Journal of JCIC

一般社団法人日本先天性心疾患インターベンション学会（JCIC学会）では，1990年の開設当初から，先天性心疾患のみならず川崎病心血管後遺症や頻拍性不整脈を含めた包括的なカテーテル治療の発展に取り組んでおり，近年では，成人期に到達した先天性心疾患（adult congenital heart disease）へのカテーテル治療の領域も拡大してきた．これらのカテーテル治療手技・件数・合併症に関する集計データは，1998年から包括的な全国アンケートとして集計が行われた．このアンケート集計を発展，拡張させた事業として，オンライン登録による旧JPICデータベース（現日本先天性心疾患インターベンション学会レジストリー; JCIC-R）が2013年に開始され，3年後の2016年にアンケート集計からレジストリー登録へと完全移行した．現在，JCIC-Rに登録された集計データは，annual reportとして本誌に掲載されている^1–6）．JCIC-Rでは，登録者からの指摘や，本邦に新たに導入される治療手技に対応して登録システムを更新しており，治療手技，標的部位，有害事象の分類の細分化および，入力方法の改善を行っている．2022年の改変では，Pull-back法（Rashkind法）によるBalloon atrial septostomyの主な治療器具にZ-5を追加，肺静脈への介入部位をcommon chamberからvertical veinへ変更，デバイス閉鎖実施時の閉鎖栓選択を複数種類選択可能へ変更，患者情報とインターベンション情報に「Kawasaki disease」の追加が行われている．また，2021年にTPVIレジストリと連携可能なシステムがJCIC-R内に構築され，Sapien3（Edwards Lifesciences, Irvine, CA, USA）の市販後調査への本レジストリー利用が開始され，2022年にはHarmony経カテーテル肺動脈弁システム（Medtronic, Minneapolis, MN, USA）においても同様のシステム構築が進められた．現在，JCIC-Rの活動は，新規導入デバイスの市販後調査や学術研究へのレジストリーデータの利活用だけではなく，日本医療研究開発機構や医薬品医療機器総合機構の研究事業への応用などが行われている．また，レジストリーデータの質と悉皆登録の担保のために必要となるaudit（監査）は，remote型auditとして2020年に開始され，毎年2–3施設を対象に行われている．

2022年の1年間にJCIC-Rに登録されたカテーテル治療手技と有害事象の集計を報告する．

このannual reportでは，2022年1月1日から12月31日までの1年間に全国90施設からNational Clinical Database（NCD）内JCIC-Rに登録されたカテーテル治療を対象としている．

JCIC-Rでは，以下のすべての疾患に対するカテーテル治療手技と有害事象を包括的に対象としている．

• 小児期／成人期の先天性心疾患
• 川崎病心血管後遺症
• 正常心構造を含む小児期頻拍性不整脈／成人先天性心疾患の頻拍性不整脈

カウント方法として，従来通り「件数」は複数治療手技が施行された場合を含めた延べ数，「セッション数」は複数手技が施行された場合を一括とした治療件数，「例数」は年間に複数セッションが行われた場合に同一症例を一括とした症例数と定義しており，今回の集計では実質的なカテーテル治療の回数である「セッション数」を基本として示している．この際，「全体の集計数」と「個別の集計数の総和」は極めて近似するが，必ずしも一致しないことがあり得る．

また，JCIC-R開設当初は，主要手技を11種類のカテゴリーに分類していたが，時代の流れとともにHemostasis/Pseudoaneurysm coverage,Transcatheter Valve Insertion,Transcatheter Valve Clippingを新たな項目として追加しており，現在は14種類のカテゴリーに分類して登録を行なっている．

1. ①Septostomy（pull-back or blade BAS, except static BAS）
2. ②Balloon Valvuloplasty（BVP）
3. ③Balloon Dilation（BD）（including static BAS, except BVP, except stent-re dilation）
4. ④Stent Implantation
5. ⑤Stent Redilation
6. ⑥Coil Embolization
7. ⑦Device Closure
8. ⑧Foreign Body Retrieval
9. ⑨Thrombus aspiration/Thrombectomy
10. ⑩Hemostasis/Pseudoaneurysm coverage
11. ⑪PCI（percutaneous coronary intervention）
12. ⑫Transcatheter Valve Insertion
13. ⑬Transcatheter Valve Clipping
14. ⑭Ablation（Radio-frequency ablation and/or cryoablation）

この中で，さらに標的部位や使用した治療器具により細分類している．また，年齢層に関しては，これまでの報告と同様に，日齢28以下，29日以上1歳未満，1歳以上3歳未満，3歳以上15歳未満，15歳以上20歳未満，20歳以上の6群に分類している．

有害事象（adverse event; AE）については循環動態や全身状態への有意な影響をもたらすレベルの事象を定義している．厳密な定義づけはデータ収集において非常に重要であり，JCIC学会ホームページに掲載されている入力マニュアルや，JCIC-R（旧JPIC-DB）の総説^7）に記載され，データ入力画面でも明示されている．有害事象の中でも，死亡，生命を脅かすもの，一過性であっても治療介入しなければ生命を脅かすもの，以上3つは重篤な有害事象（severe adverse event; SAE）として分類している．

2022年の1年間に，4,536セッション（4,940件，4,419例）の治療手技が登録された．4,536セッションのうち，約400セッションで複数インターベンションが行われたことになる．例えば，バルーン拡張術での左右肺動脈などの標的部位の違い，塞栓術と拡張術の同時施行，デバイス留置術直後の脱落に引き続く回収術，ステント留置後の後拡張などが複数インターベンションに含まれる．4,536セッション中，非アブレーションのカテーテル治療は4,207セッション，アブレーションは330セッションであった．有害事象発生率は3.7％（非アブレーション3.9％，アブレーション1.5％）であった（Table 1）．総セッション数は2020年にJCIC-R開始後初めて減少となったが，その後はほぼ同数が維持されていた（Fig. 1）．

Table 1 Adverse event summary from JCIC-Registry during 2022

Fig. 1 Annual change of numbers of sessions since 2016. All procedures and sessions are registered into the online JCIC-R since 2016

Table 2に，使用された閉鎖デバイスの詳細を示す．併せて，デバイス毎の年齢分布，使用された病変について解析している．心房中隔欠損閉鎖デバイスでは，2021年と比較してGORE cardioform ASD Occluder（W.L. Gore & Associates, Flagstaff, AZ, USA）の使用頻度が増加し，Occlutech ASD Occluder（Occlutech International AB, Helsingborg, Sweden）とほぼ同数となっていた．動脈管閉鎖デバイスでは，Amplatzer Duct Occluder（Abbott, Plymouth, MN, USA）の使用頻度が最も高いが，続いてAmplatzer Piccolo occluder（Abbott, Plymouth, MN, USA）が多く使用されており，約3割を占めていた．また，経皮的肺動脈弁留置術デバイスとして，Sapien3（Edwards Lifescience, Irvine, CA, USA）が1例に使用されていた．

Table 2 Analysis of the closure device used during 2022

Fig. 2では，主要手技のうち，Foreign Body Retrieval, Thrombus aspiration/Thrombectomy, PCI（percutaneous coronary intervention）を除く8つのカテゴリーについて，セッション数と有害事象（AE），重篤な有害事象（SAE），死亡事例の発生状況を示す．手技別に見ると，前年の有害事象発生率が高かったstatic BASを除いたSeptostomyは，AE発生率，SAE発生率とも低下していた．stent implantationがAE発生率，SAE発生率とも全手技の中で最も高かった．非アブレーションでの死亡事例は2セッションで登録され，その発生率は0.04％であった．

Fig. 2 Incidence of adverse events according to Major Procedural Categories from JCIC-Registry during 2022

一方で，アブレーションにおけるAE発生率は数年の経過で減少傾向にあり，死亡事例は認められなかった．

Fig. 3に，Fig. 2で示した主要手技毎のAE発生状況をより詳細に示す．また，Fig. 4では，非アブレーションでのAEに着目し，その重症度と，心臓関連および非心臓関連のAEの発生状況について，詳細を示す．Table 3, 4では非アブレーション，アブレーション，それぞれにおける手技別，標的部位別の件数を示す．併せて，有害事象，死亡，年齢分布，使用器具について解析している．死亡事例の詳細をTable 5に示す．死亡事例の2例は2歳未満の低年齢であった．2例共複数手技が行われていたため，手技別に見るとBalloon dilationで2セッション，stent implantationで1セッションに死亡という報告となっている（Fig. 2, Table 3）．有害事象発生件数は，前年に比較し減少してはいたが，過去数年間で大きな変化はない．

Fig. 3 Detailed analysis of adverse events according to major procedural categories during 2022

Fig. 4 Detailed analysis of adverse events (AEs) focusing on non-ablation catheter intervention in 2022. The adverse events are illustrated by their severity and impact. They are also classified into cardiac and non-cardiac ones

Table 3 Analysis of the non-ablation (non-EP intervention) procedures

Table 4 Analysis of the ablation procedures

Table 5 Summary of the mortality cases

JCIC-R開始後，増加傾向であった総セッション数は，2020年に初めて減少となったが，その後はほぼ同数を維持していた．2020年より閉鎖デバイス毎の使用数の解析（Table 2）が追加され，1年を通しての各閉鎖栓の年齢別，病変別の使用数が判別可能となっている．ASD閉鎖デバイスの中では，2021年はOcclutech ASD Occluderが最多で，次いでAmplatzer Septal Occluderの使用数が多かったが，2022年はGORE cardioform ASD Occluderが増加し，Occlutech ASD Occluderとほぼ同数に使用されていた．また，TPVIデバイスとしてSapien3の使用が初めて報告された．本レジストリーは，今後も国内における各種デバイスの使用状況を把握する上で有用と考えられる．

AE発生率（対セッション数）は3.7％であり，過去5年間とほぼ同等の結果だったが，死亡事例は2例で，2021年の5例と比較し減少していた．手技別に見ると，stent implantationの有害事象発生率が例年通り高く，AE 7.2％, SAE 2.0％だった．その中で，右室流出路（RVOT）に対するstent implantationはAE発生率が28.6％と最も高く，SAEも14.3％だった．JCIC registryにおいて，RVOTに対するstent implantationは2020年に初めて登録され，2022年までの3年間に合計15セッションが行われていた．15セッション中，AE発生率は33.3％,SAEは20％と高く，1例の死亡症例が報告されている^5, 6）．日本国内では比較的新しい手技であり，まだ施行件数が少ないことから，実施に際してはAE発生リスクの高い手技であることを認識し，十分な事前準備を行ったうえで治療に臨む必要がある．

今回の報告で，2016年以降日本国内で実施された7年間の先天性心疾患，川崎病心血管後遺症，正常心構造を含む小児期頻拍性不整脈に対するカテーテル治療手技と有害事象の包括的リアルワールドデータが蓄積されたことになる．JCIC-Rは当初から，ベンチマーキング（患者説明や自施設治療成績のための参照データ），リスク層別化研究，学術的な多施設共同研究，新規医療機器導入および認定事業等，多方面に有効活用されることを主眼としていた．そのため，基礎疾患診断名（fundamental diagnosis）と既往手術手技名は，STS（the Society of Thoracic Surgeons）データベースとJCVSD Congenital（日本先天性心臓血管外科データベース先天性部門）に共通の分類を踏襲している．そして，治療手技，標的部位，合併症についても，国内外において行政や企業への情報共有が可能な専門用語にもとづき細分化されている．従来と同様に，患者および家族への説明や，合併症へのリスク管理，臨床研究，新規医療機器および技術導入に活用できるものと考えられる．また，annual reportとして本誌へ掲載されることにより，わが国の現状を学会発表や論文において，出典を銘記した上で有力な情報として引用できるようになっており，今後，JCIC-Rのさらなる学術的データ利用の促進と，JCIC認定医・閉鎖栓施設術者認定業務への利活用が進められている．