Journal of JCIC

Online edition: ISSN 2432–2342
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Journal of JCIC 5(2): 30-33 (2021)
doi:10.20599/jjcic.5.30

ポスター優秀演題ポスター優秀演題

大動脈スイッチ術後の高度左肺動脈狭窄に大口径自己拡張型ステントが有用であった1例The Usefulness of Large Caliber Self-Expandable Stents for Severe Left Pulmonary Stenosis After the Arterial Switch Operation

1埼玉医科大学国際医療センター 小児心臓科Department of Pediatric Cardiology, Saitama Medical University ◇ Saitama, Japan

2慶應義塾大学医学部 小児科Department of Pediatrics, Keio University School of Medicine ◇ Tokyo, Japan

受付日:2021年7月26日Received: July 26, 2021
受理日:2021年1月18日Accepted: January 18, 2021
発行日:2021年3月25日Published: March 25, 2021
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完全大血管転位症(Transposition of the Great Arteries; TGA)におけるLeCompte手技を用いた大動脈スイッチ術後の左肺動脈分岐部狭窄は,最も遭遇する術後合併症の1つである.従来このような肺動脈分岐部狭窄に対するステント留置術にはバルン拡張型ステントが用いられてきたが,その有用性が認められる一方で,背側に位置する大動脈により伸展されかつ彎曲した狭窄病変に対する直線形のステント留置であるため,留置後の大動脈への圧迫やerosionによる弊害が懸念されていた.近年,このような病変に対する大口径の自己拡張型ステントの有効性が報告されており,今回我々も修正大血管転位症のダブルスイッチ術に伴う同様の病変に適応し良好な結果が得られた.従来のバルン拡張型ステントに比し,有効かつ安全であると考えられた.

Pulmonary artery branch stenosis, especially in left pulmonary artery stenosis, is a common complication after arterial switch operation with LeCompte maneuver in TGA patients. Straight balloon expandable stent implantation distorts the anatomical arrangement of the LeCompte and is associated with negative interactions with the aortic root. In a recent day, the efficacy of flexible self-expandable stents has been reported to improve the physiological flow distributions to each lung, decreasing the risk of erosion, and perforation or fistula formation related to the pulmonary artery stenting. Here in this report, we adapted this technique to congenitally corrected TGA patient after double switch operation. This technique provides potential safety advantages over the use of more traditional balloon expandable stents.

Key words: Pulmonary stenosis; arterial switch operation; self-expandable stent; LeCompte maneuver; pulmonary stenting

はじめに

動脈スイッチ術の成功により,小児心臓外科には様々な変化や進歩が生まれ,その後多くの技術の向上に伴いさらにその成績は向上した1).現在,完全大血管転位症に対する大動脈スイッチ術は,LeCompte手技を用いた方法が主流であり良好な成績をおさめているが,一方で術後の肺動脈分岐部(特に左側の)狭窄は4–28%と高率に認められる合併症であり2, 3),時にその治療方法に悩まされる.その理由は,LeCompte手技により前方に引き出した肺動脈を後方から大動脈が圧迫し4),大動脈にまとわりつくような格好となった肺動脈狭窄の解除に難渋する症例が存在するからである.さらに,新主肺動脈がより右側に位置すること,また大動脈基部の拡大が認められる症例では,そのリスクを更に増加させる3).このような病変は手術瘢痕がなく,elastic recoil(血管自体の弾性により再狭窄となる)によりバルン拡張術のみでは改善が得られにくく,ステント留置の有効性が報告されている5).しかしながら,背側に位置する大動脈により伸展され,かつ彎曲した狭窄病変に対する直線形のバルン拡張型ステントの留置であるため,留置後の大動脈への圧迫やerosionによる大動脈–肺動脈瘻といった重大な合併症の報告が散見される2, 6, 7).2018年のMorgan GJらの報告8)では,このような病変に対する大口径の自己拡張型ステントの有効性が示された.今回我々は修正大血管転位症のダブルスイッチ術に伴う同様の病変に適応し,良好な結果を得たので報告する.

症例

症例は16歳の女児で身長160 cm,体重45 kg.胎児期に修正大血管転位症,心室中隔欠損症,肺動脈狭窄症と診断され,チアノーゼが進行した12歳時に前医にてダブルスイッチ手術(Senning+Nikaidoh:肺動脈は導管をtrunkに使用したLeCompte手技)及び完全房室ブロックに対するペースメーカー留置術が実施された.術後の高度左肺動脈分岐部狭窄に対し,当院で14歳時にCONQUEST 12 mm(メディコン,大阪,日本)によるバルン拡張を行ったが効果は限定的だった.15歳時,心房内バッフルリーク,僧帽弁逆流,右室–肺動脈人工導管狭窄に対して修正手術を行った際に左肺動脈形成術を施行したが,高度狭窄が残存した(Fig. 1).術後4ヵ月時,再度CONQUEST 12 mmバルンを用いて拡張したところ,最狭部が4 mmから9 mmに拡張された.2ヵ月後に行ったCT及び血管造影検査で再び高度な左肺動脈狭窄が認められ(Fig. 2,上段),ステント治療の適応と判断した.肺血流シンチグラフィーでも著明な左右差が認められた(右肺:左肺=83 : 17).限局的ではない,一様に彎曲した狭窄病変であるため,直線的で硬いバルン拡張型ステントではこの解剖学的な形態に不適当であると判断し,より生理的な形態の改善を得るため,屈曲した病変に使用される柔軟な自己拡張型ステントを留置する方針とした.Off-label useとなるため,院内の新規医療技術導入審査委員会で承認を得た後,本人及び家族に十分なインフォームドコンセントを行い了承された.16歳時,全身麻酔下にステント留置術を行った.Amplatz Superstiffガイドワイヤー(0.035 inch/260 cm)を左肺動脈末梢に留置した.8 Frロングシースをダイレーターとともに進め,左肺動脈狭窄部を通過させた.ダイレーターを抜去後,E-Luminexx Vascular stent(C.R.Bard社テンペ,米国,Fig. 3)14 mm×40 mmを先端まで到達させ,シース造影にて位置を確認した.事前に模擬的に展開の様子やジャンピングを確認していたが,実際にステントの展開を開始したところ,アウターシースから出る際に想定より末梢側にジャンピングし,近位部の狭窄部の拡張不良となったため,追加で12 mm×40 mmステントをタンデムに留置した.Mustang 12 mm×20 mm(ボストンサイエンティフィック,マールボロ,米国)バルンを用いて末梢より後拡張を行った.拡張圧は14気圧で,直ちにデフレートした.ステント留置前の左肺動脈圧は11/7/(9)  mmHg,主肺動脈圧は19/7/(12)mmHgで,術後は圧較差が消失した.有害事象なく留置に成功した.最狭部は4 mmから9 mmへと形態的に改善し(Fig. 2,下段),肺血流シンチグラフィーでも右肺:左肺=70 : 30と改善を認め,本人の息切れの自覚症状も消失した.ステント留置後2年で経過は良好である.

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Fig. 1 3D Computed tomography of the severe left pulmonary artery stenosis after the arterial switch operation. Left pulmonary artery is stretched by posterior aortic root

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Fig. 2 Images before and after self-expandable stent implantation. Flexible self-expandable stent in the left pulmonary artery lays without aortic root compression and keeps the curvature around aorta

a) Left sided anatomically RV angiography, frontal view. b) Left PA angiography, lateral view. c) Cross section of CT scan.

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Fig. 3 E-Luminexx Vascular stent, a Nitinol flexible self-expandable stent

考察

Morgan GJらの報告では,LeCompte手技を行った大血管転位症術後の肺動脈狭窄に対して,柔軟性のある自己拡張型ステントを用いることで,より理想的で生理的な大血管形態を構築し,楕円形の内腔を維持したまま,拍動する大動脈に“優しく”接することが可能であるとしている.今回我々が使用したE-Luminexx Vascular stentは,本邦では成人領域で腸骨動脈の蛇行した血管の狭窄解除に使用される,柔軟性のある自己拡張型ステントである.本症例でもステント留置後に大動脈のカーブに沿ったまま左肺動脈内腔を維持することに成功し,自己拡張型ステントによる拡張は有効であった.後方視的に,①事前の大動脈造影時に行う肺動脈拡張に使用するバルンに何を用いるか,②ステントサイズ選択,③後拡張の是非,について検討した.

①今回我々の症例は,外科的な形成術が行われた後の手術瘢痕を含む病変と考えたため,ノンコンプライアントバルンで狭窄血管の拡張を行い,改善に乏しければステント留置を行う計画としていた.Morgan GJらに倣ってバルン拡張と同時に大動脈造影を行った(Fig. 4)が,バルン拡張のみである程度の拡張が得られたため,ステント留置は一旦見送った.この造影では,冠動脈には干渉しないことは確認できたが,当然ながら硬いバルンによる大動脈の圧迫が認められた.ステント留置を前提とし,かつ予め血管形成が行われていない瘢痕のない病変であれば,Morgan GJらが行ったようにコンプライアントバルンを用いて肺動脈を拡張したほうが,狭窄血管の柔軟性とステント留置後の大血管・冠動脈との位置関係を把握し易いと思われた.また,テスト拡張時にはstiff wireによる肺動脈の位置の変化に留意し,ステント留置およびワイヤー抜去後に冠動脈に干渉しないよう,十分に距離があることを予め確認する必要があると考えられた.

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Fig. 4 Aortogram during left pulmonary artery balloon dilation using non-compliant balloon. No interaction to coronary arteries but aortic root is compressed by stiff balloon

②ステントサイズの選択は,リファレンス径+1–2 mmのステントを選択した.添付文書によればタンデムに留置する追加ステントは先のものと同じ径のものが望まれるとあるが,1本目のステント径では肺動脈分岐直後の狭窄にはやや大きすぎた印象があり,血管径に合わせてサイズダウンした.狭窄内でのステントの重なりのため,2 mmの口径差自体は問題ないと考えられた.

③本症例ではステント留置後に病変部の内腔を少しでも拡張する目的でノンコンプライアントバルンを用いて後拡張を行い,結果的には良い形態となった.しかし,大動脈への干渉を出来るだけ少なく留置することがこの柔軟なステント治療の長所であることを考えると,後拡張を追加するかどうか慎重な検討が必要である.いずれにしても大動脈ー肺動脈瘻発生のリスクがあるため,今後も注意深い経過観察を要する.

最後に,本症例は{S,L,L}の修正大血管転位症のダブルスイッチ術後であり,特殊な解剖学的形態により手技が困難となることも予想されたが,無事に手技を完遂することが出来た.

結語

大動脈スイッチ術後の,後方大動脈により圧排される彎曲した肺動脈分岐部狭窄に対する柔軟な大口径自己拡張型ステントによる拡張は,より生理的な修復を可能とし,留置したステントによる大動脈基部への悪影響を少なくする有効な手技であると考えられた.

引用文献References

1)麻生俊英:大血管転位の外科治療—動脈スイッチ術を中心に—小児循環器学会教育セミナー「若手医師のための勉強会」.小児循環器学会雑誌,2005; 21巻6号:639–644

2) Tzifa A, Papagiannis J, Qureshi S: Iatrogenic aortopulmonary window after balloon dilation of left pulmonary artery stenosis following arterial switch operation. J Invasive Cardiol 2013; 25: E188–E190

3) Morgan CT, Mertens L, Grotenhuis H, et al: Understanding the mechanism for branch pulmonary artery stenosis after the arterial switch operation for transposition of the great arteries. Eur Heart J Cardiovasc Imaging 2017; 18: 180–185

4)片岡功一:バルーン肺動脈弁形成術/バルーン肺動脈形成術.Journal of JPIC 2016; 1(2): 43–52

5) Formigari R, Santoro G, Guccione P, et al: Treatment of pulmonary artery stenosis after arterial switch operation: stent implantation vs. balloon angioplasty. Catheter Cardiovasc Interv 2000; 50: 207–211

6) Pagé M, Nastase O, Maes F, et al: Aortopulmonary fistula after multiple pulmonary artery stenting and dilatation for postarterial switch supravalvular stenosis. Case Rep Cardiol 2015; 2015: 371925

7) Vida VL, Biffanti R, Stellin G, et al: Iatrogenic aortopulmonary fistula occurring after fistula occurring after pulmonary artery balloon angioplasty: a word of caution. Pediatr Cardiol 2013; 34: 1267–1268

8) Morgan GJ, Pushparajah K, Narayan S, et al: Large Calibre Self-Expanding Stents for Pulmonary Stenosis After the Arterial Switch, a Low-Risk Solution to a Low-Flow Situation. Pediatr Cardiol 2018; 39: 824–828

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