心房中隔欠損と動脈管開存用閉鎖栓の回収手技
昭和大学病院 小児循環器・成人先天性心疾患センター
経皮的心房中隔欠損閉鎖術,経皮的動脈管開存閉鎖術は,近年あらたな閉鎖栓の導入などで安全性が向上し,適応も拡大されている.しかし,有害事象の一つである閉鎖栓の脱落は完全には克服されておらず,脱落した閉鎖栓の回収方法は十分には確立しているとはいえない.脱落した閉鎖栓の回収方法に関する知識は,術者にとって安全に手技を行う上で必要不可欠であるが,一方で,各術者が実際の臨床で十分に経験を積むことは困難である.JCIC-CVIT教育委員会 医療安全部会では,本邦で心房中隔欠損,動脈管開存に使用されている閉鎖栓,AMPLATZER® septal occluder(Abbott, St Paul, MN, USA),Figulla® Flex II(Occlutech GmbH, Jena, Germany),AMPLATZER® duct occluder(Abbot),AMPLATZER® duct occluder II(Abbott),AMPLATZER® Vascular Plug II(Abbott)に関して,閉鎖栓回収手技のベンチテストを行い,その結果に基づいて適正と思われる回収手技,必要物品を検討してきた1).今回,新たに導入されたGORE® Cardiofrom ASD occluder(GORE Medical, Flagstaff, AZ, USA),AMPLATZER® Piccolo occluder(Abbott)に関しても追加でベンチテストを行い,従来の閉鎖栓と併せてその結果を整理し,適正と思われる回収手技,必要物品に関して総括した.
Key words: Catheter intervention; Atrial septal defect; Ductus arteriosus; Device embolization; Percutaneous retrieval of embolized device
© 2023 一般社団法人日本先天性心疾患インターベンション学会
先天性心疾患のカテーテル治療において,心房中隔欠損,動脈管開存の閉鎖術は欠くべからざる手技となっている.新たな閉鎖栓の導入,技術の向上により,対象となる患者の適応は拡大し,かつ安全性も向上しているが,有害事象の一つである閉鎖栓の脱落は完全には克服されたとは言えない2).脱落した閉鎖栓の回収に際して,スネアカテーテルやロングシースなどを用いた基本的な手技の習熟,各閉鎖栓の構造的な特徴を熟知,適切な回収方法を計画する知識は,術者にとって安全に手技を行う上で必要不可欠であるが,これらの手技は閉鎖栓の種類,サイズ,脱落した閉鎖栓の部位,体格によって様々であり,完全には確立されたとはいえない3–11)
.また,各術者および施設の方針により,外科的回収を優先する場合もあり,その判断は術者にゆだねられている.一方で,各術者が臨床の現場で閉鎖栓の回収に遭遇することはまれであり,実臨床で十分な経験を積むことは困難である.JCIC-CVIT教育委員会の医療安全部会では,AMPLATZER® septal occluder(ASO)(Abbott, St Paul, MN, USA),Figulla® Flex II(FF II)(Occlutech GmbH, Jena, Germany),AMPLATZER® duct occluder(ADO-I)(Abbott),AMPLATZER® duct occluder II(ADO-II)(Abbott),AMPLATZER® Vascular Plug II(AVP-II)(Abbott)に関して,ベンチテストなどから閉鎖栓の種類や脱落した閉鎖栓の部位ごとに回収方法について検討を行ってきた.今回,新たに導入されたGORE® Cardioform ASD occluder(GCA)(GORE Medical, Flagstaff, AZ, USA),AMPLATZER® Piccolo occluder(Abbott)に関しても追加でベンチテストを行い,従来の閉鎖栓と併せてその結果を整理し,適正と思われる回収手技,必要物品に関して総括した.各閉鎖栓の回収手技と必要物品の要点はTable 1に記載した.
経皮的心房中隔欠損閉鎖術,経皮的動脈管開存閉鎖術を行う場合,使用する可能性がある全ての閉鎖栓に関して閉鎖栓脱落時の対応を想定して,回収手技に必要な物品を事前に準備しておく必要がある.物品にはスネアカテーテルなどの閉鎖栓を把持するデバイス,把持した閉鎖栓を回収するためのロングシースなどがあり,これらは,閉鎖栓の種類のみならず,閉鎖栓のサイズ,脱落した閉鎖栓の部位,想定されるデバイスの把持部位,患者の体格などにより異なるため,様々な状況を想定した準備が必要である.使用される回収器具にはグースネックスネアやマイクロスネア,OSYPKA LASSOS®スネア(Osypka ag, Rheinfelden-Herten, Germany),バイオトームなどがある(Fig. 1).最も頻用されるグースネックスネアやマイクロスネアには専用のカテーテルが付属しているが,ストレート形状で柔らかいため,一般の造影用カテーテルを使用した場合と比較すると閉鎖栓にスネアを誘導しにくく把持力が弱い(Fig. 1-a).そのため,グースネックスネアを用いる際は,右冠動脈用ジャドキンス形状あるいはマルチパーパスカテーテルなどの造影用カテーテルを使用する方が好ましいことが多く(Fig. 1-b),グースネックスネアに適合する造影用カテーテルの準備も必要である.使用するカテーテルの先端形状は,回収する閉鎖栓の位置や向きに合わせて選択するとよい.スネアのループ部分を標的に誘導しえた後にループを縮めて把持を行う際,スネアを手前に引くのではなく,スネアを固定してカテーテルを押すことで,ループの位置をずらすことなく標的を把持することが可能となる.スネアで標的を把持したら,カテーテルの押すテンションとスネアの引くテンションを維持した状態で鉗子を用いてスネアとカテーテルを固定する.このような操作は,基本的なスネアの使用方法として,体外でこの操作に慣れておくとよい.グースネックスネアの代替として,OSYPKA LASSOS®スネア(Fig. 1-c)が用いられる場合がある.スネアとカテーテルが一体となった構造で,グースネックスネアに比較してシャフトが硬く,ループが大きいため標的への誘導がしにくい反面,把持力が強い特徴があり,状況によって有用な場合がある.現在本邦では販売中止となったが,OSYPKA CATCHER®などの鉗子型スネアのように「かえし」を有する触手を持つ回収用器具も用いられることがあるが,このような器具では「かえし」部分が閉鎖栓のワイヤー絡まり,一度把持すると外れなくなる可能性があるため極力使用を避ける方が好ましい(Fig. 2).ロングシースは,閉鎖栓に付属したデリバリーシースを用いる場合もあるが,シースサイズに限界がある.また,付属のデリバリーシースでは先端は柔らかいチップがついたものがあり,閉鎖栓を引き込む際に内側への折れ込み(infolding)が生じることがある(Fig. 3).この現象は閉鎖栓のシース内への引き込みをしにくくし,回収手技を難しくする可能性があるため,可能であれば余裕のある大きめのサイズのデリバリーシースを用いるか,14 Fr以上の大きなサイズのロングシースを別途用意することで回収手技が容易となる.筆者らの施設では,メディキット社製のロングシース14 Fr, Cook社製のCheck-Flo® 18 Frを常備するようにしている.事前のブリーフィングで脱落のリスクを十分に評価し,ハイリスクと予想される症例においては十分な患者への説明,心臓血管外科チームとの事前の情報共有が必要であることは言うまでもない.
閉鎖栓の脱落に覚知した段階で,留置手技中で測定が可能な状況であればACTを測定する.既に帰室している場合,ACTが測定できない状況であれば,体格に応じてヘパリンを投与する.心臓血管外科チームへ連絡し,経皮的に回収するか,外科的に回収するかの協議をおこない回収方針を決定する.経皮的に回収する方針となった場合には,心臓血管外科チームに回収が困難となった場合のバックアップを依頼する.患者,ご家族に十分な説明を行う.閉鎖栓の位置,向きなどを確認した上で,回収方針,必要な血管へのアクセスの決定,回収方法について計画を立て,チーム内で情報を共有し,必要な物品の確認,必要に応じて追加の物品準備を行う.回収手技を開始した後は,適宜(おおよそ30分毎)ACTを測定し180–250秒の間でコントロールされるように十分なヘパリンの追加を行う.
現在,国内ではASO, AMPLATZER® Cribriform Multifenestrated Septal Occluder(Abbott, St Paul, MN, USA),FF II, GCAの4種類の閉鎖栓が使用可能であり,それぞれの閉鎖栓で把持する標的部位の形態や性状や,閉鎖栓そのものの構造が異なるため(Fig. 4),必要な回収手技に違いがある.
閉鎖栓が心房中隔に留置された状態の場合には,極力その状態を維持するように努め心腔内に脱落させないように留意して回収手技を行う.この場合,ASOでは右房側のエンドスクリュー部(Fig. 4-a),FF IIでは右房側のハブ部分(Fig. 4-b),GCAでは右房側のアイレット部分(Fig. 4-c)を把持しての回収を試みる.詳細は後述するが,GCAでは右房側アイレット本体ではなくアイレットの根本(アイレットとリーフレットの接続部)を深く把持する必要がある.回収に用いるロングシースのサイズに関して詳細は後述するが,一般的に大きなサイズの閉鎖栓では12から14 Fr以上のサイズが望ましい.各閉鎖栓の推奨シースサイズ+2 Frのシースサイズで回収可能な場合もあるが,回収手技の途中でのシース交換が困難なため,体格やアクセスする血管径から許容できる範囲でなるべく大きなサイズのシースをはじめから用いることが望ましい.先に述べたが,筆者らの施設では,メディキット社製のロングシース14 Fr, Cook社製のCheck-Flo® 18 Frを常備するようにしている.ロングシースの先端を斜め,あるいは縦方向にカットすることで回収が容易になる場合があるが,TorqVue™など先端にマーカーが溶着されたシースを用いる場合には,シース先端をカットすることで先端マーカー部が脱落する恐れがあるため,マーカー部分でカットを行うことは避けるほうが望ましい.筆者らの施設ではシース先端はカットせずに用いることを原則としている.
心腔内や肺動脈に脱落した状態の場合には,基本的に閉鎖栓の右房側を把持する必要があるため,カテーテルやガイドワイヤーを用いて閉鎖栓の向きを変える必要がある.必要に応じて血管のアクセスを追加し,バイオトームや,ガイドワイヤーを用いて閉鎖栓を固定したのちに把持を行うと良い場合がある.右心室,左心室内で閉鎖栓を把持する作業を行うと,房室弁や弁下組織を損傷する可能性があるために避けることが望ましく,右室では肺動脈に押し出すか,心室期外収縮の誘発で右房または肺動脈に移動させることを試みる.仮に右室内で閉鎖栓を把持できた場合でも,閉鎖栓をそのままのサイズで無理に房室弁を通過させると,同じく弁や弁下組織を損傷する可能性があるため避ける方が望ましい.
大動脈に脱落した場合には,左右大腿動脈に1箇所ずつ計2箇所のアクセスを確保して,一方から挿入したガイドワイヤーやスネアカテーテルを用いて閉鎖栓を固定することで手技が容易となることがある.必要に応じて,カットダウンやスーチャーデバイスの準備を行う.特に高齢者や動脈壁の粥状硬化,石灰化を認める症例では,回収手技中,デバイス自体や回収用デバイスで大動脈壁損傷が生じるリスクや塞栓症のリスクに十分に注意を払う必要がある.ロングシースの挿入は,大腿動脈のサイズ・走行をあらかじめ評価してから行う.高齢者では,大腿から腸骨動脈に蛇行や石灰化が存在するため,シースが安全に挿入可能かどうかの確認が重要である.また,小児の場合,大腿動脈に大きなサイズのロングシースを挿入することで大腿動脈の損傷を引き起こすことがあるので,あらかじめエコーや造影等で血管径を計測し,血管径を超えない外径のシースサイズに留める必要がある.大腿動脈からのシース挿入が困難な場合には,ガイドワイヤーやスネアカテーテルを用いて大動脈弓部分に脱落した閉鎖栓を固定し,外科的回収を行うことを考慮する.大動脈での回収手技で閉鎖栓留置用のデリバリーシースを用いる場合には,シースからの失血が多くなるため,あらかじめ止血弁を用いて出血をコントロールする必要がある.Occlutech製のデリバリーシースは,11 Fr, 12 Frでは,国内で販売されている三方活栓や止血弁が合わないため,接続部位から失血が生じる.静脈側での手技では大きな問題にはならないが,大動脈での回収作業を行う場合,大動脈の高圧により失血量が増加するリスクがあるため,留意が必要である.
エンドスクリュー部(Fig. 4-a)の把持には,10 mmないし15 mmのグースネックスネアを用いる.スネアに付属した専用のカテーテルではなく,4 Frないし5 Frの右冠動脈用ジャドキンス形状あるいはマルチパーパスカテーテルなどの造影用カテーテルを使用する方がスネアを標的に誘導しやすく,把持力も強い.12 Frや14 Fr,あるいは各閉鎖栓の推奨シースサイズ+2 Frのシースサイズで回収可能だが13),エンドスクリューとシースの先端が同軸方向に整列した状態にならないとエンドスクリューがシース先端に引っかかって引き込まれないため,適宜スネアカテーテルにトルクをかけて,同軸方向に整列するように誘導する.シースサイズがなるべく大きい方がこのプロセスが簡便となる.後述するダブルスネアテクニックを用いることで,エンドスクリューをシースと同軸方向に誘導できる場合がある.26 mmを超える閉鎖栓を回収する場合,スクリュー部を把持した後,内頸静脈からアプローチした生検鉗子で左房側ディスクの一部をつかみ,上下に進展すると回収が容易になることがある5)
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右房側のバブ部分(Fig. 4-b)がASOと異なりボール状の形状をしているため,グースネックスネアで把持をしても,シースに引き込む際に把持力が不足して滑脱しまうことがあるため注意が必要である.特に閉鎖栓のサイズが大きい場合には,一本のスネアでは滑脱しやすく,Haらが報告したダブルスネアテクニックが有用である12).ダブルスネアテクニックを用いる際は,右冠動脈用ジャドキンス形状の造影用カテーテルを2本使用し,互いに180度反対方向から把持を行うことで,右房側ハブをシース内に誘導しやすい利点がある(Fig. 5).前述のとおり,ASOの回収にも応用可能である.15 mm以下の小さいサイズのデバイスでは,一本のグースネックスネア(シングルスネア)でも回収が可能な場合がある8).OSYPKA LASSOS®は把持力が強く,一本で右房側のハブを把持しても回収が可能な場合がある(Fig. 6).FFIIが心房中隔に留置されている場合,ハブ部分にスネアなどを用いて同軸上にデリバリーシースを圧着できた場合には,デリバリーケーブルのデタッチ機構により回収できる場合がある.Occlutech製のデリバリーシースは,11 Fr, 12 Frでは,国内で販売されている三方活栓や止血弁がフィットせず接続部から失血が生じることに留意する.静脈側での手技では大きな問題にはならないが,前述のとおり大動脈での回収作業を行う場合,大動脈の高圧により接続部からの失血量が増加するリスクがあるため注意が必要である.大動脈での回収時にOcclutech製のデリバリーシース用いる場合には,可能な限り,国内で販売されている三方活栓や止血弁がフィットする9 Fr以下のサイズに留めるか,Occlutech製以外のロングシースを用いる方が望ましい.
GCAの回収方法は,添付文章内には「最初にスネアで左房アイレット又は右房アイレットを捕らえることでオクルーダーの再捕捉を試みる.必要な場合,オクルーダーフレームのどの部分をループスネアで捕らえてもよい.」と記載されている.しかし,筆者らが行ったベンチテストの一部は添付文書と必ずしも一致しない場合があるため注意を要する.具体的には,1)アイレット自体がゴアテックスで被覆され表面が非常に平滑であるため,グースネックスネアで把持すると容易に滑脱し把持すること自体が困難であること,2)左房側アイレット,ロックループを把持した場合,後述の理由で回収が困難であること,3)それぞれのリーフレットはゴアテックスシートで連続的に被覆されているため,グースネックスネアでリーフレットを把持することはが困難であることなどであり,これらの理由から,GCAの回収手技はASOやFFIIと比較して技術的に難易度が高いと推察される.
回収手技においては,グースネックスネアを用いる場合,原則的に右房側のアイレット部(Fig. 4-c)を把持することが好ましい.アイレットの表面は非常に平滑でスネアが容易に滑脱するため,右房側アイレット本体(Fig. 7-a)ではなくアイレットの根本(アイレットとリーフレットの接続部)を深く把持することで十分な把持力を得ることが可能である(Fig. 7-b).アイレットおよびリーフレットのワイヤーフレームはエックス線透視で視認が可能であるため,エックス線透視の角度を工夫することにより,アイレットとリーフレットの接続部を把持できているかをエックス線透視下で確認できる(Fig. 7-c).アイレットがシース内に収納される際,その構造上,アイレットの長軸はシース先端の長軸方向と90度に倒れて引き込まれる(Fig. 8).したがって,アイレットの長さ以上のシース内腔サイズが必要となる.GCAのアイレット長は,閉鎖栓のサイズが大きくなるほど段階的に長くなるため,回収に必要なシースサイズは,推奨シースサイズ+2 Fr以上(27 mm, 32 mmでは12 Fr, 37 mm以上では14 Fr)が必要である点に注意が必要である.ロックループの向きによってシースへの収納されやすさが異なり,ロックループがカテーテルの先端方向に向いているとアイレットがスムーズにシースに収納されやすいが(Fig. 7-b),ロックループがカテーテルの先端と反対方向に向いている場合(Fig. 7-d)はシースの先端にアイレットが引っ掛かりやすくシース内に収納しにくい場合がある.ダブルスネアテクニックも有効な可能性があるが,原則的に少なくとも一方のスネアが前述のアイレットとリーフレットの接続部を把持していることが必要となる.ロックループ自体をグースネックスネア把持することは可能であるが(Fig. 7-e),十分な把持力が得られないため,シースに引き込む際に容易に滑脱する.左房側アイレットの先端部にはループ状のワイヤーフレームが露出しており,大きなサイズの閉鎖栓では,アイレットが90度倒れてシースに引き込む際にこの先端のワイヤーフレーム部分の長さが余剰となってシースに引き込むことができない(Fig. 7-f).右房側のアイレットを把持する際,例外的にOSYPKA LASSOS®を用いると,スネア自体の把持力が強いためアイレット中央を把持してもシースに収納可能である(Fig. 7-g).アイレットはOSYPKA LASSOS®を用いた方がシース先端の長軸方向に整列する形で引き込まれる.バイオトームでリーフレットの一部を把持することは可能であるが,単独では把持力が弱くシースには引き込むことはできない.18 Frシースを用いた場合,リーフレットの一部をバイオトームで把持し,同部位をさらにOSYPKA LASSOS®で把持すると,シース内に閉鎖栓を引き込むことが可能であった.同様の手技はグースネックスネアでは把持力が弱く回収はできなかった.
現在,国内ではADO-I, ADO-II, AMPLATZER® Piccolo occluderの3種類の閉鎖栓が使用可能であり,オフラベルではあるがAMPLATZER® Vascular Plug II(AVP-II)が用いられる場合もある.それぞれの閉鎖栓で回収手技に違いがあり,なかでもADO-Iは他と比較して硬く,内部にファブリックが存在するため,回収手技が際立って困難であることを念頭に置く必要がある.
心房中隔欠損用閉鎖栓の場合と同様,閉鎖栓が動脈管内に留置された状態の場合には,極力その状態を維持するように努める.特に大動脈側に脱落した場合,回収手技が非常に困難となる可能性があるため,十分に注意する.大動脈側に脱落した閉鎖栓の回収に関しては,心房中隔欠損用閉鎖栓の項に既に記載したためご参照頂きたい.特に体格の小さい小児では,大腿動脈からロングシースを挿入することが困難で,動脈管経由で回収できることがある.大腿動脈から十分なサイズのシースを挿入することができず,動脈管経由で回収できない場合には,ガイドワイヤーやスネアカテーテルを用いて大動脈弓部分に脱落した閉鎖栓を固定し,外科的回収を行うことを考慮する11).肺動脈側に脱落した場合には,比較的回収手技は容易となるが,手技中,ロングシースが三尖弁,右室を通過するため,体格の小さい小児に大きなサイズのロングシースを用いる場合には血行動態の変化に十分に注意しながら手技を行う必要がある.
動脈管内に固定された状態で回収を行う場合,静脈側からシースを近接させ,エックス線透視の拡大像を確認しながら再度スクリューインを試みると回収可能な場合はある.肺動脈に脱落した状態では,ロングシースを肺動脈まで進め,グースネックスネアを用いて回収を行うことになる.閉鎖栓の肺動脈側が近位に向いている方が閉鎖栓の把持が容易となるため,カテーテルやガイドワイヤーを用いて閉鎖栓の向きを回収しやすい方向に回転させる必要がある.8/6以下のサイズの閉鎖栓では,閉鎖栓のボディ部分を把持して10 mmまたは15 mmのグースネックスネアで把持し,推奨シースサイズ+4 Frのロングシースで回収を行う(Fig. 9).ボディ部分の中央よりやや肺動脈側の端を把持した場合には,+2 Frのロングシースでも回収可能な場合がある(Fig. 10).十分に体格が大きい患者では,最初から十分に大きなサイズのシースを肺動脈まで進め,閉鎖栓のボディ部分を把持して回収する方が容易である.10/8以上のサイズの閉鎖栓ではエンドスクリュー部を5 mmループのスネアで把持し,推奨シースサイズ+2 Frのロングシースで回収が可能である(Fig. 11).8/6以下のサイズの閉鎖栓では,エンドスクリュー部は4 mmマイクロスネアで把持することが可能であるが,付属のカテーテルでは回収する際の把持力が弱いため,4 Frのマルチパーパス型の造影用カテーテルなどを用いる.
ADO-IIはADO-Iと比較して非常に柔らかい構造で,内部にファブリックがないため,回収が容易である.しかし,付属の推奨サイズのデリバリーシースでは回収は不可能であり,推奨シースサイズ+1から+2 Frのロングシースで回収が可能である.ADO-II 6/4はエンドスクリュー部もしくは対側のマーカーバンド部をグースネックスネアで把持した場合,閉鎖栓中央をグースネックスネアで把持した場合のいずれの場合も4 Fr以上のシースで回収が可能である.エンドスクリュー部を把持した場合,同部位が折れ込む形シース内に収納される(Fig. 12).
基本的にADO-IIに準じた方法で回収が可能で,ADO-II 8 mmはエンドスクリューもしくは対側のマーカーバンド部をグースネックスネアで把持した場合,閉鎖栓中央をグースネックスネアで把持した場合のいずれの場合も推奨シースサイズと同径の5 Frのロングシースで回収が可能である.
Piccolo occluderは,ADO-IIと比較して,さらに柔らかいため,回収自体は容易であるが,体重700 g以上の早産低出生体重児が対象となる点に十分配慮が必要である.また,後述するとおり,他の閉鎖栓と異なりエンドスクリュー部を把持した場合に回収困難な場合があるため,動脈管内に存在する閉鎖栓を回収する際に注意が必要である.肺動脈内への脱落で状況が許せば,4 Frのロングシースを用いて閉鎖栓の中央を把持して回収するのが無難と思われる(Fig. 13).4 Frのロングシースを用いた場合,グースネックスネアもしくは,マイクロスネアを用いて閉鎖栓中央ないしエンドスクリューと対側のマーカーバンド部を把持した場合に回収が可能であるが,エンドスクリューをグースネックスネアで把持すると,把持力が弱く,シースに引き込む際に滑脱するため注意が必要である.エンドスクリュー部を把持する場合には,7 mmのマイクロスネアを用いると回収が可能である.付属のTorqVue™ LPを用いる場合,TorqVue™ LPにグースネックスネア単体を挿入して使用すると回収ができないが,7 mmのマイクログースネックスネアとマイクロスネアを組み合わせて,同軸でTorqVue™ LPに挿入して使用すると推奨サイズのTorqVue™ LPで回収が可能である(Fig. 14).この方法では,閉鎖栓中央ないしエンドスクリューと対側のマーカーバンド部を把持した場合には回収が可能であるが,エンドスクリュー部を把持した場合にはエンドスクリューが折れ込んでシースに収納されないため回収ができない(Fig. 15).以上より,動脈管内にある閉鎖栓を回収する場合,7 mmのマイクロスネアでエンドスクリューを把持して4 Frのロングシースを用いて回収することが必要である.
JCIC-CVIT教育委員会の医療安全部会で行ってきた従来の回収経験やベンチテストの結果に基づいて,閉鎖栓の種類やサイズごとに適正と思われる回収方法について概説した.安全に閉鎖手技を行うための準備やトラブルシューティングの際の参考になれば幸いである.
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