Journal of JCIC

Online edition: ISSN 2432–2342
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Journal of JCIC 10(1): 8-13 (2025)
doi:10.20599/jjcic.10.8

症例報告症例報告

Impella®循環補助用心内留置型ポンプカテーテル(Impella® CP)と静動脈型体外式膜型人工肺により劇症型心筋炎の左室unloadingが著効した12歳男子例体格の小さい患者における管理上の注意点A 12-year-old male case of successful left ventricular unloading utilizing Impella CP® and veno-arterial extracorporeal membrane oxygenation due to fulminant myocarditisPrecautions for management in patients with small stature

1昭和医科大学病院小児循環器・成人先天性心疾患センターPediatric Heart Disease and Adult Congenital Heart Disease Center, SHOWA Medical University Hospital

2昭和医科大学病院循環器内科Department of Cardiology, SHOWA Medical University Hospital

受付日:2025年9月24日Received: September 24, 2025
受理日:2025年10月1日Accepted: October 1, 2025
発行日:2025年12月20日Published: December 20, 2025
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小児の急性左心不全管理にImpella®を用いた報告は少ない.今回,体表面積1.04 m2と過去の報告でも最小部類に入る12歳男子の劇症型心筋炎症例の補助循環にImpella® CPと静動脈型体外式膜型人工肺を併用し救命し得た.Impella® CP挿入の解剖学的要件は,1. アクセス血管径5.0 mm以上,2. 有効大動脈弓幅57 mm以上,3. 最小左室長85 mmである.本症例で血管径は十分だったが,動脈虚血回避目的に大腿動脈に吻合した2段階の太さ(6 mmと8 mmで8 mmが遠位)の人工血管を介しデバイスを挿入し,デバイス遠位は人工血管に残した.有効大動脈弓幅は心臓超音波検査で50 mm程度であり,推奨幅より小さかったためモータ部とカテーテルシャフトの接合部は鋭角に屈曲した.大動脈弓でのカテーテルシャフトの屈曲を防ぐ方策として腋窩動脈,鎖骨下動脈からのアプローチも検討の余地がある.本症例はImpella® CPの小体格小児への応用可能性とその為の工夫の重要性を示す貴重な知見である.

There are few experiences among children regarding utilization of Impella® for left ventricular unloading during acute left ventricular failure. In present case, we achieved survival in a 12-year-old male patient with body surface area of 1.04 m2—among the smallest reported to date—following fulminant myocarditis utilizing mechanical circulatory support in combination with Impella® CP and veno-arterial extracorporeal membrane oxygenation. Upon insertion of Impella® CP, one should consider minimum size requirements for 1. arterial diameter over 5.0 mm, 2. aortic arch width over 57 mm, and 3. Left ventricular length over 85 mm. Present case satisfied device access artery diameter, however, we chose to insert the device through a graft with two-stage diameter (6 mm and 8 mm, 8 mm was distal side) anastomosed to femoral artery and refrained inserting distal shaft into femoral artery but kept within the graft. The aortic arch width of approximately 50 mm by echocardiography resulted in device kink at the connecting part between motor and catheter shaft, in an acute angle. In preventing device kink, insertion of the device through either subclavian artery or brachial artery in more obtuse angle should be considered. We recognize present case showed important findings in applying Impella® CP with crucial devices for small stature children.

Key words: Impella®; mechanical circulatory support; left ventricular unloading; fulminant myocarditis; small stature

背景

小児における急性心原性ショックの初期の循環管理は,静動脈型体外式膜型人工肺(veno–arterial extracorporeal membrane oxygenation: V–A ECMO)を用いた管理にほぼ限定される.ECMOは組織の酸素化は改善するが,左室容量負荷の低減は十分とは言えず,左房圧の上昇により肺うっ血の増悪を来たしうる.心収縮力の改善に乏しい症例においては機械的補助循環の適応となるが,補助人工心臓は手術的植え込みの侵襲性が高いだけでなく,本邦では適応上の制約もあり,病初期には使用しない1).Impella®は(Abiomed, Danvers, MA, USA)は左室内に留置し,小型軸流ポンプで左室容量負荷の低減を実現し,成人では幅広く使用されている.初期に導入された,より小さい体格に使用できるImpella® 2.5は溶血の問題と,Impella® CPの開発により販売中止となった.現在上市されているImpella®シリーズはImpella® CPとImpella® 5.5のみであり,既報からはImpella® CPで1.2 m2,Impella® 5.5で1.6 m2程度の体表面積が最低でも必要となるため,小児での使用経験は少ない2)

症例

症例は12歳男子,身長136 cm,体重28.6 kg,体表面積1.04 m2.基礎疾患としてDandy–Walker症候群,右肺動脈上行大動脈起始,大動脈二尖弁,心室中隔欠損,心房中隔欠損があり,1か月時に右肺動脈絞扼術,6か月時に右肺動脈形成術,心室中隔欠損閉鎖術を実施された.術後,右肺動脈狭窄に対して1歳0か月時に右肺動脈形成術,上行大動脈延長術,右肺動脈バルーン拡張術,9歳時に右肺動脈ステント留置を行った.以降,肺動脈血流比は左右均等となり,右室圧も正常となったため,内服薬なしで1年に1回の通院フォローアップを行っていた.今回,当院入院4日前に発熱,嘔吐,入院前日に前医大学病院に急性胃腸炎,肝機能異常の診断で入院となった.入院当日に血清トロポニンT陽性,左心機能の低下による循環不全を認め,劇症型心筋炎の診断のため当院転院搬送となった.当院入院時の意識は清明で,バイタルサインは心拍140回/分,血圧90/71 mmHg,呼吸17回/分,SpO2 98%(室内気)だったが,中心静脈路確保時の中心静脈圧は22 mmHgと著明な上昇を認めた.聴診では呼吸音に異常はないが,心尖部で拡張期ランブル,胸骨左縁第2肋間で収縮中期雑音をLevine 2/6で認めた.下腿浮腫は認めないが,末梢冷感は認め,肝臓を肋骨弓下に2 cm触知した.

胸部X線検査では心胸郭比59.0%(Fig. 1a),肺うっ血像を認め,心電図では接合部調律,左側胸部誘導でのST低下,右側胸部誘導でのST上昇を認めた(Fig. 2).心臓超音波検査では左室拡張末期径39.9 mm(102% of normal),左室壁運動は特に中隔で低下し(左室駆出率:16.0%),中等度の僧帽弁閉鎖不全を認めた.右室もびまん性の壁運動低下があり,coaptationが著明に失われ,重度の三尖弁逆流を呈していた.血液検査ではAST 2074 U/L,ALT 2231 U/L,クレアチニン0.69 mg/dL(12歳男子基準値:0.45 mg/dL未満)3),CK 164 U/L,CK-MB 2.9 ng/mL(基準値:0.0~5.3 ng/mL),高感度トロポニンI 5881.4 pg/mL(基準値:0.0~34.1 pg/mL),CRP 3.6 mg/dL,NT-pro BNP 68355 pg/mL(基準値:0~125 pg/mL),Na 123.7 mEq/L,Lactate 2.4 mmol/L(基準値:0~2.0 mmol/L)と発症から24時間以上経過した心筋障害,循環不全を強く示唆する所見を認めた.劇症型心筋炎に対して補助循環が必要な状況と判断し,手術室で全身麻酔下に心臓血管外科医が右大腿動静脈を露出し,右大腿動脈に端側吻合で縫着した6 mm ePTFEグラフトを介して送血管(16Fr)を,大腿静脈には脱血管(18Fr)を直接挿入し,V–A ECMOを流量2.0 L/m2/分で開始した.その後,右肺動脈のステント留置時に左冠動脈が近く,肺動脈冠動脈同時造影で評価を行った経過から,右肺動脈ステントによる冠動脈圧排の可能性を除外するため,可動式X線透視装置を用いて冠動脈造影を行った.所見として,右肺動脈による左冠動脈への機械的干渉は認めなかった(Fig. 3a, b).V–A ECMO開始後に心臓超音波検査で再度心機能の評価を行ったところ,左心室の順行性駆出がほぼ認められず,大動脈弁の開口もみられなくなったため,Impella® CPによる左室容量負荷の低減が望ましい状況であると判断した.Impella® CPは左大腿動脈から挿入する方針とした.Impella® CP挿入用の14Frシースによる下肢虚血を予防するため,心臓血管外科医が左大腿動脈を露出し,まず6 mm ePTFEグラフトを端側吻合で逢着し,そのグラフト遠位を斜めに切断し,Impella® CPのシース挿入のために8 mm ePTFEグラフトとを,端々吻合を行い延長した.この8 mm ePTFEグラフトに挿入された14Frシースを通してImpella® CPを挿入した.グラフトは切離せず,Impella® CPのカテーテルシャフト部分は,血管内ではなくグラフト内に留置した(Fig. 1b).Impella® CP挿入時の透視では大動脈弓部でモータ部とカテーテルシャフトの接合部がやや屈曲した状態で挿入されたが,機能には問題はないと判断して,手技を継続した(Fig. 4a, b).Impella® CP留置直後は,デバイスのわずかな軸方向の回転のみで脱血不良を起こし,循環維持に難渋したが,ECMO流量2.0 L/m2/分,Impella®サポートレベルP2で平均血圧60 mmHg,中心静脈圧10–14 mmHgでの循環維持を確認し,集中治療室(intensive care unit: ICU)に帰室した.Impella®のサポートレベルはP1からP9までありP9が最も流量が多く,左室容量負荷の低減を目的する場合はP2程度で維持を行う.ICU帰室後,ECMOおよびImpella®安定稼働目的に活性化凝固時間(activated clotting time)>200秒を目標としたが,大腿からの出血により血管内容量が減少したためECMOの流量が不安定となり,心腔内は虚脱しImpella®サポートレベルもP1での管理が続いた.中心静脈圧や平均血圧を目安に適宜輸血や細胞外液による負荷で血管内容積を維持し,ECMOの流量は安定し,Impella®サポートレベルP2での管理を継続した.患者の心収縮は入院5日目頃より改善を認めたため,同日ECMOを離脱(Fig. 1c),Impella®サポートレベルP4に変更した.入院6日目にImpella®サポートレベルを再度P2に戻したが循環動態には変化なく,入院7日目に心臓カテーテル室でImpella® CPを抜去,離脱した(Fig. 1d).抜去時にも再度モータ部とカテーテルシャフトの接合部がやや屈曲し,動脈の損傷が懸念されたが,問題なく抜去できた.入院8日目に抜管,循環作動薬は漸減し,入院12日目に一般床転棟とした.経過中,肺うっ血は十分に回避され,スムーズなECMO,人工呼吸管理からの離脱が得られた.リハビリ,内服利尿剤等の抗心不全療法を調整し,入院27日目に中枢神経合併症を認めず,独歩で退院した.

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Fig. 1 Chest X-ray images. a. on admission (CTR 59.0%), b. soon after Impella® CP implantation (CTR 52.4%), c. on day 5, just before ECMO withdrawal (CTR 50.7%), d. on day 7, just before Impella® explantation (CTR 53.3%). CTR: Cardiothoracic ratio, ECMO: extracorporeal membrane oxygenation

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Fig. 2 ECG on admission. ST-segment depression was noted in the left precordial leads, whereas ST-segment elevation was evident in the right precordial leads. ECG: electrocardiogram

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Fig. 3 Left coronary artery angiogram. a. frontal image, b. lateral image. There was no evidence of mechanical compression of the left coronary artery by the right pulmonary artery

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Fig. 4 Cardiac fluoroscopy for Impella® CP implantation. a. frontal image, b. lateral image. Red arrows indicate slightly kinked configuration of the junction of the motor unit and the catheter shaft advanced through aortic arch

考察

Impella® CPは,2012年にアメリカ食品医薬品局(food and drug administration: FDA)の認可を取得した.2012年に成人劇症型心筋炎患者へECMOと組み合わせた治療(ECPellaまたはECMella)が最初に報告された4).本邦では2017年に保険適応となり,最初の症例は拡張型心筋症症例であった5).Ecpellaの心原性ショック,特に劇症型心筋炎への導入は2013年にCaforio ALらによるエキスパートコンセンサス6)にmechanical circulatory support (MCS)という言葉でみられ,2020年アメリカ心臓協会サイエンティフィックステートメント7)に記載がみられるほか,日本循環器学会ガイドライン8)ではIIaの推奨となっている.本症例でも,劇症型心筋炎による急性左心不全による循環不全に対して,ECMOに加えてImpella® CPによる左室容量負荷の低減を行ったことにより肺うっ血が回避された.小児へのImpella®の使用経験は2017年頃からまとまった報告がみられる9).2024年にはFDAがImpella® 5.5とImpella® CPを小児へ適応拡大したが,最低体重はImpella®5.5で52 kg以上,Impella®CPで30 kgと,大半の小児への使用は困難である10).2019年には体格が小さな小児へのImpella® 2.5使用について,健常児44例のImpella® 2.5が使用できる最小の体格の検討が行われ,デバイスを伸長した状態では体重23 kg,左室内で折り曲げた状態では15 kgが最低体重と推察された11).また年少の小児では大腿動脈が相対的に細いため,鎖骨下動脈や腋窩動脈からアプローチすることやゴアテックス,ヘマシールドなどでチムニーグラフトを立てることで太いシースの挿入を可能としながら血管閉塞を回避する工夫がなされている1, 12).Impella® CPを使用した小児例は,腋窩動脈経由で1.0 m2,大腿動脈経由で1.2 m2が最小体表面積と報告された2).本邦からのImpella® CPの11歳女児の報告では,体表面積1.32 m2で,胸部造影CTで左室長(93 mm)は添付文書上の最小左室長(85 mm)を上回り,右鎖骨下動脈径(6.3 mm),左大腿動脈径(6.2 mm)も添付文書上の最小血管径(5.0 mm)を上回っていたが,有効大動脈弓幅(54 mm)が添付文書上の有効大動脈弓幅(57 mm)に満たないことから右鎖骨下動脈アクセスが選択されていた1).本症例では来院時の全身状態が悪く,表在エコー,経胸壁心エコーにて血管径や大動脈径を計測しながらImpella® CPの留置を行った.本症例の両側大腿動脈径5.5 mmは添付文書上の最小血管径は上回っていたが,体表面積は1.04 m2と体格が小さく,全身状態も悪いためグラフトを介してのImpella® CP挿入を選択した.また円滑にピールオフシースを挿入するために6 mmグラフトの遠位に8 mmグラフトを端々吻合したが,実際には6 mmグラフトも伸展したため,8 mmグラフトは必ずしも必要ではないと考えられた.Impella® CP留置後はカテーテルシャフトまで血管内に留置し皮内のみグラフトを残すことが標準的であるが,カテーテルシャフトは体外のグラフト内に留置したことも,血管閉塞予防の工夫として有効であったと考えられる.留置直後にはImpella® CPの軸方向の回転のみで脱血不良がみられたが,計測では軸流ポンプ上部から大動脈弁までは40.3 mmあり,左室容量負荷の低減に有効な左室長は確保されていたため処置を終了した(Fig. 5).Impella® CP留置当日の有効大動脈弓幅はベッドサイドでのエコー所見から57 mmの条件を満たしていると判断されていた.後日有効大動脈弓幅を確認したところ,48.2 mm(Fig. 6b)だった.Impella® CP挿入時には,年長児であり上行大動脈と下行大動脈が完全には描出されていない状況での計測となっていた.Impella® CPの添付文書では有効大動脈弓径の計測方法としてFig. 6aが示されているが,年長児ではこのように上行大動脈とから下行大動脈までをエコーの一断面でとらえることは時に困難である.また,3年前に実施した心臓カテーテル検査での大動脈造影でみると,上行大動脈延長術後でバルサルバ洞から上行大動脈への径の変化が大きいこと,大動脈弓が屈曲していること(Fig. 7)などが測定誤差の原因となったと推定された.デバイスの屈曲を予防するためにはより鈍角にデバイスを挿入できる左右鎖骨下動脈または腋窩動脈からの挿入も検討すべきであった.

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Fig. 5 Transesophageal echocardiography measuring distance between inlet area and aortic valve of 40.3 mm, indicating left ventricular length was well preserved. Red arrow indicates inlet area

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Fig. 6 Measurement of effective aortic arch width. a. illustration adopted from the Instruction for Use; AA width=1/2 A+1/2 B+E, b. actual transthoracic echocardiography measurement of effective aortic arch showed 48.2 mm. AA: Aortic arch, AAo: ascending aorta, DAo: Descending aorta

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Fig. 7 Cardiac fluoroscopy performed 3 years prior to current admission. a. frontal image, b. lateral image. Red arrows indicate slightly kinked lesion of the aortic arch

結語

体格の小さな劇症型心筋炎小児例でV–A ECMOとImpella® CPの併用により,循環不全の改善,左室容量負荷の軽減を行い救命しえた症例を経験した.本報告はImpella® CPを体格の小さな小児へも使用できることを示した.

引用文献References

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