Journal of JCIC

Online edition: ISSN 2432–2342
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Journal of JCIC 6(1): 1-4 (2021)
doi:10.20599/jjcic.6.1

症例報告症例報告

心腔内エコーガイド下にNykanen™ RF wireで行った自然閉鎖した開窓の再作成Reopening a spontaneously closed fenestration with Nykanen™ RF wire using intracardiac echocardiography: A case report

兵庫県立こども病院 循環器内科Department of Cardiology, Kobe Children’s Hospital, Hyogo, Japan

受付日:2021年3月8日Received: March 8, 2021
受理日:2021年5月10日Accepted: May 10, 2021
発行日:2021年8月31日Published: August 31, 2021
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フォンタン術後合併症の蛋白漏出性胃腸症は難治性であり,治療法は確立されていない.血行動態への介入は治療法の一つであり,開窓作成が行われることがある.経皮的な開窓作成にはBrockenbrough法が行われることが多い.症例は4歳男児.左心低形成症候群に対して2歳4か月時に心外導管開窓フォンタン手術を行ったが,2歳7か月時に開窓の閉鎖を確認した.4歳9か月時に蛋白漏出性胃腸症を発症し,自然閉鎖した開窓の再作成を企図した.経食道エコー,血管造影では開窓閉鎖部位は特定できなかった.心腔内エコーでは壁厚が薄く,後方エコーの増強を認め,開窓閉鎖部位を特定した.同部位をNykanen™ RF wireで穿通し,順次バルーンで拡大,最大6 mmまで拡大した.開窓閉鎖部位の特定に心腔内エコーが有用であった.自然閉鎖した開窓の穿通にはNykanen™ RF wireの使用も選択肢の一つになりうる.

Protein-losing enteropathy (PLE) after the Fontan operation is a serious complication that is difficult to manage. One treatment option for PLE is the creation of a fenestration to improve hemodynamic status. The Brockenbrough puncture has traditionally been used to create a Fontan fenestration. The current patient was a 4-year-old boy with hypoplastic left heart syndrome who had undergone a fenestrated extracardiac Fontan operation at the age of 2 years and 4 months. The surgical fenestration closed spontaneously 3 months after Fontan completion. The patient developed PLE at the age of 4 years and 9 months, and underwent catheterization at the age of 4 years and 11 months. The site of Fontan fenestration could not be identified on angiography or transesophageal echocardiography. Intracardiac echocardiography indicated that the region of the spontaneously closed fenestration was thinner than the Fontan conduit and associated with posterior echo enhancement. The region was penetrated with Nykanen™ RF wire, and balloon dilatation was performed up to a final diameter of 6 mm. The present case indicates that intracardiac echocardiography can be useful for identifying the region of fenestration, and that Nykanen™ RF wire can be a viable option for reopening a surgically created fenestration.

Key words: fenestration; radiofrequency wire; intracardiac echography; Fontan

はじめに

開窓フォンタン術後に開窓が自然閉鎖することはよく知られている1).開窓の狭小化や閉鎖に伴い,運動機能低下やFontan術後合併症を認める例がある2).合併症の一つである蛋白漏出性胃腸症は難治性であり,治療法は確立されていない.治療法の一つとして血行動態への介入があり,開窓作成が行われることがある.開窓作成には外科的に行う方法と,経皮的に行う方法があり,経皮的には主にBrockenbrough法での作成が報告されている3, 4)

我々の施設では,左心低形成症候群や右側相同の症例に対しては,基本的に開窓フォンタン手術を選択している.今回我々は,心外導管フォンタン術後に開窓が自然閉鎖した左心低形成症候群の児が術後2年で蛋白漏出性胃腸症を発症したため,心腔内エコーガイド下にNykanen™ RF wire(Baylis Medical, Montreal, Quebec, Canada)を用いて経皮的に開窓の再作成を行った例を報告する.

症例

症例は4歳男児.身長97.8 cm,体重14.3 kg.

在胎39週4日,体重3050 gで出生し,生後に左心低形成症候群と診断された.生後1日に両側肺動脈絞扼術,生後1か月にノーウッド手術,生後5か月にグレン手術を行った.2歳4か月で開窓フォンタン手術(PTFE 18 mm導管,開窓部4×2 mm)を行ったが,術後45日間胸水貯留が遷延した.オクトレオチドを併用し,最終的に水分制限,利尿剤で胸水は消失した.2歳7か月時(フォンタン術後3か月)に全身麻酔下で心臓カテーテル検査を行い,中心静脈圧13 mmHg,右室圧60/5 mmHg,心係数4.3 L/min/m2であった.フォンタンルートに狭窄は認めなかった.また下大静脈造影で開窓の閉鎖を確認した.造影では開窓閉鎖部位を想起しうる所見も認めず,ガイドワイヤーも通過しなかった.

4歳9か月時(フォンタン術後2年5か月)に全身の浮腫,総蛋白3.7 g/dL・アルブミン2.2 g/dLと低蛋白血症を認め,蛋白漏出性胃腸症と診断した.アルブミンの補充,利尿剤投与を行い,総蛋白5.1 g/dL・アルブミン4.0 g/dLと低蛋白血症の改善を得た.利尿剤内服はフロセミド2.5 mg/kg,アルダクトン4 mg/kgまで増量した.血行動態の再評価のため4歳11か月時(Fontan術後2年7か月)に心臓カテーテル検査を行った.その際に,心腔内エコーで閉鎖した開窓部位が同定できればNykanen™ RF wire(Baylis Medical, Montreal, Quebec, Canada)による経皮的な開窓の再作成を行う方針とした.

カテーテルに先立って,全身麻酔下に経食道エコーで開窓閉鎖部位の確認を行った.導管全体の観察は困難であり,開窓閉鎖部位は確認できなかった(Fig. 1a).そのため心腔内エコーを用いることとした.

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Fig. 1 (a) Angiography of the extracardiac conduit demonstrating the Fontan circulation without a fenestration. (b) The catheter pressing the region of the spontaneously closed fenestration in the conduit before penetration. (c), (d) Position of the Nykanen™ RF wire in the right atrium after penetration of the conduit in the anteroposterior view (c), and lateral view (d). (e) Balloon dilatation for the conduit up to a final diameter of 6 mm

右大腿静脈に4 Frシース,左大腿静脈に8 Frシースを留置した.中心静脈圧は11 mmHgであり,下大静脈造影では開窓は造影されなかった.前回のカテーテル検査同様,開窓閉鎖部位を想起しうる所見も認めなかった.左大腿静脈からACUNAV™カテーテル(Johnson & Johnson, New Brunswick, NJ, USA)を挿入し,導管部の観察を行ったところ,周囲に比して壁厚が薄く,後方エコー増強を伴う箇所を認め,手術動画での位置も参考として開窓作成部位と判断した(Fig. 2a).右大腿静脈から4 Fr Amplatz Right 1(ガデリウス・メディカル株式会社,東京)を進め,同部位に押し付けた(Fig. 1b).マイクロカテーテルハイフロー(Gシリーズ)(ガデリウス・メディカル株式会社,東京),Nykanen™ RF wireを進め通電を2回行ったが,通過しなかったため,カテーテルの位置を頭側に変更し3回の通電で心房内に到達した(Fig. 1c, 1d, 2b).マイクロカテーテルを進め,Nykanen™ RF wireを0.014インチperipheral guide wire Aguru™(Boston Scientific; Marlborough, MA, USA)に入れかえた.Parent Plus™ 30(メディキット株式会社,東京)とバルーンカテーテルを進め,Armada14® 2 mm(Abbott; Chicago, IL, USA)で開窓拡大を行った.順次,Armada 14® 4 mm, Sterling™ 6 mm(Boston Scientific; Marlborough, MA, USA)で拡大し,手技を終了とした(Fig. 1e, 2c).シース挿入から抜去までの時間は170分,透視時間は36分であった.心腔内エコーでの開窓閉鎖部位の特定後から導管穿通までの時間は22分であった.SpO2は99%から90%に低下し,中心静脈圧は11 mmHgと変化はなかった.左房・導管間の圧較差は5 mmHgであった.出血や塞栓症などの合併症は認めなかった.術後2日目に退院とし,ワルファリン・アスピリンの内服を継続した.

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Fig. 2 (a) Intracardiac echocardiography indicating that the region of the spontaneously closed fenestration was thinner than the Fontan Conduit and associated with posterior echo enhancement. (b) Intracardiac echocardiography after penetration with the Nykanen™ RF wire. (c) Intracardiac echocardiography after balloon dilatation for the conduit

開窓再作成後8か月時点で,開窓は心エコーで開存を確認し,総蛋白6.9 g/dL・アルブミン4.8 g/dLと寛解を維持している.

考察

フォンタン循環合併症の一つである蛋白漏出性胃腸症は,全身の静脈圧上昇がリンパの二次性鬱滞を引き起こし,蛋白が腸管に漏出する病態である.治療は中心静脈圧低下と抗炎症が標的となるが,前者に対して開窓作成が行われることがある.経皮的な開窓作成は主にBrockenbrough法が用いられており,蛋白漏出性胃腸症の改善に寄与するとの報告は散見される3)

フォンタン患者における開窓作成のためのBrockenbrough法の安全性は多く報告されている5).特にフォンタン患者に対するカテーテルアブレーションでよく行われており,穿刺の段階的アプローチが示されている6).Ruppらの報告では,22例中1例のみに高周波エネルギーを用いて自然閉鎖した開窓の再作成を行っているが,著者らは基本的には機械的な力での作成を推奨している7).一方で心外への穿通や心房壁の損傷の合併症も無視はできない.

Nykanen™ RF wireは高周波エネルギーによって蛋白変性を起こし,穿刺を可能にする.PTFE patchの開窓の自然閉鎖の病理所見をみた犬の研究では,炎症細胞の浸潤を伴った線維芽細胞の増殖を認め,4週以降にはカルシウム塩の沈着を認めたとされている8).PTFEは絶縁体であり,Nykanen™ RF wireでは通電されないため無効である.線維芽細胞が内膜を構成していると考えられる開窓自然閉鎖部位のみ通電・穿通が可能であり,心外への穿通がないことは安全面で利点になる.

開窓作成部位について,Brockenbrough法では導管の角度や心内構造との関係で決まるため,導管の中央部になるとは限らない.また一部の症例ではスネアを用いて先端を把持する必要がある.自然閉鎖した開窓をNykanen™ RF wireで再穿通する方法ではフォンタン手術時の開窓作成部位と同部位に再作成される.心外導管フォンタン手術での開窓の位置に関するシミュレーションでは,導管の上部・下部に比して中央部に作成したほうが,呼吸をした際の中心静脈圧低下や心拍出量の増加に有利であるとされており9),開窓が導管中央部にあった場合,再作成部位の点からも利点になる.またNykanen™ RF wireは柔軟性がありガイディングカテーテルによる固定も容易であるため,閉鎖部位さえ特定できれば導管穿通時間は短時間で行うことが可能と考えられる.

一方で欠点として,穿通の確実性の問題がある.開窓閉鎖部位が確認できなければNykanen™ RF wireでの穿通はあきらめざるを得ない.また,自然閉鎖部位に石灰化を伴っている場合は同方法で穿通することは不可能である.

本症例では開窓閉鎖部位の確認に心腔内エコーが有用であった.経食道エコーでは,食道や気管の位置関係から導管全体が観察できないことが多い.また下大静脈造影で凹みがあることで開窓閉鎖部位が推定できることもあるが,それを認めない症例も多い.心腔内エコーでは導管内部からの詳細な観察が可能となり,経食道エコーよりも多くの情報が得られる.本症例では,PTFE導管との壁厚の差があり,後方エコー増強を伴ったことが開窓閉鎖部位の特定に寄与した.後方エコー増強は,開窓閉鎖部位の壁厚が薄いために,超音波の減衰が少ないことを反映していると考えられた.また,通常の心房中隔へのBrockenbrough法での心腔内エコーの使用法と同様に10),Nykanen™ RF wire穿通時には透視と心腔内エコー両方でのリアルタイムでの観察が可能であった.

開窓再作成後の閉鎖率については様々な報告があるが,60%以上が再閉鎖するとの報告もある11).また開窓再作成が必ずしもフォンタン循環合併症を改善するとは限らない3, 11).開窓の開存,蛋白漏出性胃腸症の再燃ともに注意深い観察が必要であり,今後開窓の狭窄進行時や蛋白漏出性胃腸症の再燃時はバルーンによる再拡大,閉鎖時にはNykanen™ RF wireでの再作成およびステント留置を考慮している.

PTFE導管に作成された開窓が自然閉鎖したフォンタン患者において,Nykanen™ RF wireを用いて安全に開窓の再作成を行うことが可能であった.また開窓閉鎖部位の確認に心腔内エコーが有用であった.開窓閉鎖部位の心腔内エコー所見やNykanen™ RF wireによる穿通の確実性については,今後の症例の蓄積を要する.

引用文献References

1) Gorla SR, Jhingoeri NK, Chakraborty A, et al: Incidence and factors influencing the spontaneous closure of Fontan fenestration. Congenit Heart Dis 2018; 13: 776–781

2)中西敏雄:Fontan手術後のBaffle Fenestration. 日小循誌1997; 13: 661–662

3) Rychik J, Rome JJ, Jacobs ML: Late surgical fenestration for complications after the Fontan operation. Circulation 1997; 96: 33–36

4)安河内聰,里見元義,岩崎康,ほか:Cutting Balloonによる経皮的Gore-Tex Interatrial Baffle Fenestration. 日小循誌1997; 13: 654–660

5) Kreutzer J, Lock JE, Jonas RA, et al: Transcatheter fenestration dilation and/or creation in postoperative Fontan patients. Am J Cardiol 1997; 79: 228–232

6) Uhm JS, Kim NK, Yu HT, et al: A stepwise approach to conduit puncture for electrophysiological procedures in patients with Fontan circulation. Europace 2018; 20: 1043–1049

7) Rupp S, Schieke C, Kerst G, et al: Creation of a transcatheter fenestration in children with failure of Fontan circulation: Focus on extracardiac conduit connection. Catheter Cardiovasc Interv 2015; 86: 1189–1194

8) Pearl JM, Laks H, Barthell S, et al: Spontaneous closure of fenestrations in an interatrial Gore-Tex patch: application to the Fontan procedure. Ann Thorac Surg 1994; 57: 611–614

9) Sughimoto K, Asakura Y, Brizard CP, et al: Impact of the location of the fenestration on Fontan circulation haemodynamics: a three-dimensional, computational model study. Cardiol Young 2017; 27: 1289–1294

10) Sharma SP, Nalamasu R, Gopinathannair R, et al: Transseptal puncture: Devices, techniques, and considerations for specific interventions. Curr Cardiol Rep 2019; 21: 52

11) Vyas H, Driscoll DJ, Cabalka AK, et al: Results of transcatheter Fontan fenestration to treat protein losing enteropathy. Catheter Cardiovasc Interv 2007; 69: 584–589

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