値5.1分),総線量は22.88~256.75 mGy(中央値40.56 mGy)であり(Table 1),PDA形態はKrichenko分類で,A:15例,C:1例,D:1例,E:6例であった(Fig. 1).Piccolo留置群とFlipper PDA Coil留置群との比較では,体重,年齢,PDA最狭部径,PDA長径いずれも統計学的に有意差は認められなかった(Table 1).また,両群ともデバイスの過度な突出による肺動脈狭窄や大動脈縮窄を認めず,残存短絡なく経過している.
現在PDAに対するカテーテル治療の主役はADO(I)となっているが,比較的細い最狭部が2 mm以下のPDAに対しては,Flipper PDA Coilが選択されることも多かった9).しかし,Piccolo導入により小径のPDAに対してPiccoloが選択されることが増えてきている.実際に,Piccolo留置群とCoil留置群を中央値で比較しても,体重やPDAサイズは類似しており,形態分類でも両群ともtype Aが約6割を占め,type Eが3割程度という割合であった.現在,Piccoloのサイズ選択としてはShyam Sathanandam先生10)によるサイズ選択のチャートが推奨されている.すなわち体重5 kg以上の症例においては2.5 mmまでをPiccoloの適応として,それ以上は他のデバイスを推奨とされている.我々の施設におけるサイズ選択からは,体重に関わらず,最狭部径2 mm以下のPDAがPiccolo留置の良い適応だと考える.小児のPDAは伸縮性に富んでいるため,自施設では最狭窄部2 mm以上であれば,肺動脈側からADO(I)のデリバリーシステムをPDAに通過させることは十分可能であると考え,ADO(I)での塞栓を第一選択としている.
Piccolo導入以前,我々は1 mm台のPDAに対するカテーテル治療は,主にFlipper PDA Coilを選択してきた.Piccolo導入以前3年間のCoil件数とPiccolo導入後のPiccolo留置件数がほぼ一致しており,PDAの形態,最狭部径や長径にも明らかな差がなく(Table 1),Flipper PDA Coilが担ってきた役割を今後はPiccoloが行なっていくものと思われる.透視総線量については有意にFlipper PDA Coil群で少ない結果だったが,Flipper PDA Coilは透視画像での視認性に優れているのに対し,Piccoloの透視画像での視認性がやや低かったため透視線量を上げて留置を行なっていたことが要因と考える.
Piccolo留置時のPDAへの到達方法は大動脈側からのアプローチが有用である.ADO(I)と異なり,Piccoloのデリバリーカテーテルは4 Frで柔軟であり,少なくとも体重3.5~4 kg以上であれば大動脈側からのアプローチが可能である.当院で施行したPiccolo留置に関しては,最初の1例目(体重4.9 kg)以外は全て大動脈側からのアプローチで留置を行なっている.PDAの形態の多くは大動脈側に膨大部を形成しており,大動脈側からデリバリーシステムをPDA内に進める方が,細い肺動脈側からデリバリーシステムを挿入するよりも容易に手技を行うことができる.つまり,大動脈側からのアプローチが可能であることは,手技時間の短縮や被ばく線量の軽減,術者の負担の軽減につながると考える.
また,当院ではPiccolo留置を断念し,Flipper PDA Coilを留置し得た症例も経験した.症例は体重14 kgで最狭部径0.8 mm,長径10.8 mmのPDAであり,0.035 inch Radifocus® guide wire(angle, Terumo Corporation, Tokyo, Japan)を大動脈側から通過させることは可能であったが,4 Fr Amplatzer® TorqVue LPデリバリーカテーテルが通過せずPiccoloの留置を断念した.Flipper PDA Coil 5 mm−3 loopsに変更し塞栓したが,当院でPiccoloを導入した初期の症例であり,現在であれば管外留置を行っている症例であった.Shyam’sチャートによると体重2 kg以上では原則菅外留置を推奨しているが,状況によっては管内留置を選択することもある.実際に大動脈側ディスクの位置は重要で,type A, type D, type E,それぞれの形態や太さによって留置位置を決める必要があり,大動脈側ディスクを膨大部内に留置する症例(Fig. 2a)や膨大部の上縁にディスクを掛けるように留置する症例(Fig. 2c),また症例によっては管内に留置する症例もある(Fig. 2b).Flipper PDA Coilが使用できなくなった際には,様々な形態の比較的最狭部径の小さいPDAに対してPiccolo留置を施行することになり,症例ごとの工夫がより必要になると考える.
a: type A PDA (minimum diameter 1.8 mm—ductal length 9.1 mm), device size; 5/2 mm, b: type D PDA (minimum diameter 1.6 mm—ductal length 14.3 mm), device size; 5/4 mm, c: type E PDA (minimum diameter 1.5 mm—ductal length 10.2 mm), device size; 5/6 mm
PDAに対するカテーテル治療は,使用デバイスの進歩により様々な形態やサイズ,体格の小児において可能となっている.特に,比較的小さいサイズ(最狭部径2 mm以下)のPDAには,これまでFlipper PDA Coilが使用されることが多かったが,今後はPiccoloがその役割を担うと考えられる.低体重の新生児への留置を含め,様々な状況でPiccoloは十分活用されると思われる.
1) 門馬和夫:動脈管開存.臨床発達心臓病学(改訂3版).東京,中外医学社,2001, p 576
2) Dickinson DF, Arnold R, Wilkinson JL: Congenital heart disease among 160480 liveborn children in Liverpool 1960 to 1969. Implications for surgical treatment. Br Heart J 1981; 46: 55–62
3) Porstmann W, Wierny L, Warnke H: Closure of persistent ductus arteriosus without thoracotomy. Ger Med Mon 1967; 15: 109–203
4) Pass RH, Hijazi Z, Hsu DT, et al: Multicenter USA amplatzer patent ductus arteriosus occlusion device trial. J Am Coll Cardiol 2004; 44: 513–519
5) Santoro G, Giordano M, Gaio G, et al: Transcatheter closure of arterial duct in infants <6 kg: Amplatzer Duct Occluder Type I vs Amplatzer Duct Occluder II Additional Sizes. Pediatr Cardiol 2018; 39: 627–632
6) 須長祐人,喜瀬広亮,吉沢雅史,ほか:Amplatzer Duct Occluder(ADO)IIのデバイス特性に関する検討.Journal of JCIC 2020; 5: 1–8
7) 渋谷 茜,金 成海,石垣瑞彦,ほか:動脈管開存症に対するAmplatzer Piccolo® Occluderを用いた閉鎖~ステップ2,体重1000 g台の経験~.Journal of JCIC 2022; 7: 1–6
8) Krichenko A, Benson L, Burrows P, et al: Angiographic classification of the isolated, persistently patent ductus arteriosus and implications for percutaneous catheter occlusion. Am J Cardiol 1989; 63: 877–880
9) Cambier PA, Kirby WC, Moore JW: Perctanous closure of the small (less than 2.5 mm) patent ductus arteriosus using coil emborization. Am J Cardiol 1992; 69: 815–816
10) Sathanandam SK, Gutfinger D, O’Brien L, et al: Amplatzer Piccolo Occluder clinical trial for percutaneous closure of the patent ductus arteriosus in patients ≧700 grams. Catheter Cardiovasc Interv 2020; 96: 1266–1276
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