Journal of JCIC

Online edition: ISSN 2432–2342
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Journal of JCIC 7(2): 24-27 (2023)
doi:10.20599/jjcic.7.24

症例報告Case Report

外傷性腕頭動脈仮性瘤をカバードステントで閉鎖した1小児例A Child Case with Traumatic Brachiocephalic Artery Pseudoaneurysm Closed Using a Covered Stent

1沖縄県立南部医療センター・こども医療センター小児科Department of Pediatrics, Okinawa Prefectural Nanbu Medical Center & Children’s Medical Center

2沖縄県立北部病院小児科Department of Pediatrics, Okinawa Prefectural Hokubu Hospital

3沖縄県立南部医療センター・こども医療センター小児循環器内科Department of Pediatric Cardiology, Okinawa Prefectural Nanbu Medical Center & Children’s Medical Center

4沖縄県立南部医療センター・こども医療センター小児集中治療科Department of Pediatric Critical Care, Okinawa Prefectural Nanbu Medical Center & Children’s Medical Center

5沖縄県立南部医療センター・こども医療センター放射線科Department of Radiology Okinawa Prefectural Nanbu Medical Center & Children’s Medical Center

受付日:2022年6月29日Received: June 29, 2022
受理日:2022年12月23日Accepted: December 23, 2022
発行日:2023年3月31日Published: March 31, 2023
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自動車事故に遭遇し,両側肺挫傷,左気胸,腕頭動脈仮性瘤などの鈍的外傷を被った8歳の女児を報告する.腕頭動脈瘤からの出血はなく,肺挫傷と気胸も保存的に管理が可能となったので,瘤破裂を避けるために右大腿動脈から腕頭動脈にカバードステントを留置し,仮性瘤との交通孔を閉鎖した.腕頭動脈損傷は出血量が多いと死亡する場合があり,迅速な外科的修復が必要である.しかし,多量の出血を伴わない不完全断裂や仮性瘤の場合は,カバードステント留置術などの血管内治療が低侵襲かつ迅速に施行できる有力な一治療法である.

We report an 8-year-old girl who had a blunt injury including bilateral pulmonary contusion, left pneumothorax, and pseudoaneurysm of the brachiocephalic artery after a car accident. We emergently implanted covered stents into the brachiocephalic artery via the right femoral artery to close the orifice into the pseudoaneurysm after treating the pulmonary contusion and pneumothorax conservatively.

Vigilant early diagnosis and timely surgical treatment are critical for patients with rapid bleeding and high mortality following brachiocephalic arterial injury. Endovascular treatment such as covered stent implantation is an effective treatment option with less invasiveness and rapid achievement for patients without rapid bleeding having a pseudoaneurysm or partial transection of it.

キーワード:腕頭動脈損傷;仮性動脈瘤;カバードステント;交通外傷

背景

外傷性腕頭動脈損傷はすべての動脈損傷の0~3%とまれであり1),患者の71%は病院到着前に死亡する致死率の高い外傷性損傷である2).腕頭動脈損傷の多くは自動車事故が原因で起こり,約85%は腕頭動脈近位部に,残りの15%はその中間部から遠位部に発生する3).外科的修復の際は,通常近位部の場合は胸部正中切開で対応可能だが,遠位部の場合は頸部切開も必要となる4).腕頭動脈損傷で出血を伴う場合は,直ちに外科的修復が施行されるべきである.一方で,出血量が少ない裂傷や仮性瘤の場合はカテーテル治療も施行されている4).外科的修復術が施行された場合の死亡率は1960年代には50%と高かったが,搬送手段,診断法,および手術方法が進歩したため,1980年代には10%まで低下した5).2011年からのメタアナリシスによる腕頭動脈損傷患者の入院後の治療法別死亡率は,保存的治療が46%,外科的修復術が19%,血管内治療が9%との報告がある6)

今回外傷性腕頭動脈仮性瘤に対して開胸修復術よりも低侵襲であるカバードステント留置術を施行した症例を経験した.文献的考察を加えて,その詳細を報告する.

症例

症例は8歳の女児で,体重は20 kg.既往歴に気管支喘息がある.

患児は,夕方学校から帰宅途中に軽自動車と交通事故に合った.事故の詳細は不明で,患児は自力で車の下から脱出した後,近院へ救急搬送された.搬送時会話は可能で,室内気で呼吸状態は安定していた.全身CTが撮影され,両側肺挫傷,左気胸,腕頭動脈仮性瘤が認められた.腕頭動脈仮性瘤への外科治療が必要と判断されたため,当院へ搬送された.安全確保のため搬送前に気管挿管され,左胸腔ドレーンが留置された.

当院到着時血痰とドレーンから血液の流出が認められた.バイタルサインは,血圧113/68 mmHg,心拍数159回/分,呼吸数24回/分,SpO2 96%(FiO2 1.0,用手換気下),体温36.8°Cであった.身体所見では,左頬,左前胸部に擦過傷,左鎖骨上に裂傷,右膝に熱傷,左膝に擦過傷,右足背に水疱形成が認められ,左胸部の呼吸音は減弱していた.全身造影CTを撮影し,腕頭動脈仮性瘤の破裂や拡大はなく(Fig. 1),両側の肺挫傷(出血と無気肺の混在)と左気胸が認められ,頭部と腹部には異状所見は認められなかった.

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Fig. 1 Contrast-enhanced CT images. A. 3-dimensional reconstruction image. Pseudoaneurysm is recognized behind the brachiocephalic artery (A and B arrows).

左気胸の増悪と血痰から換気不良と低酸素血症が増悪したが,胸腔ドレーンの追加留置と気管支鏡による選択的血痰除去により換気状態は改善した.肺挫傷は保存的に観察可能と判断された.腕頭動脈仮性瘤に関して,小児集中治療科,小児循環器内科,心臓血管外科,放射線科で協議した.開胸修復術は侵襲が高く,また肺挫傷を伴っていることから播種性血管内凝固症候群を併発する危険あると考えられた.循環動態は安定していたため,開胸せずに低侵襲で施行できるカバードステントGORE®VIABAHN®VBX Balloon Expandable Endoprosthesis(VBX; Gore,アリゾナ,米国)を腕頭動脈に留置する方針とした.VBXは適応外使用になるが,当院では頸部動脈瘤に対する既存治療法であるため,治療の遂行を優先し,倫理委員会の承認は後日に得た.ご両親へは適応外使用であることを伝え,文書による使用承諾を得た.

カバードステント留置術

CT画像から,仮性瘤は腕頭動脈起始部直上にあり,瘤入口部径は約4 mm,瘤の大きさは8×10 mmであった.腕頭動脈の起始部は径6.5 mm,遠位部は径6 mmであったので,VBX 7 mm径×29 mm長を留置し,近位部をフレア状に後拡張して仮性瘤を閉鎖する方針とした.緊急時に備えて,外科のバックアップ体制で臨んだが,ECMOスタンバイは必要ないと判断した.

ステントデリバリ目的に右大腿動脈から大動脈弓へ7 Frロングシース(LS),造影目的に左大腿動脈から大動脈弓へ4 FrLS,必要に応じてステント留置後に仮性瘤のコイル閉鎖を追加できるように右上腕動脈に4 Frシースを確保した.ヘパリンは,活性化凝固時間が150~200秒となるように使用した.まず,7 FrLSから4 Fr Headhunterカテーテル(Terumo,東京)を進めて,腕頭動脈を選択的に造影した.造影像を確認しながら,瘤壁に接触しないように腕頭動脈から0.03″Radifocusワイヤを右鎖骨下動脈まで慎重に進めた.ワイヤにカテーテルを追従させ,そこに0.035″Amplatz Super Stiffワイヤを留置した.次に,4 Frシースから4 Fr MIFTYカテーテル(Hanaco,埼玉),さらに2.4 Fr Progreatカテーテル(Terumo,東京)を進めて,マイクロカテーテル先端を仮性瘤内に留めた.続いて,7 FrLSからVBX 7×29 mmを腕頭動脈へbare deliveryした.仮性瘤がステントでカバーされるように,4 FrLSから進めたMIFTYで確認造影の後(Fig. 2A),15気圧でバルーンを拡張し,VBXを圧着させた(Fig. 2B).続いてステント近位部を10 mm×20 mm Armada®35 PTA Catheter(Abbott,シカゴ,米国)で後拡張した(Fig. 2C).しかし,ステントが短縮し,その近位部が仮性瘤をカバーしなくなったので(Fig. 2D),VBX 8 mm径×29 mm長を近位部に追加留置して(Fig. 2E),さらにArmadaで後拡張した.仮性瘤はカバードステントに完全に覆われ(Fig. 2F),かつProgreatで仮性瘤内を造影しても造影剤がウオッシュアウトされないため,コイルの追加は必要ないと判断して,手技を終了した.

Journal of JCIC 7(2): 24-27 (2023)

Fig. 2 Angiograms before and after covered stents implantation. A. Aortogram before implantation. Pseudoaneurysm is recognized behind the brachiocephalic artery (arrow). B. 7×29 mm covered stent is implanted into the brachiocephalic artery to cover the orifice into the pseudoaneurysm. C. Proximal part of the stent is re-dilated using a 10×20 mm balloon catheter to anchor the part onto the vessel wall. D. Pseudoaneurysm has enhanced again because of the shortening of the stent (arrow). E. 8×29 mm covered stent is added proximal to the stent. F. After re-dilation of stents with the balloon catheter, the orifice into the pseudoaneurysm is covered with the stents.

その後患児は順調に回復し,入院14日目に退院した.

考察

腕頭動脈は,事故による外傷,銃撃,刺傷などによって,断裂,解離,仮性瘤,動静脈瘻などが起こりえる7).腕頭動脈は大動脈からの第1分枝で,血流が多いのでその損傷は多量の出血を伴う場合が多く,死亡率は5~43%と高い7).病院搬送中に失血死する場合もある.腕頭動脈が破裂した場合は,通常緊急開胸手術が施行されてきた8–10).手術の利点は,病変の直視,適切な出血のコントロール,確実な血管修復である11).しかし,腕頭動脈は胸骨の後方に位置し,その周囲には血管,神経,気管などが存在しているので,修復術が困難な場合がある4, 12).また,胸骨や鎖骨が骨折した場合は,それらが手術の障害となりうる.骨折骨による腕頭動脈損傷の場合は,骨折骨が動脈を塞いでいる場合があるので,正確に診断したうえでの開胸手術が望ましい11)

腕頭動脈仮性瘤は,無治療では瘤拡大による周囲臓器の圧迫,瘤破裂,血栓・塞栓を来しうる12).腕頭動脈の仮性瘤や出血量が少ない不完全断裂の場合は,カバードステントを留置して対応できる場合がある11).また,外科的修復が困難な総頚動脈と鎖骨下動脈の分岐部病変に対しても,2本のカバードステントを用いてY字状に留置するkissing techniqueは有効である13).これらの血管内治療は外科的修復術に比べると低侵襲,短時間で達成され,全身への影響も少なく,さらに長期的な転帰も改善された14, 15).しかし,腕頭動脈が完全断裂し,その遠位血管が虚脱している場合は,病変部にガイドワイヤを通過させることが困難であり,またさらなる出血を来す危険がある.このような場合に,断裂している腕頭動脈近位部をバルーンカテーテルで閉塞して出血をコントロールした後,開胸修復術を施行するハイブリッド治療は一治療法である11)

本症例では,外傷性腕頭動脈仮性瘤に加えて左気胸と肺挫傷による出血があった.これらの肺病変は保存的治療が可能であったこと,循環動態が安定していたこと,そして腕頭動脈仮性瘤の修復術に人工心肺を用いた場合,肺挫傷からのさらなる出血やDICを合併する危険性を考慮し,カバードステント留置を選択した.また,カバードステント留置後に瘤内への短絡が残存した場合にコイル塞栓を追加できるように瘤内にマイクロカテーテルを留置した.ステント留置後にカテーテルはカバードステントと血管壁に挟まれた状態であり,カテーテルが抜去困難になる可能性がある.しかし,このような手技は当院放射線科で通常に施行されていて,実際カテーテルが抜去困難になったことはない.

VBXの適応は,添付文書上「腸骨動脈に新規病変又は再狭窄病変がある症候性末梢動脈疾患患者の血流を改善する目的で使用する」と記載されている.当院では,頸部血管の動脈瘤だけでなく,倫理委員会承認後にJatene術後の肺動脈狭窄(バルーン拡張術では,術後に大動脈肺動脈交通が生じる場合がある)にも適応外使用している.VBXはサイズバリエーションが豊富で,径は5 mm~11 mmまで1 mm毎にあり,長さは15 mmから79 mmまである.バルーンにプレマウントされていて,柔軟性もあるので,デリバリは困難ではない.ただし,より大口径のバルーンで後拡張すると短縮するので注意を要する.本症例では短縮率の予測を誤り,より大口径のバルーンでの後拡張後にステントが短縮して仮性瘤の交通孔を覆わなくなったため,近位部にステントを追加留置した.また,本症例で使用した7 mm径および8 mm径のVBXは添付文書上11 mm径までは再拡張できるので,成人の体格まで成長しても有意な狭窄は来さないと考えている.

腕頭動脈損傷は,死亡率が高く,迅速・適切な診断と治療が必要である.カバードステントを用いた血管内治療は低侵襲で,比較的短時間で施行できる有力な一治療法であり,仮性瘤や出血が少ない部分的な血管断裂には良い適応と思われる.しかし,血管内治療が円滑に進まない場合は,開胸修復術へ切り換えて,患者を救命することが最重要と思われる.

尚,本症例報告に関しては,当院倫理委員会に承認され(番号:R4-0223),患児の両親から口頭で承諾を得ている.

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