Journal of JCIC

Online edition: ISSN 2432–2342
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Journal of JCIC 7(1): 7-11 (2022)
doi:10.20599/jjcic.7.7

症例報告Case Reports

ファロー四徴症に対して右室流出路ステントを留置した18トリソミー症候群の乳児例Right ventricular outflow tract stenting in an infant with trisomy 18 and tetralogy of Fallot

1日本赤十字社医療センター 小児科Japanese Red Cross Medical Center

2国立成育医療研究センター 周産期・母性診療センター 新生児科National Center for Child Health and Development

3日本赤十字社医療センター 新生児科Japanese Red Cross Medical Center

受付日:2022年5月19日Received: May 19, 2022
受理日:2022年8月30日Accepted: August 30, 2022
発行日:2022年8月31日Published: August 31, 2022
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ファロー四徴症において,一期的心内修復術が困難な症例に対しては姑息手術が選択され,本邦ではmodified Blalock-Taussigシャント手術(mBTS)が広く行われてきた.しかし,低体重,肺動脈低形成,心外合併症を有する症例においてはリスクを伴う.近年,mBTSに代わる姑息的治療として,カテーテル治療による右室流出路ステント留置の有効性が報告されてきているが,本邦からの報告はない.今回,ファロー四徴症を合併した18トリソミー症候群で低酸素血症を呈する乳児に対して右室流出路ステントを留置し,安定した血行動態を確立し自宅退院をなし得た症例を経験した.mBTSのリスクが高い症例において,右室流出路ステント留置は有効な治療選択肢になりうると考える.

Palliative surgery is performed in patients in whom primary intracardiac repair of tetralogy of Fallot is challenging or infeasible. A modified Blalock-Taussig shunt (mBTS) operation is frequently performed as a palliative procedure in Japan. However, low body weight, pulmonary artery hypoplasia, and extracardiac complications are considered to be risk factors for mBTS. Recent studies have reported the effectiveness of right ventricular outflow tract stenting (RVOTS) as a useful alternative to the mBTS; however, no Japanese study has described RVOTS. We report a case of tetralogy of Fallot successfully treated using RVOTS in an infant with diagnosis of trisomy 18. The patient’s hemodynamic status and oxygen saturation stabilized postoperatively, and she was discharged home. RVOTS may be an effective treatment for patients considered to be at a high risk to undergo mBTS.

キーワード:Tetralogy of Fallot;modified Blalock-Taussig shunt;right ventricular outflow tract stenting;catheter intervention;18 trisomy

Key words: Tetralogy of Fallot; modified Blalock-Taussig shunt; right ventricular outflow tract stenting; catheter intervention; 18 trisomy

背景

ファロー四徴症に対する治療戦略として,一期的心内修復術の低年齢化が進んでいるが,体重3 kg,早産児,肺動脈低形成,その他の合併奇形を有する場合,姑息術が推奨される1).本邦においては,初回姑息術としてmodified Blalock-Taussigシャント手術(mBTS)が一般的に行われる2–4).しかし,低体重や肺動脈低形成のため,mBTSが困難な症例も散見され,海外ではmBTSの死亡率が高いという報告もある5, 6).近年,諸外国から,mBTSに代わる姑息的治療として,右室流出路ステント留置(right ventricular outflow tract stenting: RVOTS)の有効性が報告されているが,本邦からの報告はない.今回,ファロー四徴症を合併した18トリソミー症候群で低酸素血症を呈する乳児に対してRVOTSを施行し,安定した血行動態を確立し自宅退院をなし得た症例を経験したので報告する.

症例

【病歴】

在胎週数19週の胎児エコーにて多発奇形の指摘があり,在胎週数20週に羊水検査で18トリソミー症候群の疑いとなった.在胎週数39週1日,出生体重1,545 gで出生し,出生後経胸壁超音波検査によりファロー四徴症と診断された.また,染色体検査を施行し18トリソミー症候群と診断された.動脈管は日齢3に自然閉鎖した.日齢0から無呼吸を認め,経鼻持続陽圧換気(nCPAP)と無水カフェイン製剤の内服を開始した.日齢9から無呼吸発作が頻発したため,無水カフェイン製剤を増量した.その後,無呼吸発作は改善したが,右室流出路狭窄の進行により,FiO2 0.8の投与下で経皮酸素飽和度60%と低酸素血症を認めた.日齢25よりβブロッカーの内服及び高流量酸素療法を開始したが,低酸素血症の改善に乏しく,日齢27より経腸栄養投与中に経皮酸素飽和度40%まで低下するようになったため,経腸栄養を中止し経静脈栄養へ変更した.日齢39よりアルプロスタジルアルファデクスの投与を開始したが,動脈管の再開通は得られなかった.前医での管理が困難になり,日齢46に当院へ転院搬送となった.治療方針を心臓血管外科とも検討し,基礎疾患,低体重,肺動脈低形成のため一期的心内修復術,mBTSのいずれもリスクが高いと考えられた.両親へmBTS, RVOTSの選択肢を提示し,RVOTSの方がリスクが低いと考えられることを説明した.ステント脱落時には緊急での外科的ステント摘出術となるリスクも説明したうえで,両親より強いご希望があったため,RVOTSを施行する方針とし,日齢51に施行した.治療時の身長は40.5 cm,体重は2.0 kgであった.ステントが脱落した場合の回収用として,2 Frサイズアップしたロングシースと,アンプラッツグースネック™スネアを準備した.カテーテルで回収が困難である場合も想定し,心臓血管外科へステントの外科的摘出術を依頼した.

【超音波検査】

治療前の経胸壁超音波検査では,心室中隔欠損は8.9 mmの傍膜様部欠損であった.肺動脈弁輪径は4.8 mm(z-score: −1.71),肺動脈弁は三尖構造,弁尖肥厚あり,弁下・弁性狭窄により血流速度は4.1 m/sであった.

【造影CT検査】

前医にて日齢39に撮影した造影CT検査では,肺動脈弁輪径は4.3 mm(z-score: −1.98),右室流出路の肉柱の長軸長は9.2 mmであった.左肺動脈2.8 mm(50.3% of Normal),右肺動脈3.0 mm(45.6% of Normal),中田指数97と左右肺動脈は低形成であった.

【右室流出路ステント留置術】

手技はStumperらの報告を参考に行った7).カテーテル中は挿管管理下に,ミダゾラム・フェンタニルでの全身麻酔を行った.右大腿静脈に4 Frショートシースを挿入した.30度右前斜位,20度頭側方向,90度左前斜位の管球角度に調整し,4 Frウェッジバーマンカテーテルで右室造影を施行した(Fig. 1a, b).造影による計測では肺動脈弁輪径5.3 mm(z-score: −1.42),肺動脈弁下組織長は13.9 mmであった.4 FrショートシースをガイディングシースキットParent Plus®45 (Medikit, Tokyo, Japan)に入れ替え,下大静脈まで進めた.4 Frジャドキンス・右冠動脈型カテーテル(JR)と0.014インチのThruway冠動脈ワイヤー(BostonScientific, Natick, Massachusetts, USA)を遠位肺動脈内に配置し,カテーテルに追従させて右室流出路までガイディングシースを進めた.ガイディングシースから手押し造影を数回行い,ステント留置の位置決めを行った(Fig. 2a).この際に肺動脈弁輪を温存するために,ステント留置位置は肺動脈弁輪にかからず,弁下組織のみにかかるように位置を調整した.ガイドワイヤーを末梢肺動脈に留置し,カテーテルを抜去した.Express™ Vascular SD 5 mm×15 mm(Boston Scientific, Natick, Massachusetts, USA)を留置部位まで進めた.ステントを留置部位まで進めたところでガイディングシースを引き抜き,ステントを露出させ,バルーンを拡張しステントを留置した(Fig. 2b).さらにステント留置後に,ガイドワイヤーを残してステントバルーンとSterling™ 5 mm×20 mm(Boston Scientific, Natick, Massachusetts, USA)を入れ替え,経皮的肺動脈弁形成術を行った.その後,ガイディングシースから右室造影を施行し,ステントが肺動脈弁下に留置されており,右室流出路が拡張されていることを確認した(Fig. 3a, b).

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Fig. 1 (a/b) Angiograms (anteroposterior/lateral views) showing stenosis of the right ventricular outlet tract (arrowheads), pulmonary valve (arrow), and hypoplastic central pulmonary arteries

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Fig. 2 (a) Angiogram (lateral view) showing stent position using a 6-French guide catheter. (b) Angiogram (lateral view) showing the final stent position

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Fig. 3 (a/b) Angiograms (anteroposterior/lateral views) obtained after stent implantation. The stent was successfully placed under the pulmonary artery valve

【カテーテル治療後経過】

ステント留置後のエコーでは,ステントは肺動脈弁下に留置されており,肺動脈弁の可動性は良好であった(Fig. 4).肺動脈弁逆流の増悪も認めなかった.右室流出路狭窄は流速4.3 m/sとカテーテル治療前と比較して変化はなかった.臨床的にはステント留置直後から酸素化の改善を認めたため,酸素投与及び一酸化窒素吸入療法は中止した.しかしNICUへ帰室後に酸素化が悪化し,胸部レントゲン写真では両側肺野に浸潤影を認め,気管内から血性痰が吸引された.肺出血や再灌流肺障害による肺水腫が疑われ,酸素投与と一酸化窒素吸入療法を再開し,術後3日にサーファクタントの投与を行ったところ酸素化は改善,同日一酸化窒素吸入療法を漸減中止した.術後6日に抜管し,術後10日まで非侵襲的持続陽圧換気療法を行った.術後15日(日齢65)に前医へ転院搬送し,日齢106に自宅退院となった.

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Fig. 4 Ultrasounds obtained after stent implantation. The stent (arrowheads) was successfully placed under the pulmonary artery valve (arrow)

考察

近年では良好な肺動脈を有するファロー四徴症患者において,早期に一期的心内修復術を行うことが一般的になっている.特に生後3ヶ月以降の患者において,術後急性期の経過および生存率はより優れていると報告されている.しかしながら,低体重,肺動脈低形成,心外合併症を有する症例においてその成績は決して良好ではない8–10).一期的心内修復術が困難な症例においては姑息手術が選択され,mBTSが広く行われてきた.しかし諸外国からの報告ではmBTSは死亡率が高く,特に体重3 kg未満の症例においてハイリスクであるとされている5, 6).また,肺動脈低形成症例においてはシャント術後の肺動脈の変形による肺動脈の発育の左右差が問題となることも多い.本症例においても左右肺動脈は低形成であったため,mBTS術後の肺動脈の変形が懸念された.

1997年にmBTSに替わる姑息手術として右室流出路ステント留置術の報告がされ11),以後,その有効性を示す報告が多数されている.近年,mBTSとRVOTSの有効性を比較した研究も報告され7, 11–16),RVOTSはmBTSと比較してPICU入院率が低く,入院期間が短く,安全に実施することが可能であるとされる16)

本症例では,術後に再灌流肺障害を疑う酸素化の低下を認めたが,酸素投与や一酸化窒素吸入療法を施行し,最終的にはサーファクタント投与により速やかに改善した.

術後の挿管期間は6日間で,比較的早期に抜管が可能であった.18トリソミー症候群では気管軟化による低酸素血症を呈する症例を経験するが,本症例においては右室流出路ステント留置後の術後急性期以降は低酸素血症を呈することなく経過したため,術前の低酸素血症の原因は右室流出路狭窄に伴うものと考えられた.

当院でのファロー四徴症の治療戦略として,肺動脈弁輪径z-score: −2.0以上の症例は弁輪温存を目指している.本症例では治療時の肺動脈弁輪系は4.8 mm(z-score: −1.95)であり,右室流出路再建時に弁輪温存を選択できる可能性があると考えたため,ステント留置位置は肺動脈弁下に限定し,肺動脈弁にかからないように注意した.硬いガイディングシースを右室流出路へ進めることで,右室流出路の形態が変化するため,Stumperらの報告7)を参考に,ガイディングシースから手押しで造影を行い,変化後の形態を確認し,慎重に位置決めをすることで肺動脈弁下にステントを留置することができた.

また,カテーテル治療に伴う合併症として,右室流出路へガイディングシースを進めることで右室流出路の心筋を刺激し,低酸素発作を呈する可能性を懸念したが,治療中にそのような有害事象は生じなかった.鎮静による体動や交感神経の興奮の予防と,右室流出路へ進入させたガイティングシースが支えとなったことで右室流出路の閉塞を回避できた可能性があると考えられる.

ステントサイズの選択に関しては,右室流出路及び肺動脈弁下の形態を血管造影,経胸壁超音波検査,さらには姑息術から心内修復術までの推定待機期間から,慎重に選択する必要がある14).本症例ではステント留置後の高肺血流を避けるために軽度の狭窄を残すことを目標とし,正常肺動脈弁輪径のz-score: −1.59に相当する5 mmのステントを選択した.術後の超音波検査では適切な狭窄が残存したと考えられたが,再灌流肺障害を疑う経過があったため,小さいサイズのステントを留置した症例でも術前に肺動脈の低形成を認めた場合は,術後の呼吸状態の変化に注意が必要と考えられた.

結語

ファロー四徴症を合併した18トリソミー症候群で低酸素血症を呈する乳児に対して右室流出路ステントを留置し,安定した血行動態を確立し自宅退院をなし得た症例を経験した.18トリソミー症候群に限らず,低体重,肺動脈低形成,心外合併症を有する症例など,mBTSのリスクが高い症例において,RVOTSは有効な治療選択肢になりうると考える.

引用文献References

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