Journal of JCIC

Online edition: ISSN 2432–2342
JCIC学会事務局 JCIC学会事務局
〒162-0801東京都新宿区山吹町358-5アカデミーセンター Academy Center, 358-5 Yamabuki-cho, Shinju-ku, Tokyo 162-0801, Japan
Journal of JCIC 5(1): 9-13 (2020)
doi:10.20599/jjcic.5.9

症例報告症例報告

血管内に迷入した皮下植込み型中心静脈カテーテルに対する経皮的回収術Percutaneous removal of migrated implantable central venous catheter

1国立成育医療研究センター循環器科National Center for Child Health and Development, Department of Cardiology

2国立成育医療研究センター外科National Center for Child Health and Development, Department of Surgery

受付日:2020年6月2日Received: June 2, 2020
受理日:2020年8月18日Accepted: August 18, 2020
発行日:2020年9月30日Published: September 30, 2020
HTMLPDFEPUB3

皮下植込み型ポートはポート部とカテーテルが離断しそのカテーテルが血管内に迷入し,経皮的回収を要することがある.今回は経皮的に回収した2例を報告し,同様の素材・サイズのカテーテルの回収手技を体外で行った.〈症例1〉 8歳男児.血友病Aのため4年前に留置した6.6 Fr中心静脈ポートと中心静脈カテーテルが離断し,カテーテルが肺動脈に迷入していた.スネアカテーテルを用い肺動脈内で先端を把持し,10Frシース内に引き込み回収した.〈症例2〉 5歳女児.神経芽腫のため1年前に留置した6.6 Fr中心静脈ポートと中心静脈カテーテルが離断し,カテーテルが鎖骨下静脈から右房内に迷入していた.右鎖骨下静脈内の端を把持しようとしたが把持できず,5Fr pigtailカテーテルで下大静脈に移動させた後に10Frシース内に回収した.〈体外での手技〉 11 Frシースでは抵抗なく回収可能であった.9Fr, 8 Frでは抵抗があるものの回収可能であったが7 Frでは回収出来なかった.

An implantable central venous catheter is widely used for long-term central venous access. Serious complications include spontaneous fracture and migration of the implanted port catheter, which necessitates intervention. ‹case 1› A 8-year-old boy with hemophilia A, who had undergone placement of a 6.6 Fr implantable central venous catheter 4 years before, complained swelling in his right chest during intravenous injection via the port. A chest X-ray showed the migration of the fractured catheter in the pulmonary artery. The fractured catheter was captured at its end in the left pulmonary artery using a snare catheter and retrieved inside a 10 Fr sheath introducer via a percutaneous transfemoral approach without any complications. ‹case 2› A 5-year-old girl with neuroblastoma underwent placement of an implantable a 6.6 Fr central venous catheter 1 year before. A chest X-ray and echocardiography showed the fractured catheter migrated into the right atrium from the right subclavian vein. The end of the fractured catheter in the right subclavian vein was unable to be captured. The fractured catheter was pushed into the inferior vena cava using a 5 Fr pigtail catheter, and retrieved inside a 10 Fr sheath introducer without any complications. ‹Extra corporeal trial› A 6.6 Fr central venous catheter could be easily retrieved inside an 11Fr sheath introducer. It was also possible to retrieve into a 9 Fr and an 8 Fr sheaths, although with more frictional resistance. The catheter was unable to be retrieved into a 7Fr sheath.

Key words: foreign body removal; Implantable Central Venous catheter; Catheter complication; Sheath introducer size

背景

長期間の化学療法を必要とする悪性腫瘍例や長期に渡る消化管機能障害例,特に小児では血管確保が困難であることや苦痛が大きいことから皮下植込み型ポートが広く使用されている.その重大な合併症として,皮下に植込まれた中心静脈ポート(CVポート)とそれに接続された中心静脈カテーテル(CVカテーテル)の離断がある.発生頻度は0.3–2.9%で,放置した場合に60–71%1)に不整脈や血栓,組織損傷といった重篤な有害事象を起こし,38%が死亡する2)と報告されており,特に血管内に異物が発生した場合には可及的速やかに除去を必要とする.成人での経皮的回収術の報告は散見されるが3, 4)小児での報告は少ない5, 6).今回は2例の回収術の経験と,体外での回収手技の実験結果を報告する.なお,本研究は国立成育医療センター倫理委員会の承認(倫理委員会承認番号:2020-036号)を得た.

症例1

症例

8歳男児.

現病歴

血友病Aと診断され,4歳時に左鎖骨下静脈に皮下植込み型ポート(BARD® MRIポート(C.R. Bard Inc., New Jersey)6.6 Fr,外径2.2 mm)を留置した.定期外来で薬剤を投与したところ,周囲が腫脹し疼痛を認めた.ポートの破損が疑われ1ヶ月後にポート抜去目的に入院となった.術前検査目的に撮影した胸部単純レントゲンでCVカテーテルがCVポートと離断し肺動脈内に迷入していたため当科に相談された.離断から長期経過し血栓形成も憂慮されたが,最も低侵襲に回収できる方法として,経皮的な回収を試みる方針となった(Fig. 1-A).

Journal of JCIC 5(1): 9-13 (2020)

Fig. 1 (A) A chest X-ray showed a fractured catheter (arrows) in the pulmonary artery. (B) The snare catheter (open arrowheads) was advanced to the end of the fractured catheter in the left pulmonary artery. (C) The fractured catheter captured with a pullback technique of the loop snare in the right atrium. (D) The whole system was then retrieved inside the 10Fr sheath introducer (arrowheads)

入院時現症

身長127 cm,体重23 kg.心雑音なし.

回収手技

当初,CVカテーテルを折れ曲がった状態で回収するために必要なシースイントロデューサーのサイズが不明であったことから,外径2.2 mmのCVカテーテルに対して,ほぼ倍の内径4.3 mmのメディキットカテーテルイントロデューサー13 Fr 11 cmシース(メディキット株式会社,東京)を右大腿静脈に留置した.同シースから内径3.3 mmの10 Fr 60 cmロングシース(メディキット株式会社,東京)を主肺動脈に留置し,6 Frウェッジプレッシャーカテーテル(ガデリウス・メディカル株式会社,東京)を左肺動脈まで進め(Fig. 1-B),スネアカテーテルを用いてCVカテーテルの断端を把持し,可能であればそのまま10Frロングシース内,できなければ,13 Frシース内に回収する方針とした.しかし10 Frロングシースが体形に比し短く主肺動脈まで進めることができなかったため下大静脈に留置した.CVカテーテルがシリコーン素材であり,心室内を移動させる際に弁などの組織を損傷する可能性は低いと判断し,左肺動脈末梢で,6FrウェッジプレッシャーカテーテルをデリバリーカテーテルとしてGOOSE NECK SK4004 mmループスネアカテーテル(日本メドトロニック株式会社,東京)を用いてCVカテーテル末端を把持し,慎重に心内を移動させ10 Frロングシース内に抵抗なく回収できた(Fig. 1-C, Fig. 1-D).手技終了後,外科的にCVポートを抜去した.特に有害事象はなく終了とした.

症例2

症例

5歳女児.

現病歴

3歳発症の後縦隔神経芽腫に対して,右鎖骨下静脈に皮下植込み型ポート(BARD® MRIポート6.6 Fr,外径2.2 mm)を留置した.外来で逆血採血が出来ず,薬剤投与したところ周囲の腫脹と疼痛が出現した.CVポートの破損が疑われ1ヶ月後に皮下植込み型ポート抜去目的に入院となった.入院時の胸部単純X線でCVカテーテルが離断し右鎖骨下静脈から右房に迷入していた(Fig. 2-A)ため当科相談され,症例1と同様に経皮的に回収する方針となった.

Journal of JCIC 5(1): 9-13 (2020)

Fig. 2 (A) A chest X-ray showed fractured catheter (arrows) in the right subclavian vein and the right atrium. (B) The pigtail catheter (open arrowheads) trapped the mid-shaft segment of the intravascular foreign body. (C) The intravascular foreign body was captured with pigtail catheter. (D) The whole system was then retrieved inside the 10Fr sheath introducer (arrowheads)

入院時現症

身長101 cm,体重15 kg.

回収手技

症例1の経験から右大腿静脈にBrite tip 10 Fr 23 cmシース(カーディナルヘルスジャパン合同会社,東京)を留置し,そこからCVカテーテルの右鎖骨下静脈側の断端をスネアカテーテルで把持し回収する予定であったが,CVカテーテルの右鎖骨下静脈側の断端に0.035 inchラジフォーカスガイドワイヤー(テルモ株式会社,東京)も到達できなかった.右房側の断端をスネアで把持することは困難であると考え,5 Frピッグテールカテーテル(フォルテグロウメディカル株式会社,栃木)を用いて,CVカテーテルの中腹にピッグテールカテーテルを絡ませた状態で下大静脈内に移動させた(Fig. 2-B, 2-C).シリコーンカテーテルの材質から,そのまま大腿静脈に移動させても血管の損傷はないと判断し,大腿静脈までCVカテーテルを移動させ,10Frシースから出したONE Snare ONE 1000 10 mmループスネアカテーテル(メリットメディカル・ジャパン株式会社,東京)でCVカテーテル断端を把持し10 Frシース内に抵抗なく回収した(Fig. 2-D).手技終了後,外科的にCVポートを抜去した.特に有害事象はなく終了とした.

体外での手技

11Fr, 9Fr, 8Fr, 7Frそれぞれのカテーテルイントロデューサー(メディキット株式会社,東京)と,皮下植込み型ポートに付属するものと同様のCVカテーテル,およびONE SNARE ONE1000 10 mmループスネアカテーテル(メリットメディカル株式会社,東京)を用いた.CVカテーテルの末端をスネアカテーテルで把持し,CVカテーテルの末端が二つ折りになる状態でシースの内に回収できるか評価した.11 Frシース(内径3.7 mm, CVカテーテルの1.7倍)では抵抗なく回収可能であった(Fig. 3-A).9Frシース(内径3 mm, CVカテーテルの1.4倍)では軽度の抵抗があるが回収は可能であった(Fig. 3-B).8Frシース(内径2.6 mm, CVカテーテルの1.2倍)では回収時に強い抵抗があるも回収に成功した(Fig. 3-C).7Frシース(内径2.3 mm, CVカテーテルの1.1倍)では回収は不可能であった(Fig. 3-D).

Journal of JCIC 5(1): 9-13 (2020)

Fig. 3 (A) The 6.6 Fr catheter could be easily retrieved inside the 11Fr sheath introducer. (B) The catheter could be retrieved inside the 9 Fr sheath introducer. (C) The catheter could be retrieved inside the 8 Fr sheath introducer, felted resistance. (D) The catheter couldn’t be retrieved inside the 7 Fr sheath introducer

考察

今回,皮下植込み型ポートの破損により血管内に迷入したCVカテーテルを安全に回収することができ,体外での回収手技では,その離断した6.6FrのCVカテーテルは,11Frシースでは抵抗なく,8Frのシースでは抵抗があるものの回収可能であった.

皮下植込み型ポートが普及し,その有害事象として,CVカテーテルが血管内に迷入する事象が報告されるようになった.以前は鎖骨と第一肋骨に挟まれたCVカテーテルが摩耗することでCVカテーテル自体が破損するピンチオフ症候群が原因の主流と報告されていたが,使用カテーテルが改良され,挿入方法が工夫されたため,その頻度は減り,現在はCVポートとCVカテーテルの接続部での離断が多く見られるようになっている.その機序としては,CVポートとCVカテーテルの接続時に,CVカテーテルをCVポートのステムにまっすぐに押し込まれなかったために接続が不十分であったことが考えられる7)

CVカテーテルの回収には経皮的回収術と開胸による外科的回収術があるが成人の報告では経皮的回収術の成功率は71–100%と高いため3, 4),経皮的に回収できなかった場合や,癒着や穿孔などで回収による危険が高い場合のみに外科的回収術が行われる1)

CVカテーテルの回収の原則は,その断端をスネアカテーテルなどを用いて把持することである8).肺動脈などの大血管で,把持可能な断端いわゆる自由端がある場合には,回収は可能だが,症例2のように小児の鎖骨下静脈や肝静脈などの細い血管に断端があり,自由端が存在しない場合はCVカテーテルを把持できないため,成功率を下げる要因となる.自由端がない場合には,ピッグテールカテーテルなどを用いてCVカテーテルを絡ませて移動させることで自由端を形成させる方法が1984年以降,小児も含めて数例報告されている5, 9)

Rossi UGらは,CVカテーテルはシースイントロデューサー内に回収する際に2つ折りにされることが想定されるため,基本的にはCVカテーテルの2倍の内径をもったシースを使用すべきであると提言しているが10),今回のCVカテーテルはシリコーン素材で軟らかく10Frシース(内径3.3 mm, CVカテーテル外径の1.5倍)でも抵抗なく回収可能であった.

体外での回収実験では,11Frシースでは回収時に抵抗はなかったが,内径が小さくなるにつれて抵抗が強くなり,8Fr(1.2倍)では強い抵抗を感じ,7Fr(1.1倍)では回収不可能であった.今回のシリコーン製のCVカテーテルでは,9Fr(1.4倍)より細いシースでは回収時に抵抗を感じたため,10Fr(1.5倍)以上のシースを用いて回収することが望ましい.なお,回収実験では10Frシースを準備できず再現が行えなかったが,経験した2症例から抵抗なく回収可能と推測出来る.異物回収の際にはできるだけ太いシースを用いて施行することが基本であるが,体格の小さな小児では,その使用サイズに制限があることが多いため,今回の報告は,今後同様の事象に対処する際の目安となる.

今回は使用頻度が増え,その合併症として認識されつつあるCVポートの破損により迷入したCVカテーテルの回収に成功した.シリコーンという柔らかい素材のカテーテルは1.5倍程度の内径をもつシースを用いれば,経皮的に回収できる可能性が高いことを実証した.しかし,症例ごとに迷入している場所,カテーテル素材も異なり,さらに後日施行した回収手技は,体外で施行した手技であるため,実際の回収時には,その症例,場面に応じたシースの選択が必要である.

この論文の要旨の一部は,第31回日本Pediatric Interventional Cardiology学会学術集会(2020年1月.沖縄)において発表した.

引用文献References

1) Ayx I, Goessmann H, Hubauer H, et al: Interventional Removal of Intravascular Medical Devices: Methods and Technical Success. RoFo Fortschr Geb Rontgenstr Nuklearmed 2016; 188: 566–573

2) Schechter MA, O’Brien PJ, Cox MW: Retrieval of iatrogenic intravascular foreign bodies. J Vasc Surg 2013; 57: 276–281

3) Egglin TK, Dickey KW, Rosenblatt M, et al: Retrieval of intravascular foreign bodies: experience in 32 cases. AJR Am J Roentgenol 1995; 164: 1259–1264

4) Ghaderian M, Sabri MR, Ahmadi AR: Percutaneous retrieval of an intracardiac central venous port fragment using snare with triple loops. J Res Med Sci 2015; 20: 97–99

5) Mousa AY, Gill G, Aburahma AF: New trick for removal of intravascular retained foreign body: a case report and review of literature. Vasc Endovascular Surg 2014; 48: 55–57

6) Gabelmann A, Kramer S, Gorich J: Percutaneous retrieval of lost or misplaced intravascular objects. AJR Am J Roentgenol 2001; 176: 1509–1513

7) 高橋賢一,舟山裕士,生澤史江ら:点滴の滴下不良を契機に診断された,皮下植込型中心静脈ポート接続部におけるカテーテル断裂の1例.外科と代謝・栄養47(1): 9–13, 2013

8) 岩田美郎,川田秀一ら:血管内異物除去術.臨床画像24(10): 1272–1279, 2008

9) Auge JM, Oriol A, Serra C, et al: The use of pigtail catheters for retrieval of foreign bodies from the cardiovascular system. Cathet Cardiovasc Diagn 1984; 10: 625–628

10) Rossi UG, Rollandi GA, Ierardi AM, et al: Materials and techniques for percutaneous retrieval of intravascular foreign bodies. J Vasc Access 2019; 20: 87–94

This page was created on 2020-08-28T10:20:31.28+09:00
This page was last modified on 2020-09-25T14:29:38.000+09:00


このサイトは(株)国際文献社によって運用されています。