Journal of JCIC

Online edition: ISSN 2432–2342
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Journal of JCIC 4(2): 39-42 (2019)
doi:10.20599/jjcic.4.39

症例報告症例報告

Embolic Protection Deviceの使用経験Blalock-Taussigシャント閉塞に対するカテーテル治療時の脳梗塞予防策としてEmbolic Protection Device for cerebral infarction protection: A 4-month old infant with tricuspid atresia who underwent balloon angioplasty for obstruction of Blalock-Taussig shunt

あいち小児保健医療総合センター循環器科Department of Pediatric Cardiology, Aichi Children’s Health and Medical Center

受付日:2020年1月7日Received: January 7, 2020
受理日:2020年1月20日Accepted: January 20, 2020
発行日:2020年3月31日Published: March 31, 2020
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左心系の心臓カテーテル治療を行う際には,血栓塞栓症による脳梗塞のリスクを伴う.今回,脳梗塞予防策としてembolic protection deviceを留置してBlalock-Taussig(B-T)シャント閉塞に対するカテーテル治療を行なった症例を経験した.症例は三尖弁閉鎖症(Ib)の4か月男児.1か月時に右B-Tシャント手術,3か月時に左B-Tシャント手術をそれぞれ施行した.左B-Tシャント術後24日目の造影CT検査で右B-Tシャントの閉塞が判明したため,カテーテル治療を行う方針とした.遊離血栓による脳梗塞予防策として,右総頚動脈から腕頭動脈の右総頚動脈-右鎖骨下動脈分岐部にembolic protection deviceを留置した上でカテーテル治療を行い,合併症なくB-Tシャント開存が得られた.血栓関連合併症を回避するため使用を検討すべき有用なツールであると考えた.

Left-sided cardiac catheter-intervention risks thrombotic cerebral infarction. We report a case of balloon angioplasty with an embolic protection device being used to address an obstructed modified Blalock-Taussig (B-T) shunt. A 4-month-old boy diagnosed with Tricuspid Atresia (Ib) underwent a right-side modified B-T shunt aged 1 month, and a left-side modified B-T shunt aged 3 months. At 24 postoperative days after the left-side modified B-T shunt, contrast-enhanced computed tomography showed complete obstruction of the right-side modified B-T shunt. Balloon angioplasty for the obstructed shunt was safely and successfully performed using an embolic protection device to prevent thrombotic cerebral infarction. Embolic protection devices are useful tools to prevent thrombus-related complications as well as pediatric catheter-intervention at risk of thrombosis.

Key words: cerebral infarction; thromboembolism; balloon angioplasty; synthetic graft obstruction; Blalock-Taussig shunt

はじめに

左心系の心臓カテーテル治療を行う際には,血栓塞栓症による脳梗塞のリスクを伴う.冠動脈インターベンションの脳梗塞発症頻度は0.3~0.6%と報告され,稀ではあるが重大な周術期合併症の一つである1)

脳外科領域では頸動脈ステント留置術施行の際,病変部末梢の塞栓予防のためembolic protection deviceが使用される.以前は頸動脈内膜剥離術の耐術困難例でのみ頸動脈ステント留置術が施行されていたが,embolic protection deviceなどの脳梗塞予防策の進歩によりカテーテル治療適応が拡大されてきた2)

今回,Blalock-Taussig(B-T)シャント閉塞に対するカテーテル治療の際,脳梗塞予防策としてembolic protection deviceを用いた症例を経験したので報告する.

症例提示

1. 症例

4か月男児.生後,チアノーゼを契機に三尖弁閉鎖症(Ib)と診断され,日齢5に心房中隔裂開術が行われた.1か月時に右B-Tシャント術(腕頭動脈-右肺動脈,PTFE 3.5 mm)が施行されたが,術後も低酸素血症により酸素吸入を要し,肺血管拡張薬も投与された.低酸素血症の精査として生後2か月(術後36日目)に施行した心臓カテーテル検査では肺体血流比1.0,平均肺動脈圧12 mmHg,肺血管抵抗1.56 Wood単位・m2,PA index 145 mm2/m2であった.肺血管床が乏しいことによる低肺血流量が低酸素血症の原因であると考えた.在宅酸素療法などで許容しうる程度の低酸素血症ではあったが,肺血流量を増やして肺血管床発育を促すことが望ましいと考え,生後3か月時に左B-Tシャント術(左総頸動脈-左肺動脈,PTFE 3.5 mm)が追加された.しかし両側シャントにもかかわらず低酸素血症の改善は不十分で,左B-Tシャント術後24日目の造影CT検査で右側シャント血管の閉塞が判明した.この時点で生後4か月,体重6.7 kgであり,両方向性Glenn手術を行うことも検討したが,前述のごとく将来の良好なFontan循環獲得のために肺血流量を増やして肺血管床発育を促す方針とし,閉塞した右B-Tシャントの再開通を試みるため心臓カテーテル検査,治療を計画した.

2. 事前計画

造影CT所見から,右B-Tシャント血管は完全閉塞していると考えられた(Fig. 1).正確な閉塞時期,閉塞機転は不明であるが,左B-Tシャント術後に形成された血栓性閉塞であろうと推察した.

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Fig. 1 Contrast-enhanced computed tomography shows complete obstruction of right-side modified B-T shunt

腕頭動脈に吻合した右B-Tシャント血管近位部にカテーテルを留置し,1)ガイドワイヤーが閉塞したシャント血管内を通過する場合にはそのままバルーン血管形成術を行う,2)ガイドワイヤーが通過しない場合には手元のハンドル操作で先端屈曲可能なデフレクティングガイドワイヤーを用いて機械的に血栓塞栓の穿通を狙う方針とした.しかしカテーテルやガイドワイヤーの操作,特に後者の方法での操作に伴い,閉塞したシャント血管内から血栓が遊離し脳梗塞を来しうることが懸念された(Fig. 2).そこで,embolic protection deviceを用いて脳梗塞予防策を講じて,カテーテル治療に臨むこととした.

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Fig. 2 Cerebral infarction caused by a thrombus associated with catheter procedure in the right-side modified B-T shunt was concerned. RCCA, right common carotid artery; BCA, brachiocephalic artery; RSCA, right subclavian artery; mBTS, modified Blalock-Taussig shunt; RPA, right pulmonary artery; MPA, main pulmonary artery

3. 右Blalock-Taussigシャント閉塞に対するカテーテル治療

右大腿動脈に造影および治療用として3Frシースを,左大腿動脈にembolic protection device用として4Frシースを留置した.腕頭動脈造影で右B-Tシャントの閉塞を確認した(Fig. 3a).腕頭動脈の右総頚動脈-右鎖骨下動脈分岐部径5.5 mm,右総頚動脈起始部径3.1 mmであった.embolic protection deviceとして血栓捕捉カテーテル,フィルトラップ®II 6.5 mm(ニプロ株式会社,大阪,Fig. 4)を右総頚動脈から腕頭動脈の右総頚動脈-右鎖骨下動脈分岐部に留置した(Fig. 3b, 3c).右総頚動脈のみならず右鎖骨下動脈にもフィルターが掛かるよう微調整し,万が一生じた虚血を最小限に抑えられるよう留意した.

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Fig. 3 (a) B-T shunt-angiography. Right-side modified B-T shunt was almost completely obstructed. (b), (c) Embolic protection device was carefully placed in the brachiocephalic artery toward the right common carotid artery, which the right subclavian artery was also covered with. EPD, embolic protection device; RCCA, right common carotid artery; RSCA, right subclavian artery

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Fig. 4 FiltrapII. The filter can capture thrombus without interfering blood flow. A pore size is 100 µm

腕頭動脈に留置した3Fr右ジャドキンスカテーテル(JR2.0)から閉塞したシャント血管へ向け,0.025inchガイドワイヤー(ラジフォーカス®ガイドワイヤー;テルモ株式会社,東京)挿入を試みると,容易にシャント血管を通過し肺動脈内まで進めることが可能であった.JR2.0先端を右B-Tシャント血管近位部に留置し,ガイドワイヤーを0.014inch(Aguru™; Boston Scientific; Marlborough, MA)に入れ替え,冠動脈拡張用バルーンカテーテル(Hiryu®·Plus 3.5 mm×15 mm;テルモ株式会社,東京)で右B-Tシャント全体が拡張されるようバルーン拡張を行なった(計9回).その後の選択造影で右B-Tシャントの再開通を確認したが,近位部で軽度狭窄を認めた.デフレクティングガイドワイヤーで狭窄部近傍を掻把し,機械的な血栓除去を図った.最後に腕頭動脈造影を行い,右B-Tシャントの十分な開存が得られたことを確認して治療を終了した.回収したフィルトラップ®IIのフィルター部位に血栓付着はなかった(Fig. 5).

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Fig. 5 After balloon angioplasty, there was no thrombus in the filter

考察

B-Tシャント閉塞に対して,カテーテル治療により23例中22例(96%)で有意な再開通が得られたとの報告がある3).特に,本症例のように肺血流の供給源が他にあり酸素化維持が可能な症例では,安全かつ有用な治療法と考えられる.しかし左心系の心臓カテーテル治療を行う際には,血栓塞栓症による脳梗塞発症のリスクを伴う.冠動脈インターベンションの脳梗塞頻度は0.3~0.6%と報告されている1).本症例においてもB-Tシャント内でのガイドワイヤーやカテーテル操作により,血栓の一部が剥離し頭部血管へ向かう可能性があり脳梗塞発症のリスクがあるため,何らかの予防策が必要であると考えた.

脳外科領域では頸動脈ステント留置術施行の際,病変部末梢の塞栓予防のためembolic protection deviceが使用される.治療手技に伴うアテロームの破裂とその飛散により,時に重篤な脳梗塞を生じうるためである.以前は頸動脈内膜剥離術の耐術困難例でのみ頸動脈ステント留置術が施行されていたが,これらの脳梗塞予防策の進歩によりカテーテル治療適応が拡大されてきた経緯がある2).embolic protection device使用のリスクは,内頚動脈の高度狭窄例や高度屈曲例,病変部に可動性プラークを有する症例において,deviceが病変を通過する際のイベント誘発である2).しかし動脈硬化性病変がほとんどない小児では,成人より安全にembolic protection deviceを使用できるものと考えられる.

本症例ではembolic protection deviceとしてフィルトラップ®II 6.5 mm(ニプロ株式会社,大阪)を使用した.頸動脈ステント留置術時のみならず,頸動脈以外の血管での浮遊血栓や血塊等の血管内異物の捕捉・除去にも使用適応があり,冠動脈や下肢動脈に対する経皮的血管形成術での末梢塞栓予防に使用された報告もある4, 5).フィルターの最大拡張径は3.5 mm, 5.0 mm, 6.5 mm, 8.0 mmが選択可能で,いずれも4Frシース対応である.フィルター部分にはϕ100 μmの小孔が設けられ,血流を遮断することなく血栓を捕捉できるよう設計されている(Fig. 4).本症例では最大血管径5.5 mmに対し,最大拡張径6.5 mmのフィルターを使用し,deviceの留置,回収ともに問題なく施行可能であった.実際に回収したdeviceのフィルター部分に血栓付着はみられなかったが,これは遊離した血栓を捕捉できなかったのではなく,B-Tシャントが実際には完全閉塞ではなく,ごくわずかながらも腕頭動脈から肺動脈への血流が残っており,血栓が少なくとも腕頭動脈側へは遊離しなかったためと考えられる.結果的に本症例では,embolic protection deviceなしでもB-Tシャントへのカテーテル治療を合併症なく行うことができたかもしれない.しかし遊離血栓による脳梗塞が懸念される左心系のカテーテル治療において,その予防策としてembolic protection deviceの使用を検討することは合併症回避のためには重要であろう.

結語

B-Tシャント閉塞に対するカテーテル治療の際,遊離血栓による脳梗塞予防策としてembolic protection deviceを使用した.乳児においても安全に手技を行うことができ,血栓関連合併症を回避するため使用を検討すべき有用なツールであると考えられる.

本論文の論旨は第127回東海小児循環器談話会(2019年4月,名古屋)において発表した.

引用文献References

1) 中西敏雄(班長):先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン.循環器病ガイドシリーズ2014年版.日本循環器学会,2014, p14

2) 秋山恭彦,宮嵜健史,萩原伸哉,ほか:頸動脈狭窄症に対する血管内治療 今日までの治療経験の集積と次世代に向けて.脳外誌2017; 26: 451–455

3) Moszura T, Zubrzycka M, Michalak KW, et al: Acute and late obstruction of a modified Blalock-Taussig shunt: a two-center experience in different catheter-based methods of treatment. Interact Cardiovasc Thorac Surg 2010; 10: 727–731

4) Grube E, Gerckens U, Yeung AC, et al: Prevention of distal embolization during coronary angioplasty in saphenous vein grafts and native vessels using porous filter protection. Circulation 2001; 104: 2436–2441

5) 木内信太郎,小山 豊,佐藤秀明,ほか:浅大腿動脈慢性完全閉塞に対する経皮的血管形成術中の血栓捕捉に対しFiltrapが有効であった1例Journal of cardiology 2007; 50: 329–333

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