Journal of JCIC

Online edition: ISSN 2432–2342
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Journal of JCIC 7(2): 28-32 (2023)
doi:10.20599/jjcic.7.28

症例報告Case Report

Amplatzer Duct Occluder留置後のデバイス展開不良と大動脈への突出に対しバルーン拡大術により改善を得た動脈管開存の一例A case report: Successful balloon dilatation for inadequately deployed Amplatzer duct occlude and protrusion to the descending aorta after percutaneous patent ductus arteriosus closure.

1富山大学附属病院小児科Department of Pediatrics, Toyama University Hospital, Toyama, Japan

2福井循環器病院小児科Department of Pediatrics, Fukui Cardiovascular Center, Fukui, Japan

受付日:2022年7月25日Received: July 25, 2022
受理日:2023年1月12日Accepted: January 12, 2023
発行日:2023年3月31日Published: March 31, 2023
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経皮的動脈管閉鎖術において,大動脈へのデバイス突出は注意の必要な合併症の一つである.症例は生後9カ月,体重6.8 kgの女児で,体重増加不良があり経皮的動脈管閉鎖術のため当院へ紹介となった.心臓超音波検査で肺動脈側最小径6.0 mmの大きな動脈管(Krichenko type A)を認めた.大動脈造影で動脈管の肺動脈側径4.9 mm,大動脈側径13.9 mmに対してAmplatzer™ Duct Occluder(ADO)10/8を留置したところ,肺動脈側へ脱落した.ADO 12/10に変更し再留置を行ったが,デバイスはretention skirtの展開が不十分な形で留置され,大動脈側への突出を認めた.デバイスの大動脈側でTyshak II 12 mm×3 cmによる拡大を行い,ADOのretention skirtは良好な形態となり,大動脈側への突出も改善した.経皮的動脈管閉鎖術において,デバイスの展開不良と大動脈側への突出に対し,バルーン拡大術による整形は有用な手技となりうる.

The device protrusion into the aorta is one of serious complications in children, especially small infants, who undergo transcatheter device closure of patent ductus arteriosus (PDA). We present the case of a girl with PDA in whom a PDA device protruding into the aorta was successfully reshaped by balloon dilatation. A 9-month-old girl weighing 6.8 kg who had failure to thrive was referred to our hospital for percutaneous PDA closure. Echocardiography showed a large conical PDA measuring 6.0 mm at its narrowest diameter. As aortography showed a Krichenko A type PDA with the pulmonary and Aortic side diameter of 4.9 mm and 13.9 mm respectively, we deployed Amplatzer™ Duct Occluder (ADO) 10/8 from the pulmonary side. However, it migrated into the main pulmonary artery before releasing. Subsequently, an ADO 12/10 was placed in the PDA. As it was oversized, retention skirt seemed to be inadequately deployed and protruded toward the aorta. Balloon dilatation with Tyshak II 12 mm×3 cm was performed on the aortic side of the device, which resulted in better shape of the retention skirt and improved device protrusion toward the aorta. Balloon dilatation can be a feasible procedure to reshape the device protruding into the aorta in infants who undergo transcatheter device closure of PDA.

Key words: patent ductus arteriosus; percutaneous patent ductus arteriosus closure; Amplatzer Duct Occluder; balloon dilatation

はじめに

動脈管開存に対する経皮的閉鎖術は,良好な閉鎖率と高い安全性を兼ね備えた確立された治療手技であり,多くの症例において第一選択となっている1).日本国内では2009年にAmplatzer™ Duct Occluder(Abott, Pylmouth, MN, USA)が保険償還されて以降,大きな動脈管も安全に閉鎖することが可能となった.また,近年ではAmplatzer™ Duct Occluder II(Abott, Pylmouth, MN, USA)やAmplatzer™ Piccolo Occluder(Abott, Pylmouth, MN, USA)が使用可能となったことで,より幅の広い症例へと治療適応が拡大している2).しかし,乳児や体格の小さな幼児において,体格に比して大きな動脈管は閉鎖が困難な場合があり,特に肺動脈側や大動脈側へのデバイス突出には注意を要する3, 4).今回,乳児の大きな動脈管に対するAmplatzer™ Duct Occluder(以下ADO)留置後のデバイス形態不良と大動脈側への突出に対して,大動脈側のバルーン拡大術によるデバイス整形が有効な症例を経験した.

症例

1. 病歴

症例は生後9カ月の女児.在胎39週6日,出生体重2794 g,産院で出生後に心雑音と多呼吸を指摘され紹介医を受診し,動脈管開存と診断された.外来で経過観察となったが動脈管は閉鎖傾向なく,体重増加不良を認めたため当院へ紹介となり,カテーテル治療のため入院となった.入院時,体重6.8 kg(−1.5SD),身長69.8 cm(−0.1SD),血圧88/40 mmHg,脈拍133回/分,呼吸数40回/分,経皮的酸素飽和度99%(室内気),胸部聴診で肺雑音なし,心音は整,胸骨左縁第3肋間を最強点とするLeveine 4/6の連続性雑音を聴取,肝臓は触知しなかった.胸部X線でCTR 0.55,左第2弓突出と両側肺血管陰影の増強を認め(Fig. 1),血液検査でNt-pro BNP 1259 pg/mLと上昇を認めた.心臓超音波検査では,左房と左室の著明な拡大を認め,左室拡張末期径39.9 mm(157% of normal),左室駆出率48%,動脈管は円錐型(Krichenko type A)で,動脈管径は傍胸骨短軸像で肺動脈側最小径6.0 mm,大動脈側径10.0 mmと計測した(Fig. 2).動脈管血流は連続性左右短絡で,最大血流速度4.5 m/秒であった.動脈管が大きいため外科的治療も提案したが,両親は非侵襲的なカテーテル治療を強く希望されたため,治療に対するリスク等を十分に説明したうえで同意を得たので,経皮的動脈管閉鎖術を実施した.

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Fig. 1 Chest X-ray. Chest X-ray shows marked cardiomegaly and severe pulmonary congestion.

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Fig. 2 Echocardiography. White arrow shows a large patent ductus arteriosus measuring 6.0 mm at its narrowest diameter

2. 経皮的動脈管閉鎖術

経静脈麻酔による全身麻酔を行い,人工呼吸器による呼吸管理の下,手技を開始した.右大腿動脈に4Frシース(メディキット株式会社,東京,日本),右大腿静脈に6Frシース(メディキット株式会社,東京,日本)を挿入し心臓カテーテル検査を開始した.肺動脈圧35/20(平均29)mmHg,大動脈圧86/28(平均56)mmHgと軽度の肺高血圧を認め,肺体血流比は3.09,肺血管抵抗1.44 units·m2だった.続いて,4Fr pigtailカテーテルで下行大動脈から動脈管の造影を行った.動脈管が大きく,形態の描出が不鮮明であったため,より正確な計測を行うために右大腿静脈の6Frシースを6Fr TorqVue™ Delivery System(Abott, Pylmouth, MN, USA)に入れ替え,動脈管を通過させた状態で再度下行大動脈造影を行い,動脈管の計測を行った.動脈管の肺動脈側径4.9 mm,大動脈側径13.9 mm,動脈管長7.7 mm,下行大動脈径9.3 mmと計測した(Fig. 3a, b).ADO 10/8(9-PDA-006)を選択し,動脈管内に留置したが,大動脈造影の準備をしている間に肺動脈内に脱落していた(Fig. 3c, d).主肺動脈内でデバイスの回収を試みたところ,デバイスの肺動脈側はデリバリーシース内に容易に収容できたが,retention skirt部分を引き込むことができなかったため,8Fr TorqVue™ Exchange system(Abott, Pylmouth, MN, USA)へ入れ替え,デバイスを回収することが可能となった.ADO 10/8が動脈管に対して小さいと考え,ADO 12/10(9-PDA-007)に変更し,動脈管内へデバイス留置を行うこととした.しかし,大動脈径に対してデバイスが大きいためか,大動脈内で展開したretention skirtの展開が不十分であったため,そのままの形態で肺動脈側に引きつけると肺動脈内に脱落するということを繰り返し留置に難渋した.最終的に,デバイスを肺動脈側へ引きつけすぎずないよう展開することで,動脈管内にデバイスを留置することができたが,retention skirtの形態が大動脈側へ凸の状態で留置された(Fig. 4a).この時点で大動脈内のデバイス前後で圧較差は認めなかったが,デバイス形態が不良であることから,大動脈側でバルーン拡大術を行うことでデバイスの整形を行うこととした.大腿動脈より0.025 inchラジフォーカスガイドワイヤー(テルモ株式会社,東京,日本)を上行大動脈に留置し,Tyshak II 12 mm×3 cm(NuMED For Children, Orland, FL, USA)をADO留置部まで進め,3 atmで拡張を行ったところ,大動脈側に凸になっていたretention skirtはバルーン拡張により復元し,3回の拡張で平坦となった.(Fig. 4b, c).大動脈造影でデバイスを通過する血流は認めたが,上行大動脈から下行大動脈の間に圧較差はなく,左肺動脈狭窄も認めないことからデバイスを離脱し手技を終了した.バルーン拡大については事前に両親へ説明のうえ同意を得て施行した.

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Fig. 3 Percutaneous patent ductus arteriosus closure. a)b) AP and lateral view of descending aortography shows large Krichenko type A Patent ductus arteriosus. c) ADO 10/8 device was placed in patent ductus arteriosus properly. d) Migrated ADO 10/8 device into main pulmonary artery

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Fig. 4 Balloon dilatation in descending aorta. a) Inadequately opened retention skirt of ADO 12/10 device placed in patent ductus arteriosus. b) Dilated Tyshak II 12 mm×3 cm in the descending aorta. c) White arrow shows improved retention skirt’s shape

3. 術後経過

術翌日の心臓超音波検査で左室拡大(左室拡張末期径40 mm,153% of normal)と左室駆出率の低下(LVEF 45%)の残存を認め,エナラプリル,フロセミド,スピノロラクトン内服を開始した.心臓超音波検査で,留置したデバイス内を通過する残存短絡を認め,術後2日目に点状出血を伴う血小板減少を認めたが,経過観察可能と判断し同日退院とした.血小板数は術後9日目に最低値6.3×104/µLまで低下したが,点状出血の増悪なく,術後12日目に上昇傾向となった.また,術後から血清LDH上昇(最高値419 U/L)とハプトグロビンの低下から溶血が疑われたが,貧血の進行なく1カ月後には改善した.残存短絡は術後2カ月の時点で消失を確認した.術後1年の胸部X線で肺うっ血と心拡大は改善し,デバイス形態に異常は認めなかった(Fig. 5).心臓超音波検査で心収縮力の改善を認めたため内服薬は中止した.

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Fig. 5 Chest X-ray 1 year after procedure. Chest X-ray showed a good shape of the ADO device. Cardiomegaly and pulmonary congestion were improved

考察

動脈管に対する経皮的動脈管閉鎖術は,その高い安全性と有効性から,世界的に標準的な治療として確立されている1, 5).特にADOは,経皮的動脈管閉鎖術において最も使用頻度の高いデバイスであり,高い手技成功率が報告されている5).動脈管の形態として最も多いKrichenko分類タイプAは,大きな大動脈側Ampullaがあるため,ADOを展開するために十分なスペースを有することが多いが,大動脈側へのデバイス突出の頻度は高く,約9%と報告されているものもある5, 6).多くの場合,臨床的に問題になることはないとされているが,Choiらは,生後6カ月未満で経皮的動脈管閉鎖術を施行した22例のうち,3例(13.6%)に大動脈の狭窄を来たし,そのうち2例は外科的デバイス除去と動脈管結紮術が行われたと報告していることからも,低月齢や低体重の症例ではデバイス突出に対する注意が必要である7).また,閉鎖術直後に圧較差がない場合でも時間の経過とともに狭窄が顕在化する症例もあるため,注意深いフォローアップが必要である1).ADOデバイスは大動脈側のretention skirtが最も大きい形状となっており,本症例で使用したADO 12/10の場合,肺動脈側径10 mmに対して8 mm大きい18 mmである.本症例では,大動脈径に対して大きなretention skirtが十分に展開することができず,マッシュルーム状のまま動脈管内に留置せざるを得なかったため,デバイスが大動脈側へ突出することとなった.留置直後にはデバイスの前後で圧較差を生じていなかったが,突出したデバイスにより狭窄が生じることが予想されたため,大動脈側でのバルーン拡大術による整形を行った.過去に,大動脈側に突出したADOデバイスに対するバルーン拡大術に焦点を当てた報告は多くない.Salibaらは体重10 kgの患者にADOを留置し,大動脈側に突出したデバイスをバルーンで押し付けることにより,圧較差の改善を得たと報告している8).一方で,Masriらは,大動脈側へ突出したADOに対し,バルーン拡大術によるリポジショニングを4例に試みたが,全例でデバイスの角度や突出に変化は認めなかったと報告している9).また,Epçaçanらは,大動脈側に突出したADOに対するバルーン拡大術による修正を3例に試み,1例で改善したが2例では改善が得られず手術によるデバイス除去を要したと報告している10).これらの報告を見ると,大動脈側へ突出したデバイスに対するバルーン拡大術の成功率は,それほど高いとは言えないであろう.これらの報告では,デバイスは全て良好な形態で展開されており,デバイスの位置修正を目的としてバルーン拡大術が試みられている.一方,自験例は,デバイス突出の主な原因は不十分なデバイス展開によるものであり,バルーン拡大によりretention skirtが良好な形態に整形された結果,デバイス突出の改善を得ているという点で,過去の報告とは異なっている.

本手技の問題点の一つは,使用するバルーンの大きさに明確な基準がないということである.今回,自験例では下行大動脈径9.3 mmに対して,Tyshak II 12 mm(NuMED For Children, Orland, FL, USA)を選択した.大動脈のAmpulla部分は下行大動脈径よりも大きいこと,デバイスに十分な力を加えて整形する必要があったことから大きめのバルーンを選択したが,血管損傷のリスクを考えた場合,下行大動脈径を超えない範囲でのバルーンサイズ選択がより安全であった可能性がある.また,そもそも十分に展開しないデバイスは大動脈径に対して過大であると考えられ,無理やり留置された大きなデバイスが大動脈壁へ与える長期的な影響も明らかではない.これらを踏まえ,治療後の注意深い経過観察が不可欠である.

さらに,自己拡張型デバイス自身の復元力という点についても考慮する必要がある.ADO留置後にretention skirtがマッシュルーム形状となった場合も,程度が軽ければ復元力により自然に改善することを経験する.したがって,自験例でも自然に改善した可能性は否定できない.しかし,自験例では体格に比してデバイスが大きいためか,retention skirtの凸型形態が強く,自然に改善する可能性が低いと判断したため,バルーン拡大による整形をおこなった.これまでに,ADOデバイス留置後の復元力による形態変化の報告はなく,どのようなデバイスの留置形状ならば自然改善するかは不明である.現時点では,留置後デバイスの整形を行うかどうかは術者の判断に委ねられ,手技による合併症のリスクを十分に勘案し決定する必要がある.

結語

経皮的動脈管閉鎖術時のデバイス展開不良による大動脈側への突出に対し,大動脈側のバルーン拡大術によるデバイス整形は有効な手段の一つであると考えられた.最適なバルーンサイズの選択や手技の合併症を明らかにするために症例の蓄積が必要である.

引用文献References

1) Pass RH, Hijazi Z, Hsu DT, et al: Multicenter USA Amplatzer patent ductus arteriosus occlusion device trial: Initial and one-year results. J Am Coll Cardiol 2004; 44: 513–519

2) 宗内 淳,落合由恵,渡邉まみ江,ほか:新生児・乳児期の症候性動脈管に対するカテーテル治療の有効性と安全性.日本小児循環器学会雑誌2020; 36: 133–142

3) Dimas VV, Takao C, Ing FF, et al: Outcomes of transcatheter occlusion of patent ductus arteriosus in infants weighing ≤6 kg. JACC Cardiovasc Interv 2010; 3: 1295–1299

4) Backes CH, Rivera BK, Bridge JA, et al: Percutaneous patent ductus arteriosus (PDA) closure during infancy: A meta-analysis. Pediatrics 2017; 139: e20162927

5) Liddy S, Oslizlok P, Walsh KP: Comparison of the results of transcatheter closure of patent ductus arteriosus with newer Amplatzer devices. Catheter Cardiovasc Interv 2013; 82: 253–259

6) Ewert P: Challenges encountered during closure of patent ductus arteriosus. Pediatr Cardiol 2005; 26: 224–229

7) Choi GJ, Song J, Kim YS, et al: Outcomes of transcatheter closure of ductus arteriosus in infants less than six months of age: A single-center experience. Korean J Pediatr 2018; 61: 397–402

8) Saliba Z, Rassi EII, Helou D, et al: Development of catheter-based treatment of patent ductus arteriosus: A medium-sized centre experience. Arch Cardiovasc Dis 2009; 102: 111–118

9) Masri S, Rassi EII, Arabi M, et al: Percutaneous closure of patent ductus arteriosus in children using Amplatzer duct occluder: Relationship between PDA type and risk of device protrusion into the descending aorta. Catheter Cardiovasc Interv 2015; 86: E66–E72

10) Epçaçan S, Bulut MO, Yücel İK, et al: A beneficial technique for preventing the device protrusion to the aorta during percutaneous patent ductus arteriosus closure: “Balloon-assisted device releasing technique”. Cardiol Young 2019; 29: 1380–1386

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